第88話 ほどほどに

「みろ、あれがフレイムちゃんを死地から救い出したここの領地を収めるウェストガフ家の次男、ローレンス様だ」

「あ、あれがローレンス様……そのお姿からも知性溢れ高潔かつ慈愛に満ちたお方であることが窺えてくるようだ……。 俺はあんなお方に対して蔑むような言葉で貶め、フレイムちゃんの気を引こうとしていたのか……。 そりゃ髪の毛を焼き払われても仕方ねぇな。 だって、あのお方がいなければフレイムちゃんは既にこの世からいなくなっていたかもしれないし、あんな笑顔でご主人様と楽しそうに歩くこともなかったというのに……俺ってやつは……っ!! まだ俺には髪の毛を伸ばす資格はねぇと再確認したぜっ!!」

「あぁ、その気持ちは痛い程良くわかる。 なんせ俺だってその一人だからな。 むしろあそこでフレイムちゃんに止めて貰わなければどうなっていたか想像するだけでも恐ろしい。 知らなかったとはいえ貴族、それも侯爵家の次男であるお方の所有物を本人の許可なく勝手に手を出そうとしていたのだからな。 拷問された上で殺されていたかもしれないと思うと俺はフレイムちゃんには一生頭が上がらねぇし、禊足りないと思ってしまう。 その結果未だに俺は髪の毛を伸ばす事すら出来ねぇ」

「お、俺もだっ!!」

「俺も俺もっ!!」

「お、俺は自らの意志で剃って来たが、フレイムちゃんの事を思うと髪の毛を剃らずにはいられなかったぜっ!!」

「その気持ち、すげぇ分かるっ!! だから俺も髪の毛自分で剃ったからな」

「お前は元から髪の毛無かっただろうがっ! 嘘つくんじゃねぇよっ!!」

「よ、横は生えてたしっ!!」


 そしてそのまま耳に魔力を集中させて聞き耳を立てていると、スキンヘッド数名と禿げ一名の会話が聞こえてくる。


 それにしても……フレイムは一体何をこのギルドでやって来たのか、真実を知るのが怖くなてきたので俺はあえて聞かないでおこう。


 女性の髪は命とは良く聞くのだが男性の髪の毛は時に女性の髪の毛以上に大切にしてあげなければならないというのに……男性達の会話を盗み聞きして聞こえてきた内容によるとフレイムは男性達の髪の毛を燃やしているらしい。


 なんて恐ろしいことをフレイムはしているのだっ!? とは思うもののギルドからまだ正式に何も苦情が来てないのでなぜフレイムが男性達の髪の毛を燃やしているのかという真実も後回しで良いだろう。


「どうしました? ご主人様」

「いや、その、まぁ、ほどほどにな、フレイム。 ほどほどにだぞ?」

「?……良くわかりませんが、わかりましたっ!! ほどほどにですねっ!!」


 

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