2話 勇者、到着。


「ハーッ、ハーッ、ッアァ!いつになったら

 着くんだよ…!?例の森とやらは…!奇妙

 な植物が生えてるって聞いたが…んなモン、

 どこにあんだよ!こっちは目が見えねぇか

 ら分かんねぇんだよ!!」


 —— なんだコイツ?


 私はあの後、何もやれる事が無くなって暇

 になり、数時間に渡り瞑想をしていたら、

 気付かぬうちに寝落ちしていたらしい…

 あのスーツ男は、海の王は眠気がしない

 体質だとか言っていたが、寝ようと思えば

 私は好きな時に寝られるらしい、何とも

 便利な体だ。

 

 そして寝覚めたら、両目それぞれに眼帯を

 付けた男が、私の周りをぐるぐる歩き回っ

 ていた。どうやら私が寝ている間にここに来て、この森をだいぶ歩き回っていた様だが一体どうしたというのだろう?


 「だるい…何なんだよ、例のクソ強い

 貝野郎ってのは…俺の任務を横取りしやが

 った上に、きっちり成功させる海の王…て

 いうか何で森なんだよ!海の王なら海の王

 らしく海にいやがれ!!」


 それな、何で森なんだよ、私だって海底

から水着姿のレディを眺めながら、のんびり

過ごしたかった…ってそうじゃない、今彼は

貝野郎と言っ

た、恐らく私の事だろうが、任務というのが魔王討伐の事なら、それが出来なかった彼は…あの男に聞いた勇者なのだろうか?


 「あのー、すみません、カロン・レグレー

トさんというのは、貴方の事でしょうか?」


「なんだテメェ、今カロン・レグレートつっ

 たか?」


 男の表情は眼帯のせいで分かりづらかった

 ものの、その態度と雰囲気はヤンキーその

 ものだった、やはり彼は勇者ではないのだ

 ろう、なにしろ彼の姿は例の写真で見た

 あの爽やかな雰囲気や、整った顔と何一つ

 一致していないからな…誤解してしまった

 わけだし、一言謝っておくか。


 私が言葉を発する前に、彼は少し考える

 そぶりをした後、いきなりハッとした表情

 を浮かべ、すぐに愛想笑いを浮かべて言っ

 た。

 

 

 「あ…いえ、ごめんなさい、俺…いや僕がカロン・レグレートです〜」


 彼はさっきまでの態度を一変し、私に

深々とお辞儀じぎしてみせた。本当に

なんだコイツ、先程は怖いオトナ感が満載

だったのが、急ににこやかな顔で質問に答

えてくるとは…相当闇が深い奴らしい、と

いうか、勇者であるというのが本当なのか

分からないな…もう少し探りを入れてみよ

う。


 「本当に——」


 「あのぉ、ここら辺の地域にある、植物に目が生えた変な森に行きたいんですけど、よければ道を教えてくれませんか?」


…まさか、この男はここの森を探しながら私

の周りを歩き続けたのに、森に着いている事に気づいて無いのか…?というか視力が悪いのに、どうやってここまで来れたんだ?彼。

 

 「ソレ、正にここですよ」


 「えっ?」


「いや、それ正にここなんですよ、目が生えた植物がうじゃうじゃといますもん、ココ」


「え…?だって、で指定した座標は**の*番地域だからまだ何キロも先な筈…あ、

今のは忘れて下さい!」


彼は瞬時に口を手で覆い隠し、あわあわと挙動不審になり始めた、おまけに額には大量の

汗をかいており、極めつけの「忘れて下さい」だと…?人間、そんな事を言われると更に気になるものだ、ここは試しに彼の感情を揺さぶってみよう…


 「さっきはよくもボロクソ言ってくれた

  ねぇ、私の護衛役君?」


 彼は一度私の方を見てから目を逸らし、

 もう一回「は!?」という表情をして

 私の方に向き直った。


 「ま、まさか…そこに居るアンタが例の

  クソ強い貝野郎、なのですか?!」


「その汚い口調、隠しきれて無いぞ、

 魔王に敗北した勇者さーん?」

 

 魔王…少し魔王に失礼だったか?

でも実際に私は魔王を瞬殺したわけだし、

私と勇者かれとの実力の差も相当のモノだろう。


 「ふ、ふーん?あの馬鹿みたいな威力の

 攻撃魔法を撃って魔王を倒したの、アンタって事でしょう?」


 「まあ、そうなるな」


「そ、そう…別に私だって、魔王討伐とか

 楽勝だし?あの時は本気出してなかった

 だけだし?なんならいつでも魔王なんか

 ボコボコに出来るし…本気出せばね?

 本気出せば…」


 「でも、君は魔王を倒すのに失敗した

  じゃん?」


 「ハァ…!?」


彼は変わらずぶっきらぼうな台詞を言って

のけるものの、動じているのが顔に表れて

いる上、口調も少し変化したかもしれない。


「決まりね…私と勝負しなさい!

 貴方を超えられれば、私は魔王に勝ったも

 同然!私を見て、育ててくれた人達の期待

 を裏切らずに済むから、だから本当にお願い!」


 勝負か…まあ別にそれ自体は構わない、

 魔法の威力の調整は難しいが、魔王に

 敗北したとはいえ彼は立派な勇者だから

 な、私の魔法を喰らっても何とかするだろ

 う。


…ただ、先程からのコイツの口調から察するに、コイツは——


 「——オネエなのか?」




 


 

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る