第86話 綺麗さっぱり無くなっている

 そうフレイムちゃんが怒ったかと思った次の瞬間、俺の視界は真っ赤に染まり、そして頭から冷水をぶっかけられたかと思ったらフレイムちゃんの尻尾で思いっきり吹き飛ばされてしまった。


 うん。 フレイムちゃんの尻尾ビンタは癖になりなりそうだ。


 なんて事を思ったところで俺の記憶は途切れて、次に目覚めた時にはギルドの外に放りだされていたらしくギルドの外の景色であった。


 そして道行く人々が俺の頭、おもに頭皮を見るなり「あぁ、赤竜姫のフレイムちゃんに喧嘩を売ったんかコイツ」「どうせ赤竜姫のフレイムちゃんの名前を本人許可も無く呼んだんだろう」「顔も見たことないからどうせこの町では新顔でランクだけは高い、勘違いしているナンパ師紛いの冒険者だろう」とか言いながら、まるでよくある光景だと言わんばかりに過ぎ去っていくではないか。


 俺をバカにしたような内容に腹が立つのだが、それよりも通行人全員が俺の顔ではなくて髪の毛部分を見ながら通り過ぎて行くのが気になってしまい、落書きでもされているのだろうかと窓ガラスを覗き込み、そこにうっすら映り込む自分の顔を確認する。


「…………は?」


 するとそこには少し前までは確かにあったはずの髪の毛(親から良く『チャラチャラしてうっとおしいから切ってこい。 その歳で恥ずかしくないのかいっ!」と小言を言われる俺の自慢の髪の毛)が綺麗さっぱり無くなっているではないか。


「はぁぁぁぁぁあああっ!? 何で俺の髪の毛が無くなっているんだよっ!?」


 意味が分からない。


 しかしながら俺を見て嘲笑している通行人たちはどうして俺の髪の毛が無くなったのか知っているようなので、通行人の一人を捕まえて聞いてみる事にする。


「おいそこのお前っ!! どうして俺の髪の毛が無くなったのか説明をしろやっ!!」

「え? は? 何だよいきなり気持ち悪いっ!! どうせお前僕らのアイドルのフレイムちゃんの名前を本人の了承を得ずに勝手に使って呼んだ上にかなり失礼な事を言ったんだっ!? ろどうせフレイムちゃんの命の恩人であるローレンス様の事を悪く言ったんだろっ!? だから髪の毛を燃やされて禿げ頭にされてんだよっ!! 髪の毛が生え揃えるまではこの町では後ろ指を指されて過ごすんだなっ!!」


 そして男性は俺の腕を乱暴に振り解いた後「今度フレイムちゃんに失礼な態度を取ったら髪の毛だけじゃ済まないからなっ!!」と捨て台詞を吐いて去っていくではないか。 


 俺が何をしたっていうんだよ……たとえ、俺がフレイムちゃんにした事がとんでもなく失礼な事だったとしても髪の毛全て失うほどの事なのか……? だけど心のどこかでスッキリした俺がいるのである。


 あの髪の毛も親に言われて半ば意固地になっていた節もあるので良いきっかけでもあると思えてしまうのであろう。


 後日、赤竜姫フレイムちゃんファンクラブがあると知り、俺は加入するのと同時にあの時いかに失礼な事を俺はフレイムちゃんにしたのかと後悔するのであった。

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