第36話 別の意味で『爆弾』を抱えている


 ちょっと奴隷商の言っている意味が分からない。


 きっと聞き間違いであろう。 そうに違いない。


 でなければこの場合奴隷を購入した俺どころかお父様やお兄様の首まで飛びかねないではないか。


 ここ最近は兄様もお父様の手伝いを少しずつ増やして行き、さらにウェストガフ家を継ぐ為に寝る間も惜しんで勉強をし始めているのである。


 流石に家の為に領民の未来の為にと頑張っているお兄様の努力を無駄にしたくないし、そもそも家族の未来を奪うような事はしたくない。


 そんな恐ろしい爆弾を信用第一で運営しているここの奴隷商がするわけがないと、俺はそう信じている。


 だからきっと聞き間違いである、 いや、聞き間違いであれ。


「明確には元王妃でございますね。 詳しく話せば長くなってしまいますが……」

「ぜひ聞かせてくださいっ!」


 そして俺が怪訝な表情をしていると奴隷商の支配人であるオークスは王妃の頭に『元』をつけるではないか。


 王妃と元王妃では全く違うじゃねぇかっ!! ツッコミそうになるのを俺はグッと堪える。


 もしこれが現役の王妃たっての希望という名の命令であった場合、危うく俺は家族の未来と引き換えに隣国の王妃と不倫のようなものをしろという上からの権力に屈しなければならないのかとかなり冷や汗をかいてしまったではないか。


 しかしながら『元』という事から何かしら別の意味で『爆弾』を抱えている不良物件の可能性が高くなってきたのも事実である。


 安直に考えるとしたら高慢で散財癖があり自分の思い通りに物事が進まなければヒステリックに喚き、使用人達をストレスのハケ口にしては辞めさせる、というような人物像が浮かんできてしまう。


 そもそも婚姻関係の破棄、特に今回のように王妃を降ろされると言うのは家同士の繋がりもある為メンツを気にする貴族や王族ではよっぽどの事がない限りあり得ないはずであり、そしてその元王妃はよっぽどの事があったという事だということである上に、それだけではなくその元王妃は奴隷商へ奴隷として売り飛ばされている訳である。


 何もない訳がないではないか。


 そんな女性を何も聞かずに「はいそうですか、分かりました」と引き取るわけにも行かないのでどんなに話が長くなろうとも俺は聞かなければならないとオークスへ婚姻関係を破棄、離婚され奴隷商へと売り飛ばされた経緯を聞くことにする。


「かしこまりました。 実は今回の王妃様がこんな経緯になった原因は彼女に原因はなく、むしろ国王陛下とその愛人に嵌められた結果でございます」


 そして滔々と語り始めるオークスなのだが『元』をつけていないあたり彼はその元王妃の事をかなり慕っている事が窺えてくると同時に、そういえばオークスは王国出身であった事を思い出す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る