第54話 この猿を黙らして下さい
その流れのまま俺は全てオークスさんに任せて奴隷契約を進めてもらう。
結局オークスさんもこの兄妹を救ってやりたいと思っており、良いところで俺が来たのだろう。
そして、この奴隷は冒険者ランクがCという所を見るに片足も義足を装着させれば全盛期レベルの動きは無理でもDランクレベルの活躍は期待できる為、そんな者が犯罪奴隷だったとしても金貨三枚はどう考えても破格である所からも『身銭を切ってでも助けたい』というオークスさんの感情が伝わってくるし、若干急いでいるのも俺の気が変わらない内に契約をしたいからだろう。
だというのにコイツは、何も分かっていないようで太々しい態度のままで感謝の言葉の一つすらない事に俺は少々腹が立ってしまう。
年齢的にも二十歳前後であるところを見るにところ構わず感情に反して噛みついてしまうのは致し方ない年齢なのかも知れないのだが、より良い所へ売ろうとしてもらったり、妹も保護してもらい、さらに兄妹が離れ離れにならないようにと動いてくれたりと奴隷商にとってはマイナスしかないにも関わらず少しでも良い結果をとしてくれているにも関わらず、当の本人はその態度ではさすがの俺も我慢はできないし、誰かが叱らないといけないと思った。
「謝れ」
「……あ? なんだクソガキ。 ガキの癖に俺に指図するんじゃねぇよ。 それに俺はお前に何もしてないだろ」
「違う。 僕にではない。 オークスさん含めた、君や君の妹さんの為に動いてくれている者達に謝罪をしなさいと言っているんですっ!!」
「お、俺はやってくれなんて一言も言ってねぇっ! コイツらが勝手にやっているだけだろうがっ! それなのになんで俺が謝罪しなければならないんだっ!!」
やはりというかなんというか、想像していた通り俺の言う事を聞くどころか噛みついてくる。
若いとしか言いようがない
もしかしたら反抗期を迎えた時に両親がいなかったのかも知れない。
その反抗期特有のむしゃくしゃして当たり散らしたい衝動を抑えて妹の為に冒険者業で日銭を稼いでいたのかも知れない。
まだまだ友達と遊びたかったのかも知れない。
その抑圧されて来た環境が今の彼を作り上げているのかも知れないし、その結果が今の彼を作り出しているのかも知れない。
確かに妹が犯されそうになるのは可哀想だとは思うのだが、おそらくその後豪商のドラ息子を殴っただけで彼の怒りが治ったとは、俺は到底思えない。
おそらく『コイツは殴っても良い』という相手を見つけてしまった故に感情が爆発してしまったのでは? と思ってしまう。
それこそ片足を切り落とされた上に奴隷に落とされるような報復をされるくらいには。
「それは、結局周りに守ってもらって当たり前と思っている証拠で、まだまだ君も僕と同じガキだという事じゃないか」
「はぁっ!? テメェ──」
「良いでしょう、その捻じ曲がった根性と性格を叩き直してあげましょう。 オークスさん、早速奴隷契約をしたいので、とりあえずこの猿を黙らして下さい」
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