第85話 頭を両手で隠しながら

 そしてフレイムちゃんへと話しかけるのだが、いくらおれが話しかけても無視をされるではないか。


 しかしながらここで諦めるような俺ではない。


 もしかしたら命令で他人に呼ばれても反応するなと言われているかも知れないのだ。


 フレイムちゃんの所有者(所有者という言葉なんか使いたくないが)は本当にクズだなと再確認したその時フレイムちゃんが俺に反応してくれたのだが、その反応は俺の想像していたものとはかなり違っており、なぜか敵対心剥き出しの反応が返ってくるではないか。


「た、たかが名前くらいで──」

「名前くらい? この私がフレイムという名前でどれだけ嫌な思いをしてきたか、そしてご主人様のおかげで自分の名前を少しだけ好きになってきたとはいえ、未だにご主人様の身内以外から呼ばれると村にいた頃の嫌な記憶がフラッシュバックしてしまうこの名前を、たかが名前くらいで?」

「いや、その、すまん……。 でも俺はフレイムちゃんを助けたいと思っているこの気持ちは本当なんだっ!!」


 そしてどうやらフレイムちゃんは自分の名前にいい思い出がないらしく、そのせいで他人から名前を呼ばれる事がトラウマになっているみたいである。


 だから今はまだ他人である俺から名前を呼ばれてあんな反応をしてしまったのだろう。


 でもこれからは、こうして名前を呼んであげる事で俺に呼ばれる事も慣れてくるだろう。


「助けたい? 今あなたは誰を助けると言ったのですか? 」


 しかし、フレイムちゃんは俺が『フレイムちゃんを助けたい』と言った瞬間に名前を呼ばれた時以上に怒っているようで、周囲にいた野次馬などもなぜか頭を両手で隠しながら・・・・・・・・・逃げていくではないか。


 そして心なしか周囲の温度も上がってきている気がする。


「そ、そんなのフレイムちゃんに決まっているじゃないかっ!! こうして所有者から命令されて高難易度のクエストを一人で行っているようだし──」

「いえ、これはフレイムさんの要望でして……」

「関係ない受付嬢は黙れっ!! お前たちも同罪だからなっ!! ……こんなんじゃ命がいくつあっても足りないだろう? そんな酷い命令をしているフレイムちゃんの所有者から僕が救い出してあげるってことだよっ!」

「………あの時助けに来なかった癖に……っ」

「ん? なんて言ったのかな?」

「じゃあなんで私が一番苦しかった時に助けに来てくれなかったんですかっ!? 私を地獄から救い出してくれたのはご主人様ですっ!! そして今はご主人様の奴隷になれて幸せなのにっ!! せっかく私が幸せになれたのに、その幸せを壊そうとするのでしたら敵とみなして容赦はしませんっ!!」

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