第9話 生き残り

 要はこの奴隷商は商品である奴隷とは別途品質と安全をセットで販売しているという事か。


 そしてそれは裏を返せば一度でも消費者の信頼を裏切るような商売をした瞬間にこの奴隷商は潰れかねないというリスクも同時に背負っており、消費者はそれを分かっているからこそ高品質で真っ当な奴隷商と信頼して奴隷を買いに来るのだろう。


「どうしたローレンス。 少し残念そうな表情をしているが、行きたかった奴隷商が他にあったのか?」

「いえ、そういう事では無いのです。 ただ、僕の持つ二つのスキル【奴隷使役】と【回復】のレベルをこの際だから同時に上げようと思っていたのですが、高品質しかない奴隷商でしたら逆にスキル【回復】を使う必要も無いような奴隷しかいないのかも、と思いまして。 僕の勝手なイメージなのですが、奴隷商は薄汚れた場所で奴隷たちを生きるギリギリの食事を与えて劣悪な環境下で管理しているものとばかり思っておりましたので。 なのでこれはただ単に僕の早とちりだっただけです。 それに、だからと言って違法奴隷は買いたくないですしね」


 お父様は俺が少しだけ残念そうな表情をしていた事を見逃さずに何か不満なのか聞いて来たので、本心を包み隠さず答えると「そうか」と呟き考え始めるではないか。


 何か考えがあるんのだろうか?


 そんな事を思いながら俺はお父様と一緒に奴隷商へと入店し、受付を済まして客間で支配人を待つ。


 しかし我が家でもそうなのだが元が日本人である為ふかふかの絨毯の上を土足で歩くという感覚が未だに慣れない、なんて事を思っているとノックが聞こえ、支配人と付き添いの女性が入室してくる。


「初めまして、私はここの奴隷商を任されております支配人のオークス、そしてこちらが副支配人のサラでございます」


 ここの支配人というオークスは身長は高くすらっとしており髪の毛をオールバックでまとめてメガネをかけた、いかにも仕事ができるといった感じの男性で、副支配人のサラもまた長髪を後ろで纏めてスーツを着こなし、できる女性といった感じである。


「ああ、初めまして。 私の事は既に知っているとは思うが、エドワード・ウェストガフで、隣にいるのが息子のローレンスだ」


 そんな感じで互いに自己紹介を済ませて、オークスが机を挟んで対面の席へと座ると奴隷が載っているであろう資料がまとめられたファイルを渡そうとしてくるのだが、お父様がそれを手で阻止する。


 まるで初めから決めている奴隷がいるかのようだ。


「資料は構わない。 それで、こないだ処刑された魔術師協会元会長であるフルーダの元に売られた中で帰ってきた生き残りはいるか?」

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