6話 理不尽

 「カロンさんだけが地下牢にぶち込まれるのは分かるが、何故、私までそうされないといけないんだ…?」


 この世界に来て1日経ち、その僅かな時間

の間に魔王を倒し、8時間に及ぶ瞑想 (その内

6時間は寝てた) により心身を落ち着かせ、更に勇者とのコンタクトに成功し、後は王国に

魔王を絶滅させる方法を聞き出して、さっさ

と人間の世界に戻ろう…と思っていたのだが、どうも私は王国にとって不都合な人間

らしい…いや、私は魔王を倒したのだ、何

の罪で捕まるのか知らないが、この勇者と

違って私は強い、いざとなったら実力行使

を…


 「あぁーもう、いちいち説明するのが面倒臭いわねぇ、いい?この世界では、変身魔法に瞬間移動魔法と…あと時間停止魔法の使用はタブー中のタブーなの」


 使…?私は彼女が変身魔法を使うところを見たが、私は禁術を使ってはいないし使えるワケがない、攻撃魔法しか使えない私の体がなによりの証拠だ。



「あ、禁術を使ってないからって安心しちゃダメよ?禁術は強力で危険なモノだから、王国が王を危険から守る為に、それらの魔法の存在を隠蔽しようとしてるの…だから、禁術を知っているだけでも危険人物扱いされるのよ、勿論、私とアンタもね…って、もしかしてアナタ王国に反旗を翻そう、なんて考えてないわよね?」



 「え、い…いやぁ〜そんなワケないに

 決まってるだろ?第一私はここから動けな

 いし、王国なんか相手にしたら集中砲火を

 受けるに決まってる」


 なんて事だ、さっきまで年上の私に悪態

 をつく若造だったコイツが、女になった瞬間に人の心を見透かすクールな魔法使いにな

 るとは…女と男じゃこうも違いが生まれる

 のか、いや、口が悪いところは変わっていないな、そこが本性なのだろうか。



 「まあ、そうよね…王国は禁術使いを何人

  か意図的に手駒にしてるし、時間停止魔法でも使われたら、いくらアナタでも…ね」

  


 時間停止魔法か…確かに漫画などでたまに

見かける超強力な技の代名詞であり、それを

禁じる王国の気持ちも分からなくはない、

だが ————


「瞬間移動魔法に、変身魔法…?」


「意外と弱い技をチョイスするんだなぁ…って思ったでしょ?」


 また心を見透かされた気分だ…と私が思った事も、彼女には筒抜けなのだろうか、彼女

が軽くポーズを決め、ドヤ顔でいるところを

見るに、この予想は合っているのだろう。私

も態度を顔に出してしまっていたのかもしれない。


「…ああ」


「変身魔法を使っちゃいけないのは、例えばこの世界にA君がいたとして…そのA君に、

他人が変身魔法で化けた時、それら二人のどちらがA君なのかを見分ける術が、この世界に存在しない、つまり対抗策が存在しないからなの」


 ほう…そう考えると変身魔法には意外と使い道がある気がしてきた、なにせ漫画のように、本体とのちょっとした違いで気付かれて

味方キャラにボコボコにされる…なんて事が

起きないワケだからな。



 「ところで、なんか座れる物って無い?森で歩きすぎて疲れたんだけど」


 おっと、これはうっかりしていた…男性に変身出来るとはいえ、カロンは女性なのだ…もっと気をつかうべきだった。


 

 「あっ、丁度良い岩があるじゃない!」



 

 「あっ!そこは駄目だ————」



 —————ガラガラッ!!


 

 



 その瞬間、彼女の足場が崩れた。彼女は私が魔王退治の時に光線を放ったあの位置におり、光線の影響で砕けた瓦礫に足をとられたようだった。すぐに彼女を支えなくては——

 


————あれ?手の感覚が…



そうか、私は貝に転生している為、そもそも受け止められる手が生えておらず、私には彼女を受け止める事ができないのだった、こんな時に、私は何もできないのか?私はこんな調子で本当に世界を救えるのか…?



彼女の身体が地面に触れる————


 

ほぼ同時に私は目を瞑った。

 


 ———————ポスッ



 「え…?」



 私が恐る恐る彼女の方を見てみると、牧師

の服を着た白髪の青年が、彼女を抱き抱えて

いた、さっきまで辺りには誰も居なかった筈だが…いや、この世界では魔法を使って瞬時に人が移動するのが当たり前なのかもしれない… あれ?瞬間移動魔法は禁じられているんじゃなかったのか?彼がもし例の禁術を使えるのなら、相当な実力を持っているだろうし、少しは警戒した方がいいかもな…いやいや、彼はカロンを助けてくれたのだ、ここはまず礼を言うべきだろう。



 「あ…ありがとう、君は———」


 「ちょ、なんでイズがここに居んのよ!」



 —————え?


カロンはその青年に感謝するわけでもなく、ただただ嫌悪感丸出しの目でその青年を見ていた、どうやら彼女達は知り合い同士らしいが、親しき中にも礼儀ありというのに、助けてくれた相手に対しての彼女の言葉はあまりに失礼だ、余計なお世話かもしれないが、一言注意しておこう。


 「本当に余計なお世話ですよ、カロン君の

 態度はいつもの事ですから」


 

 あれ?私は思った事を無意識に口にしてしまっていたのか…?いや私にそんな癖はない

筈…というか大体、私はどうやって喋る事が出来ているんだっけ、そうだ、彼はカロンより親切そうだし、その理由を教えてくれるかもしれない。



 「そういう事は元海王に言って下さい、私

 には貴方の質問に答える義理もないので」



 あっ…前言撤回、親切どころか妙に冷たい奴だった。

  

 






 


  

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貝好き漁師は異世界転生して最強の貝になりました。 ヒダさん @regulate

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