第96話 ちょうどお師匠様の後ろにいる

 しかしながら、弟子になったからと言って、俺と隷属契約を結んだと言って、必ずしもシシルの相手をしなければならないという事はないのだ。


 最悪無視でいいだろう。


 もしくは姉弟子として敬われているフレイムに全てを押し付けても良いのである。


 やりようはいくらでもあるのだ。 そう悲観的になる必要は無いだろう。


 そう思うと少しだけ肩の荷が降りた気がした。


 そもそも俺は奴隷だからといってよっぽどのことが無い限り今まで命令をして来ず、基本的には奴隷達各々の自主性に任せてきたのだ。


 そしてシシルと隷属契約をしたからといってその方針を変えるつもりは毛頭無いのである。


 ならば今までと何も変わらないのではなかろうか?


 と、この時の俺はダークエルフの習性というか常識を、そのお互いの常識のズレで痛い目を見たばかりであるというのに、まったくもって反省していなかったという事を思い知らされる羽目になるのだが、誰があんなことになると分かるのかと言いたい。


「それで、シシルは僕に何かお願い事があるようだけど、それはなんだったの?」


 そして俺は、安心したのかシシルを隷属の事など取るに足らないことだと思考の隅へ追いやって、シシルのお願い事とやらを聞いてみる。


「そうだな……私を強くしてくれ。 いずれ倒さなければならない強敵がいるんだ。」

「そんな事ならば、ちょうど君にとって姉弟子と兄弟子がいるのでそいつらに色々とおしえてもらうが良い。 姉弟子はもちろんフレイムなのだが、兄弟子はキースという体術使いです。 どちらもここ最近メキメキと力をつけてきているのできっとシルルも満足いくと思う」

「あ、ありがとうございますっ!!」


 そしてシシルの返答は『倒したい相手がいるから強くなりたい』というものであった。


「ちなみに、その倒したい相手って誰なの? 言いたくなければ別に無理して言う必要は無いからね? いくら隷属関係にあるといっても命令して無理矢理俺の意見に従わせるなどという事は基本的にはしないから、その点に関しては安心して」

「……ありがとう。 実は私の生まれ育った村はとある魔獣によって壊滅的なダメージを負ってしまってな。 死者こそ少なかったんだが、それでも家や畑を荒らされてしまった為にかなり苦労をしたもんだ。 そしてその魔獣は私の両親を殺した。  そう、ちょうどお師匠様の後ろにいるような魔獣だったぜ」

「なるほど……はい? いやいや……えぇっ!?」


 そしてシシルの故郷はとある魔獣により壊滅的なダメージを受けてしまい、その時にシシルの両親を殺されたと言うので一体どんな奴かと思い、後ろを振り向いてみると身の丈三メートルかと思える巨大なカマキリがそこにいいた。

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