冒険者ギルドはじめます

九夏三伏

第1話 兵士・イリアス 1 元兵士の生活

剣と魔法の世界であっても、戦争となれば兵士の数がものをいう。


イリアスは5年続いた戦争に、一兵卒として参加した。一緒に戦争に行った友人は2年前に死んだ。多くの兵士が死んだ。イリアスは生き残って国に帰ってきた。


勝者としての帰還だった。魔王が支配する邪悪な王国を退けて、国を救ったのだ。全員が英雄だった。死んだものも生き残ったものも、勇敢に戦った。


しかし英雄扱いは最初の1週間だけだった。戦争から帰ってきたイリアスは、金もなく、貧民街で安い部屋を借りて過ごしていた。


戦争から帰ってきたら清潔なベッドで眠れると思っていた。しかし戦争から帰ってきたというのに、汚いノミだらけのベッドで寝ている。


それもこれも国が給料を払わないからだ。5年分の給料が全く支払われていない。その給料があれば、村に小さな一軒家を買うことも可能だ。商売をする元手にすることもできる。


なにもかも国が悪い。特に政治家、なかでも内務大臣のホーマーが悪い。ホーマーは、給料の支払いは遅れているだけだといった。魔王国から賠償金が取れなかったため、すぐに支払うことができないのだと。ふざけるな。俺は知っている。首都には貴族がいて、たっぷりと資産があるじゃないか。もし俺たちが戦わずに魔王国に敗北していたら、それはすべて魔王と魔族の手に渡っていたのだ。ならばその資産の一部でも、俺たちが手にする権利はある。少なくとも、英雄のひとりがこんな貧民街で汚いベッドで寝て、腹をすかせる道理などない。


最近は街を歩いていても、哀れみの目で見られるのが半分、厄介者を見る目で見られるのが半分ぐらいになってきた。俺たちは哀れでも、厄介者でもない。英雄であり、勝者だ。そんな目で見るな。


腹が減った。最近は豆ばかり食べている。肉が食いたい。最後に肉を食べたのはいつだっただろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る