バスケ部JCは教える


 秋風が少し肌寒い季節。

 それでも、運動をすればすぐに身体はあったかくなるから不思議。


 ……そして運動をしていなくても、あったかいと感じることが実はできちゃったりします。


 「お、あそこが多分目的地かな?」

 

 「多分、そうですね!」


 私は隣で歩いている将人さんの手を掴んで、早足で目的の場所に向かっていく。


 「ちょいちょい!由佳そんな急がなくても!」


 「いえいえ!急がないと場所取られちゃうかもしれませんし!」


 「その時は高確率で既にとられてるよって相変わらず力強いな?!」


 後ろから響いて来る将人さんの声を聞きながら、ふふふって笑う。

 将人さんといれば、寒さなんてへっちゃらなんだから!


 





 「あちゃ、もう既に使われちゃってるね」


 「そうですよね……休日ですし」

 

 だむだむだむ、とバスケットボールが地面に弾む音が響く。

 今日は、将人さんと新しくバスケができる場所探しの日。マップとにらめっこして見つけた、あまり人がいなさそうな公園だったんだけど、休日だしやっぱり先客はいるよね。

 小学生らしき女の子達2人がバスケットゴールを使用中。


 「とりあえず、あそこのベンチ行こうか」

 

 将人さんが指さす先に、屋根付きのベンチが。

 とりあえず私達はそこに荷物を置いて。小学生の子達がバスケをするのを眺めながら、私と将人さんもベンチに腰を下ろしました。


 「ここなら穴場かなって思ったけど地元の小学生くらいはいるよねえ」


 「でもでも、もしかしたら、平日の午後とかは空いてるかもしれませんし……」

 

 未だに、私と将人さんの新しいバスケットコート探しは難航中。

 近くに体育館とかもあるにはあるけど、やっぱりどこも混んでるし、体育館だと私の知っている人もいたりしてちょっと恥ずかしいし……。

 冬に入ったら外でバスケをするのはちょっと難しくなるし、なるべく早く新しい場所を見つけたいんだけど……。


 「そうだねえ、とりあえずここも候補ってことで、一応コート空くかもしれないし、身体動かしとこうか?」


 「ですね!」


 将人さんに言われて、私もベンチから立ち上がる。

 寒い時期はいきなり動き出すと危ないし、入念に準備運動しなくちゃね。


 しばらく将人さんとウォーミングアップを続けていると、小学生達が帰るのか休憩なのかはわからないけど、コートから離れて行ったので。

 準備運動も十分にできていた将人さんと私は、ボールを持ってコートへ。


 「よーしじゃあシューティングしよっか」

 

 「はい!」


 一旦コート探しのことは頭から外して、私達はバスケをすることに。

 そろそろ冬の大会も控えてるし、しっかり練習練習!

 

 ボールが地面に弾む音と、シューズが地面をこすれる独特な音。この音が、私は好きだった。

 これを聞いていると、自然と気持ちが引きしまる。


 ……なんだけど、やっぱりたまに見てしまう。


 「……よっと」


 軽やかにドリブル、そしてシュート。

 ああ、やっぱり将人さんはカッコ良い。そしてそんなカッコ良い将人さんと一緒にバスケができているというこの事実が、何よりも嬉しい。


 気合いを入れ直して、私も自分のプレーに集中。

 ドリブルで少しゴールに近づいて、後ろ側に飛びながらのジャンプショット。

 けれど私が放ったボールは、ガンっ、という音をたててリングに阻まれた。


 この前は上手くいったけど、やっぱりこれは難しいな……。

 外れたボールを拾って、よし、もう一回……。


 「あの!」

 

 「え?」


 後ろからかかった声に、驚いて振り向く。

 そこには、さっきまでこのコートを使っていた小学生2人が、バスケットボールを両手に抱えて立っていた。


 なんだろう、と2人からの言葉を待っていると。


 「バスケットボール教えてください!」


 ぺこり、と律儀に頭を下げてくる2人組。な、なるほど、そういう感じね……。

 そりゃ確かに将人さんのプレーを見たら教えてもらいたくもなるか……私も最初はそうだったし。

 

 「え、っと……そしたら教えてくれるかどうか、聞いて来るね」

 

 「?」


 少しくらいならいいかな、と将人さんに許可をもらいにいこうとして……2人が何故か首を傾げていることに気付く。

 あれ、なんか私変なこと言ったかな……?


 「お姉さんにバスケットボール教えて欲しいです!」


 「え、ええ?」


 あ、私?!


 「良いんじゃない?」


 「……!将人さん」


 いつのまにやら将人さんも後ろにいて、笑顔でこちらの様子を見守っていた。


 「由佳のプレー見て、こうなってみたいって思ったんでしょ?そしたら、由佳が教えてあげればいいよ」


 「で、でも……将人さんの方が……」


 「俺のことは気にしなくていーから!」


 将人さんにそう言われたら、断ることもできない。

 うーん、同級生の皆に教えることはたまにあったけど、年下に教える機会なんてなかったし……。

 

 「……イケメンだ」

 

 「まあ、カッコいいね」


 「イケメンに教えてもらおうか?」


 「あ、はーい、じゃあ私が教えてあげるからね!!」


 なにやら良くない作戦会議を始めた小学生達を見て、私は迷いなく彼女達の一時的コーチを受け持つことを決めたのだった。



 

 小学3年生らしい彼女達のバスケは、技術的にはまだまだなのは当たり前なんだけど。

 さっきの作戦会議からは考えられないほど意欲的でびっくり。

 カチューシャをつけた女の子は、運動神経が良いのだろう。教えたことをすぐに実行していたし。

 ポニーテールの子はシュートフォームがこの年齢なのにかなり綺麗で驚いた。


 気付けば私も、この子達につられるように真剣にバスケを教えていて。

 時間が経つのは、あっという間だった。


 「まず基本はドリブルだから、やっぱりそこはたくさん練習して、ボールを見なくてもドリブルできるようになるのが良いと思う」


 「「はーい!」」


 ……またこのコートに来るかは分からないけど、もし次来た時にこの子達がいたら、またバスケを見てみたいな。

 私はそんなことを思いながら、リストバンドで額の汗を拭った。

 

 「皆終わったらちゃんとストレッチしてから帰るんだよ」


 ずっとコートの横で私達を見守ってくれていた将人さんが、タオルを持ってこっちに。

 ああ、良いなあ、将人さんがマネージャーだったら私練習ももっと楽しくなると思う……あ、でも部活の人達皆に知られちゃうのは嫌だな……。


 「「はーい!」」


 将人さんの言葉に従い、2人はストレッチを始めた。


 「将人さん、ごめんなさい、待たせちゃって」


 「いやいや!良いんだよ。俺もボールは使ってたし、由佳の良い所も見れたし」


 「もー……」


 いつもの笑顔でそんな風に言われたら、嬉しくないはずがない。

 ずるいなあ、将人さんは。


 「お兄さん!」


 「ん?どうしたの?」


 「ストレッチ難しいので、うしろから押してくださーい」


 「良いよ~」


 ……いや2人いるんだから、お互いで押し合えば良くない……?と思った時には、もう遅かった。


 「私もお兄さんの後ろから押してあげるね!」


 「こらこら、危ないよストレッチ最中は」

 

 ポニーテールの女の子の背中を、将人さんが押した瞬間、カチューシャをつけた女の子が、将人さんの後ろに覆いかぶさるように乗っかった。


 「私もお兄さんの背中押したい!」


 「ええ?俺別にストレッチまだしなくても……」


 「良いから~やるの~!」


 かと思えば2人がかりで、将人さんのストレッチを手伝うという名目で前と後ろから挟んで。

 

 ……そんな2人の表情が、バスケをやっていた時のソレとは程遠く。

 べたべたと将人さんの身体を堪能する、完全に下心丸出しの女の顔だったので。


 「そんなにストレッチしたいなら、お姉さんが一緒にやってあげるね!!!」


 「うわ~お姉ちゃんが怒った~!」

 「逃げろ~!」


 もー!結局こうなるんだから!!













 「ごめんなさい、今日は……」


 「全然!楽しかったよ、ありがとうね」


 結局、小学生の2人が帰った後、30分ほど練習をして、私達もコートを後にした。

 もう暗くなるのが早くなってきちゃったなあ。

 そろそろ新しい場所探しは諦めて、近くの体育館でやるしかないのかな。


 「初めて由佳が年下の子を相手にしてるの見て、微笑ましかったよ」


 「そう、ですかね……?まったく、あの子達バスケやってる時はあんなにまじめだったのに……」


 将人さんがカッコ良いのはわかるけど、そんなベタベタして良いわけないんだから……教育に良くないです!

 

 「なんかお姉さんって感じだったね」

 

 「お姉さん、ですか……」


 秋風が街路樹を揺らして――私は自分の身体を軽く抱きしめた。

 流石に夜は、ちょっと冷え込む。

 

 もうしばらく歩けば、もう私の家の近く。最近はここまで送ってもらって解散となるのが恒例。

 今日もきっとその例に漏れず、ここで解散だと思う。


 「お、もう着いたね。じゃあまた、バスケコートは探しに行こうね」


 「……あの」


 「?」


 私が呼び止めたことで、将人さんは立ち止まってくれた。

 そんな将人さんの右手を、掴んで握る。


 初めて会った頃は、身体に触れるのすらできないくらい緊張してたけど、今は違う。

 ……だけど、初めて会った頃から、この胸の高鳴りは、ずっと変わってない。


 不思議そうな顔をしているお兄さんの瞳を、正面から見た。

 


 「私が”お姉さん”になったら、将人さんの彼女にしてくださいね」


 

 「……!」


 

 この気持ちは、ずっと変わらない。

 いつか。将人さんと並んでいても兄妹ではなく、彼女と見てもらえるくらい、大きくなったら。


 私が将人さんの、彼女になりたい。


 

 「……で、では!今日はありがとうございました!」



 勢いよく将人さんに手を振って。私は駆け出した。


 最後までカッコ良く、はできないけど!

 気持ちを伝えるのは大事なことだよね!


 いつの間にやら寒さすら感じなくなって、燃えるように熱い身体を自覚しながら、私は家へと全力疾走で向かうのでした。




 


 

  

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆


【お知らせ】


いつも「貞操逆転世界で普通に生きられると思い込んでる奴」を読んでくださっている読者の皆様、本話も読了ありがとうございます。

作者のこーたろです。


この度、KADOKAWA電撃文庫様よりお声かけ頂き、本作品を書籍化することが決定いたしました。

これも、ずっと読み続け、そして評価や感想を下さった皆様のおかげです。

本当にありがとうございます。


……いやね?僕も思いましたよ?


正 気 か 電 撃 文 庫 って。


マイナージャンルである貞操逆転モノ、それもノリと勢いで書き始めたこんな作品を天下の電撃文庫様でやっていいんですかって……。

しかし編集の方は至って正気で、より良いものにして書籍化しようと尽力してくださいました。

そのお力添えもあって、1巻は展開を再構成し、書下ろしシナリオも加え、読みやすい出来になっていると思います。

良かったら、購読して頂けると、泣いて喜びます……!


1巻は来年2月発売となっております。

作者Twitter(僕の心の中ではいつまでもTwitter)@Koutaro_1226 ここから続報を発信していきますので良かったらフォローして頂けると幸いです。


Webでの連載は、更新頻度は遅くなってしまってはいますが、今後も続けていくつもりです。

ということで、長くなりましたが、今後とも本作を是非よろしくお願い致します!


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