第4話 兵士・イリアス2 不当な従順よりも正当な反乱を

イリアスは反乱へ参加した。


「これは反乱じゃない。正当な交渉だ。相手が聞く耳を持たないから、武器を持って交渉しているのだ」


反乱を率いている男がいった言葉。これがイリアスの心の拠り所だった。自分が正しい側にいるという安心感。


イリアスたちは県の庁舎を占拠していた。知事を人質にとって立てこもっている。


「紅茶いるか」


同じく反乱軍に参加している兵士・アルキノはどこからか見つけてきた茶葉で紅茶を入れて皆に配っていた。イリアスはありがたく紅茶を受け取った。


「ああ、ありがとう」


紅茶には砂糖がたっぷりと入っていた。体があたたまる。


アルキノはイリアスの隣に座った。


「うまいだろ。いい茶葉だったんだ」


「ああ。茶葉の良し悪しなんてわからんけど、うまいよ」


「俺も良し悪しはわからんよ。知事が飲む茶だからな。高いやつなんだろう」


といってアルキノははにかんだ。


「実は、もう一つ欲しい物があるんだ。知事が持ってる高い酒だ」


「そんなものがあるのか」


「あるだろ。あの知事、いかにも酒が好きそうなおっさんじゃないか」


 イリアスは知事の姿を思い浮かべた。ビール腹で、シラフでも酔っ払っているような赤い鼻をしている中年男性だった。もしかしたらシラフではなく、アル中で年中酔っ払っているのかもしれない。


 イリアスは近くに人がいないのを確認して言う。


「盗みは……御法度だろ。前線じゃないんだ。魔族のものならまだしも、人間のものを盗んだら」


「そんなに大げさに考えるなよ。少しいただくだけだ。ここは軍隊じゃない。軍法もないんだ」


 イリアスは軍法がなくても、普通の法律があるだろと思ったが言わなかった。そもそも俺達のしていることが法律的には違法行為だ。


「それもそうか。でもまあ…ほどほどにしとこうぜ」


 結局の所、イリアスも酒が飲みたかった。


 アルキノは安堵して顔がほころんだ。


「よかった。次の知事の見張り、俺とお前だろ。そのとき、うまいこと動こうぜ」


 イリアスはアルキノとともに、知事の酒を探すことになった。

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