第52話 聞かなきゃ良かった

「すみません、少し取り乱してしまいました。 それで、本日はどのようなご用件で来られたのでしょうか」

「そうですね、今日はそろそろ奴隷を一人増やそうと思ってここへ下見がてら来ました」


 そして俺はオークスからここへ来た理由を聞かれたのだが、あくまでも下見である事を強調して応える。


 流石に毎度毎度お父様にお金を借りるのもどうかと思うので(お父様は返さなくても良いとはいって言っているのだが、家族間だからこそ金銭的な部分はしっかりとしたい)ここで下見ではなく買いにきたと思われては後々面倒である為早めに下見で来た事を伝えられた事に胸を撫で下ろす。


 この世界であろうと前世であろうと商売人相手に隙を見せたが最後、言葉巧みに誘導されて結果何かしら買わされているのだから相手が交渉に入る前に要件を伝えるのがベターであろう。


 そうすれば向こうもその要件を少し超えるくらいの要求しかできなくなるだろう。


「下見ですか……ちなみにご予算は決まっているのでしょうか?」

「そうですね、予算的には金貨三枚で買えれば良いかな、とは思ってます」

「かしこまりました。 予算前後で収まる奴隷を紹介いたします。 しかしながら金貨三枚ですと今のところ犯罪奴隷の上に片足を欠損している奴隷しかいないのですがよろしいでしょうか?」


 そして、一応予算を伝えるとその範囲内の奴隷を紹介してくれるみたいなのだが、今現在俺の提示した予算に収まる奴隷は一人しかおらず、しかも犯罪奴隷であり片足を欠損していると言うではないか。


 それはどうなんだ? とは思うものの一応見るだけならばただだという訳でその奴隷を見てみる事にしてみる。


「こちらが、その奴隷でございます」


 そして俺はオークスに地下の一角へと案内され、そこにある檻の中にあるベッドに腰掛けている男性を紹介される。


 紹介された男性は二十歳前後で栗毛の長髪で身長は低く、そして中性的な顔立ちで小柄な体型である。


 もし彼の頬に十字の刀傷があればまさに天翔けちゃうし竜閃いちゃう奥義を放ってきそうだなと思ってしまうような容姿をしていた。


「…………チッ」


 そして、その某アニメキャラに似ている片足の男性は俺の姿を一瞬だけ見ると舌打ちして目を逸らす。


 その時一瞬だけ見えた彼の目は燻んではいたものの、その目の奥には強い意志を感じたような気がした。


「ちなみに彼はなんで犯罪奴隷なんかに?」

「両親は流行病で死に唯一の肉親である妹を豪商のドラ息子に犯されそうになっていた所を寸前の所で発見し、妹を助ける為にドラ息子をぶん殴ってしまった結果、片足を切り落とされて犯罪奴隷へ堕とされております」


 ここの奴隷商が取り扱っているという事は犯罪奴隷だったとしても訳ありだろうと思っていたのだが、俺の推理通り訳ありではあったものの重すぎる内容に思わず聞かなきゃ良かったと少し後悔してしまう。

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