元気っ娘JDは遊園地デートする
『明日行かないってどういうこと?』
『ごめん……ちょっと、気持ちの整理が、つかなくて』
『いや、ちょっとはわかったよ?恋海が昔から言ってた、初恋の男の子が、将人だったんでしょ?』
『……うん』
『それめっちゃすごいじゃん!流石恋海、持ってるものが違うね!まさに運命ってやつだよ!かー嫉妬しちゃうねえ』
『……』
『でも、それを認めてくれなかったんだね。なるほどね……将人にもなんか事情があるのかなあ』
『わかんない、よ』
『……でもさ、仮にそれが将人の中で違ってたとしても、恋海にとっての将人は何も変わらなくない?好きだって気持ちは、ずっとあるわけでしょ?』
『そう、だけど……』
『ショックなのはさ、分かるよ。私じゃ想像つかないくらい、ショックだったんだよね』
『……とりあえず、明日は二人で行ってきて、いいから』
『……本当に?本当にいいの?』
『……うん』
『私は恋海のこと大好きだし、将人のこと好きになっちゃった時も……恋海が優しかったから、今があって、すごく感謝してる』
『一緒に将人落としちゃおうぜの話も、恋海とならきっとできると思ったし、幼馴染なんて最強カードじゃん!絶対勝ったようなもんじゃん!』
『――なのに、恋海は諦めちゃうの?』
『……ッ諦めない!諦めたくなんか、ないよ……!』
『……うん、そうだよね。恋海なら、きっとそう言ってくれると思った』
『……私、明日将人に告白するね』
『……え?』
『え、も何も!言ってたじゃん、将人の周りに先を越される前に、私達も頑張ろうーって。その絶好のチャンスじゃない?明日なんてさ』
『いや、だけど……』
『だけどもなにもなーい!だから、恋海も、きちんと、想いを伝えて。私明日、答えはもらわないから』
『みずほ……』
『明日、来なくて本当に良いの?』
『……』
『今まで、私たくさん告白してきたけど――今回は、本気だよ』
『……うん、わかってる』
『だから、来てね。待ってるから』
『じゃないと、将人君のハートは、私が頂いちゃうぞ!なんちて!』
『みずほ……』
って、言ったのに。
待ち合わせの駅で、私はスマートフォンの画面を見ながらため息をついた。
《恋海》『ごめん、私無しで楽しんできて。私のことは、気にしないで、いいから』
「気にしないなんて、無理だってわかってるのかなあ……」
今はおそらく気落ちしているだろう親友の姿を想う。
昨日、突然夕方に恋海から連絡があった。
今日のデートは、参加できない、と。
事情を聞いてみると、確かにそれはショックな出来事で……私からも少し、将人に話を聞けたらな、なんて思う。
そして私は私で、ずっとこのデートを楽しみにしていたからこそ、残念ではある。
できればこのデートで将人のハートを射止め、私達のものにしてしまおうと思っていたから。
それは、一か月ほど前の話。
「ってことは、やっぱり、将人の周りにはもっと女の子がいるってことだよね」
「そうなりますなあ……まあ、ボーイズバーで働いてるくらいですし……」
大学からの帰り道にある喫茶店で、私の恋海はカフェオレに口をつけながら情報の共有をしていた。
将人が私の運命の人というのがバレてしまった以上、バーで働いているというのも言うしかないわけで。
恋海にその事を話したら、どうやら恋海も、少し前に本人から聞いていたらしい。
「どうして将人先に言ってくれなかったの~」
「いや、そりゃあんまりボーイズバーで働いてます、って言いたくなかったんじゃない?だって、止めるでしょ、恋海」
「それはまあ、確かに」
つまらなさそうに頬を膨らませて、恋海がカフェオレの入ったグラスをつつく。
「とにかく、私達で先に将人を確保する必要があるよねって話だよね」
「そうそう!この前家庭教師やってるっていう女子高生と話したんだけど、やっぱり将人のこと好きって言ってたし」
「ま~そりゃそうか~。あの将人だもんねえ」
今時珍しい、外見も中身も完璧超人。
私達の周りの友達はそんなイケメンか?って言ってくるけど、皆目がきっと壊れちゃったんだね。
「……私はなんか、将人のことを好きな人達で、将人囲んじゃえば、なんて思ったりするんだけど……」
「ええっ!?だ、大胆なことを言うね恋海……」
「だって、あんな優良物件今時、独り占めなんて多分無理だし……そりゃ、できれば私とみずほで独占したいけど、私達より魅力的な人がいたら、将人にフられるの、無理だなって」
「将人にフられたら無理という気持ちには、納得ですけども……」
確かに、世の中では一夫多妻制を支持する声が大きくなってきているし、そういうのも、無しではないんだろう。
……でも。
「でもやっぱり、そうだとしても、その中で一番は私達でありたいなって、思っちゃうな……」
「それは、そうだよね……」
仮に一夫多妻制になって、将人が他の人とも付き合いたい、みたいな事になったとして……それでも、最初は、一番は、私達でありたい。
「それに!今誰かと付き合うってなって、その人とだけ付き合いますって言われたら私達終わりなんだよ?!」
「うぐ……」
「早急に将人氏を確保する必要があると思うであります!」
「そう、だね」
ビシっと敬礼しながら恋海に提案。
昔から、思ったらすぐ行動だったけど、今回は気持ちが本気すぎて躊躇っていた。
だけどもう、猶予はきっと、長くない。
なら、私の持ち前の猪突猛進っぷりでいってやれ!と思うわけで。
「よし、じゃあ、やろう!私達で、とっておきのデートプラン、そして告白プランを!」
「あいあいさー!」
なんてことがあって、今回のテーマパークデートが決まったわけなんだけど。
その直前で、このアクシデント。
それでも、私の気持ちに揺らぎは一切ない。
「恋海、私、本気だからね」
告白する。
今まで私は、何度も何度も告白自体はしてきた。
けれど、そのほとんどは、私が恋に恋してただけなんだって、分かる。
そして止めることのできないこの気持ちは、絶対にぶつけなきゃダメだって心が叫んでる。
このままにしておくと、恋海を出し抜くような形になってしまうと、思っていたから。
だから、今日この2人いる場所で、決めようと思っていたのだが。
「私、1人でも、やっちゃうからね」
覚悟を決めて、深呼吸。
大丈夫、今日はコーデも気合入れまくってきたのだ。
冬だから生足こそできないけど、黒のタイツに、黒レザーのショートパンツ。上は白のニットに、ネックレスをして、上から紺のダウンコート。
これは私の、いわゆる、勝負服、という奴だね!
「みずほ!」
「おお~!将人っち!おはよ~」
なんて思っていると、将人がやってきた。
う~ん、笑顔で歩いてくるイケメンは最高だね!
しかし、笑顔も束の間、すぐに将人は申し訳なさそうな表情になって。
「ごめんね、急に恋海来れなくなっちゃって……俺のせいだし、別の日に延期でも良いかなって思ったんだけど……」
「仕方ないよ!もうチケット買っちゃってたしね!……それとも、将人氏はみずほ1人では不満ですかな……?」
「いやいやいや!そんなことないけど!」
「ならよかった!」
2人で、テーマパークへと向かう。
少なからず、将人も精神的に辛そうだったから、冗談も忘れずに。
せっかくのデートなんだ、楽しんでくれないとね!
歩きがてら、事情は聞ける範囲で聞いてみた。
深くは話せないけど、やっぱり、自分自身は、昔恋海が会った人じゃない、とのこと。
うーん、私には判別できっこないから、難しいねえ。
「あー!将人あれ、つけようよ!おそろっち!」
「お、やろっか、たまにはこういうのもね」
テーマパークの入り口にあったショップには、キャラクターを模したカチューシャが売ってあった。
これを彼氏とお揃いにするの、夢だったんだよねー!
お揃いのものを買って、つけてみる。
私は、ツインテールにしていた髪ゴムを外して、髪をおろしてから……カチューシャをつけた。
その様子を見ていた将人が少しきょとん、としていたのを見て……少し、嬉しくなる。
「もしかして、髪をおろしたみずほちゃんに見惚れちゃったかな?」
「あ、ああ、ごめん。見慣れなかったから、かな」
「にしし……将人もばっちり似合ってるよ?」
「いやみずほの方が絶対似合ってるって!」
少しは、覚えててくれたのかな、なんて。
……もちろん、恋海のことは気がかり。
でも、やっぱり私は今日この想いを伝えると決めたから。
将人に好きになってもらうために、全力で遊ぶんだ!
「これ乗ろうよ将人!めっちゃ回るやつ!」
「めちゃくちゃ怖くない?!平気なの?!」
「よゆーよゆー!行くぞ~!」
「待って待って!」
絶叫マシーンで、将人が意外とビビりなことを知って。
「これめっちゃ食べたかったんだよね~!あ、写真撮ろ~!」
「みずほは写真好きだよねえ~」
「そりゃあね!大切な思い出を、形として残すのが好き!」
沢山写真も撮って。
私はこれでもかってくらいテーマパークを楽しんでいた。
全力で楽しんでいたこともあって。
気付けば、すぐに日は傾き始めていた。
最近は暗くなるのも、だいぶ早くなってきたな、って思う。
私と将人は、とあるアトラクションを降りて、お互いお手洗いということで一時解散。
入ったお手洗いに設置されている洗面の前で、私は自分の顔色を確認する。
「よ、酔ったかも……」
最近新しくできた乗り物に乗って見たら、結構視覚的にぐるぐる回るやつで、私はちょっと酔ってしまった。
まずい。こんなことで、将人に気を遣わせるわけには……!
ぱしぱし、と両頬を叩いて、気合入れ直し。
しっかりしないと。今日は大事な日なんだから。
お手洗いから出ると、すぐ近くのベンチに将人は座っていた。
「将人お待たせ~!さ、次行こ~」
「あ、ごめんみずほ、ちょっと休憩しても良い?」
「……?良いよ~私も少し休みたかったので助かる!」
偽らざる本音なので、私も将人の向かいの席に腰掛けた。
「あ、さっきそこでお水買ってきたんだけど、飲む?」
差し出された水のペットボトルを見て、私は全てを理解してしまった。
知り合ってからの期間で、将人のことを良く知ることができたからこそ、この行動の意味が分からないはずもなく。
「……将人っちには、敵わないなあ……」
「ははは……ちょっと、辛そうだったからね」
どうやら、乗り物を降りてからここまでの段階で、気付かれてしまっていたらしい。
ほんと、将人のこういうところが……どうしようもなく大好きだった。
手渡されたペットボトルの水を、一口飲んでから。
私は、将人に正面から向き合った。
「……ねえ、将人っち」
「ん?」
さあ、私も、覚悟を決めよう。
「今日最後に、あれ、乗ろうね」
私が指さした先。
そこには、このテーマパークで一番大きい――観覧車があった。
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