第79話 少しだけワクワクしてくる

 そんなこんなで心なしか泣きそうな雰囲気のダニエルさんと奥さんであるリーシャさんに見送られながら俺たちはフランに領地観光を一任して出発する。


 ちなみに今から行く場所は馬車で二時間ほど北へ行った場所、山の麓にあるクヴィスト家の経営している領地内で三番目に大きな町である。


 今までは海沿いを基本的に観光していたので北側の街は初めてである。


 そもそも俺がまだ行っていない場所の料理観光をするという名目であるのだから当たり前なのだが。


 そんなこんなで馬車を走らせて一時間ほどで周囲の雰囲気も変わっていき、目的地である河川沿いにある町までくると海沿いの風景とはまた違った光景が広がっていた。


 同じ領地内だというのに海沿いと違って暴風避けの植林や背の高い岩垣がないというだけでもだいぶ印象は違ってくるのだが、海の潮の匂いから山と川の澄んだ匂いへと町の香りも嗅ぎ分けられるほどまでに変わっているのは少しばかり面白いと思ったりする。


 そして当然河川敷の内側の開けた場所かつ少し離れれば山がある町という立地条件からも名物はガラッと変わってくる。


 海辺の街では当然珍味系の乾燥物や新鮮な海鮮物が多かったのだが、ここでは川魚の塩焼きや小魚の塩漬けなどはあるものの、その他は野菜や山菜、獣肉を干した物に漢方薬などが中心に売られており、定食屋が立ち並ぶ通りでもそのような物を使った店が多いように、馬車の中から見てもそう思える。


 それでも海辺の近くという事もあり干物などは俺の領地よりも格安に提供されているあたりは海辺付近の町といったところであろう。


 そして、この町でフランは何を俺たちに紹介してくれるのだろうかと少しだけワクワクしてくる。


「さぁ、着きましたわっ!!」


 そう声高らかに叫び、目的地に着いた事を告げる。


「この町は私の領地で中心街、海辺、とはまた違った味付けの食べ物が多いのでローレンス様にも喜んでもらえると思っておりますわっ!!」


 確かにここ最近は調味料や日本酒の事やチーズにヨーグルトなど食べ物ばかりであったので俺が美食家だとフランが勘違いしてしまうのも仕方ないだろう。


 俺がフランの立場であったとしてもやはり同じ事を思うだろう。


 日本食を完全再現したいだけなのだが、せっかくフランが俺の為を思って連れてきてくれたのである。


 わざわざそのことをあえてここで言ってフランの善意を無碍にするような行為をする必要もないだろう。


 それに、ぶっちゃけどういう料理が食べれるのか実際に興味もあるのであながちフランのチョイスも間違ってはないだろう。

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