5話 世界の仕組みを知ろう
「…ゴメン、多分私が壊しちゃった」
彼女は舌をペロッと出して、目を潤ませて
私に許しを乞うようにそう言った、彼女
の顔はカウボーイハットのつばに隠れてよく見えなかったのだが、よくよく見れば彼女は容姿端麗で、かなりの美人の部類に入るようだった、その分テヘペロの破壊力は抜群だったが、それ以上に水晶を破壊された事への衝撃は大きかった。
「どう、私に惚れた?」
「いや全然、それより何で水晶を壊した
の?」
「…壊したんじゃなくて、壊れたの!私の
魔法の巻き添えになって、どっかに吹き飛
んでいったと思ったら、パリンッ!って音
がして、一体何の音だろうって音のした方
を見てみたら、アナタの頭の上の貝殻に水晶が当たって砕けてたの!」
そんな音がしたのか?気づかなかった…
まだ47歳を迎えたばかりというのに、耳が
ボケてしまったのか?…いやそんな事を考えてる場合じゃない、今こそ死神をここに呼んで、色々話を聞き出したい時だというのに
肝心の水晶を壊しやがって、この
「…カロンさん?水晶を壊してごめんなさいは?」
「なっ…!? 出来るワケないでしょ!
謝罪なんてしたら、私の誇り高き勇者の
プライドに傷がつくもの!第一、その死
神がそんな雑な所に水晶を置いたのが悪
いのよ、私は悪くないもん!!」
「もう…良いよ、壊れてしまったもの
は仕方ないし」
「うんうん」
「で、
だ?余程大事な事みたいだし、すごく気になるんだが」
「…それは、50年前にこの世界が滅びたばかりで、その時に私の先代の勇者が死んだって事よ」
「————え?」.
…え?いや、そんな筈はない、確かに
魔法で映した映像には魔王城と共に、見渡す限りの建造物や、人々だって僅かだが映って
いた…世界が滅んだなら、たった50年であそこまで復興する事など出来ない筈だ…
「…ゴメン、説明が下手だったかも、アナタ
は人間の世界から来たから、この感覚は
分からないかもだけど、世界が滅びるって
言っても、その世界に居た人間が消えるだ
けで、世界が滅びてから1〜2週間以内に
この世界についての知識をある程度持った
状態で、自動的にこの世界に新しい生命がまた生まれるの、その時の年齢は様々だけどね」
自動的に…?なんだなんだ、いきなりゲームの中の世界線みたいな事を言い出したぞ
この勇者…っていうかその話、普通に大問題
じゃないか、魔王の脅威から世界を守り、
いずれは魔王を絶滅させるのが私が人間の
世界に戻る条件だったのに、勝手に世界が
自滅するんじゃあ守るも何もないじゃない
か…自動的に人が生まれるというのも、何か機械的で嫌な言い方だしな…人を守る事へのモチベーションが駄々下がりだ…
しかも今の話を聞くに、この勇者も…
「自動的に…って、じゃあ、カロンさん
も…!?」
「うん、私は12年前に年齢が10才の状態
から、この世界で人生をスタートしたの、
目覚めたら小さな小屋の中に居て、そこ
に私の両親…みたいな人達が居たけど、私
もあの人達もこの世界の仕組みが分かって
いたから、ほとんど疑似家族みたいな関係
だったわ…結局、私達もアナタと同じよう
な状態でこの世界に生まれたワケ」
成程…ここは地球にモンスターが現れた、いわば現世のパラレルワールド的な世界だと思っていたのだが、どうやらそういうワケではないらしいな…彼女が平然とそんな事を言っている様子を見るに、この世界では人が自動
的に生まれる事が普通の事なのだろう…
結局、この世界の人間を産んだのは誰なの
か、
そして私のイカれた耳は本当に大丈夫なの
か…謎は深まるばかりだ。
「…それにしても、アンタ、よく海王に
転生しようと思ったわね?その体がいく
ら強くても不便でしょ?貝だから動けな
いし…」
「まあ、不便といえば不便だけど、私はあの
時に転生しなければあの世行きだったワケだし、私は子供の頃から貝が大好きで、貝の見ている世界を私も見てみたい!…と思っていたからな、ある意味、夢が叶ったワケだ」
「ふーん?アンタ、貝が好きなんだ?」
おっ、もしや私が貝の事を好きになった
経緯に興味があるのか、この勇者、いつも
漁師仲間にこの事を話しては2日間程距離を
取られる私だが、この勇者…いや彼女から
この事に興味を持ってくれたのだ、少しくらいは話しても良いだろう…!
「ああ、あの繊細なフォルムや、純粋な
白一色のボディは、私の心にとっての
最高の癒しだからね、私は人間の時に
素潜り漁という、海の中に潜って魚を狩ったりする仕事をしていたのだが…貝を見つけると、それを家に持ち帰ってコレクションしたり、たまにフリマアプリで気に入った貝をまとめ買いしていたんだ、その中でも特に気に入ったクマサカガイの—————」
「ふぁ〜あ…あ、なんでもない」
——————ん?
彼女は、貝の話にまるで興味を持っておら
ず、それどころか辺りの岩に寄りかかり、
今にも寝てしまいそうな体勢で
いた。残念だが、話を変えた方が良さそうだ。
「そ、そう言えば…禁術?ってやつの事、
私に話しても良かったのか?」
「はぁ!?」
彼女の目に気力が戻った。
「良いわけないでしょ!アレは機密情報よ?
機密情報!禁術を私が知ってる事がバレたら、
「私…達だって?」
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