第93話 有効活用してもらおう

 先ほどまでうるさかった猿達は俺の風魔術ひとつで静かになる。


 風魔術の強いところは魔力を感知するように目に魔力を通わして魔力の流れを予め見えるようにしておかなければならなず、そうしなければ目視で確認できないという点である。


 そして当然この青赤黄色の信号色カラーの猿たちはそんなことなどわかる訳もなく、俺が何か言ったかと思った次の瞬間には、猿たちからすればいきなりボス猿であるシルバー黄色猿とその周辺にいた猿達の首が切り落とされたのである。


 声を出すのも恐ろしい程の恐怖心に支配されてしまったのであろう。


 そして動いた瞬間に殺されるかもしれないという恐怖もあり、猿達は声を出すことも動くこともできずにただ俺の一挙手一投足を見つめる事しかできないようである。


 しかしながら今現在で畑への被害がちらほらと出ている以上これ以上増やすわけにもいかない為、当然ながら威嚇して人里に来ないように武力でわからせたところでイタチごっこが始まるだけで根本的な解決にはなりえない。


 そもそもここタリム領ではこの猿達によって毎年数名の人間が行方不明になっている。


 その原因はこの猿たちで間違いないために、人喰い猿達には情け容赦をかける必要はないだろう。


 そのため見つけたら殺す。


 前世の感覚がまだ残っていた時は魔物といえど生き物を殺すと言う事には抵抗があったのだが、それでも俺たちはこうした魔物や動物の命を頂いて生きている以上『可哀想』と言う感情は偽善でしかなく、発展して暮らしが豊かだからこそ持てる思想であることは理解している。


 この世界の帝国は確かに他国と比べれば発展しており豊かではあるのだが、それででも前世の日本と比べればまだまだ貧しい国であるし、文明レベルも中世後期レベル。 その為帝国の子供達は野鳥を捕まえて自分で絞めて食べるという事も遊びの延長線上として経験しているものが多く可哀想と言う感覚を持つものは極めて少ない。


 その代わり命のありがたみというのは強く感じているようで食べ物を残すという者はほとんどいない。


 どちらが良いかなどと比べるような事ではないのかもしれないが、可哀想と言いながら食べ物を残すような人にはなりたくないと思っていた俺は可哀想だからと殺さない選択肢はしない。


 そして、だからこそこの猿達も命を頂いたからにはしっかりとギルドに卸して、できる事ならば骨の一本まで有効活用してもらおう。


 そう思いながら自分の中にある罪悪感から意識を逸らしつつ信号色の猿を討伐し終えると、二年前のフレイムの誕生日にプレゼントした収納袋へと討伐した猿達のをフレイムにお願いして収納していってもらう。

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