第44話 できらぁ!

「しかしながらお兄様であればこうなる事も予想できたと思うのですが、何故こんな賭けみたいな事を引き受けたのですか」

「そ、それは……その相手が私の想い人だから……」

「…………はい?」

「いや、だからな? その相手を俺は異性として好きなのだが、彼女は畜産業が盛んな領地の娘で丁度チーズの話題になったんだよ。 そしてなんやかんやあって俺のライバルである男性が穀物の生産率が高い農業地帯の領地であるにも関わらずチーズ作りに成功したと言い始めて……気がついたら売り言葉に買い言葉で『俺の領地でもチーズぐらいできらぁ!』と息巻いてしまいました」


 そして弟に申し訳なさそうに喋るお兄様。


 いったい兄としての威厳は何処に置いて来たのでしょうか?


 どうせ『なんやかんや』と誤魔化した部分は『わたしを唸らせる事が出来たチーズを持ってこれた殿方と婚約をするつもりです』とか言われ、彼女を諦める事が出来ずに一か八か大勝負に出てでも作れると発言するしか無いと判断したのだろう。


「話は分かりました。 しかしフレッシュタイプのチーズならば話は別ですが、普通チーズを作るには発酵という工程が必要ですので明日明後日にはできるというものではないんです。 更に、その発酵を促す菌を探すためのマリアンヌの治療を先に終わらせないといけません。 マリアンヌの治療は昨日帰宅してから行っており、僕の魔力が尽きる手前までこれから毎晩行っていきますが、いつ完全に治るかは分かりかねます。 その為チーズが出来上がるまでに一年以上はかかってしまう可能性はありますがそれでも構いませんか?」

「それに関しては構わない。 チーズを一から作ると言ったので流石に相手も時間がかかかる事は知っているだろうし……」

「分かりました、では交渉成立ですね。 ですが守ってもらいたい事が一つだけあるのですが」


 そして俺とお兄様は固い握手を握るのだが、その握手した互いの手を放す前にお兄様へ俺は問いかける。


「なんだい?」

「貴族のごたごたを持ち込まないと誓っていただけますか? そして万が一貴族関係で面倒事に巻き込まれそうになった時は矢面に立って助けていただけますか? そして約束していただけるのならば書類にサインをお願いします」


 ハッキリ言って貴族間の事は貴族同士で解決してもらうのが一番である。


 俺みたいな家督を継がない中途半端な貴族は特に、そういった面倒事には巻き込まれたくないので、そこは家督を継ぐお兄様に守ってもらわないと後々何かあった時に対処しきれず、結果本家であるお兄様に頼らざるを得なくなる場合がある。


 だったら初めから面倒事も全て込み込みで俺を守って下さいという訳だ。

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