第2話 商人・マルコス 1 商人の死活問題
マルコスは商人だ。西から東へ、交易品を運ぶことを生業をしている。この街で売れるものは売った。仕入れるものは仕入れた。冬になる前に、更に東へ行こうと考えていた。マルコスは町中で商人たちの馬車が立ち往生しているのを見つけた。
「何か問題ですか?」
マルコスが尋ねた。知らない相手だが、商人は助け合いの世界だ。
立ち往生しているのはマルコスよりも年配の商人だった。
「ああ。今日出発するつもりだったんだが、東の街道で魔物が出たという話がでてな。今は危険かもしれないというので、どうしようかと考えているところなんだ」
「また魔物ですか。最近多いですね。僕は西から来たんですが、魔物の話を聞かない日はないくらいですよ」
「やっぱりそうだよな。兄ちゃんも東へ行くのか?なら今出発するのはやめておいたほうがいいぜ」
「そうですね。仕入れも終わったのでそろそろ出発するつもりだったんですが、様子を見てみます。討伐される予定はあるんですか?」
「正直わかんねえな。街道の整備は役所と軍隊の仕事だが、軍のほうが兵士を減らしてるって話だ。いつになるのかわかんねえ」
「それじゃあいくら待ってもあまり意味がないのでは」
「俺も一応この街の商人ギルドの人間なんだが、今商人ギルドで金を出し合って傭兵を雇うかどうかという話を進めているところなんだ」
「商人が傭兵を雇うんですか」
「ああ。前例はないが、自分たちでそれくらいしないといけねえのかもなって」
「なるほど。では僕も安全になるまでしばらく滞在しようと思います」
「あんまり期待すんなよ。まだ契約相手すら見つかってないんだからな」
マルコスは礼を言ってその場を離れた。
マルコスは考える。通常、傭兵を雇うのは王族や領主で、100人単位、数年単位の契約だ。そんな数の傭兵を、街道の魔物退治だけに雇うことは可能だろうか。いや、難しいだろう。
そもそも金のある大商人は自前で護衛を雇っている。彼らが討伐のために傭兵を雇うのに協力するだろうか。商人ギルドのつながりで全く無碍にするとは思えないが、多額の自腹を切ってまで協力するとは思えない。そして大商人の協力なしに、傭兵を雇う費用を差し引いた利益がでるとは思わない。赤字になるくらいなら、わざわざ商人が魔物を退治することはない。同じ商人。損得で動くであろうということは想像がつく。
マルコスは自分がこの街で仕入れた商品を考えた。この街の名産である贅沢品を仕入れていた。戦争が終わり、贅沢品の需要が高まると思ったからだ。しかし運べないのでは商売にならない。
商人にとっての死活問題。それは仕入れた商品をどれだけ素早く売りさばけるかだ。
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