文学少女JKはリークする
【聖女の集い】
まな『明日から文化祭2日目だけど誰か男呼んでないの?』
初美『三秋が彼氏呼ぶって言ってなかった?彼氏男連れてきてくれないの?』
三秋『あー男友達連れてって良い?って聞かれたわ』
まな『ま!?!?激アツやんけ!!』
三秋『でも断った』
【《まな》が《三秋》を退会させました】
汐里『あまりにも早い退会芸。私でなきゃ見逃しちゃうね』
【《初美》が《三秋》を招待しました】
【《三秋》が参加しました】
三秋『沸点ガキかよ』
まな『いやなんで断ってん?バカなの?』
三秋『いやお前ら絶対特攻するじゃん。それが嫌だった』
初美『っかあ心外だわあこちとらめちゃくちゃ淑女だってーのに』
まな『慎まやかにエスコートしたのになあ?』
三秋『絶対嘘だろ……』
初美『あれ?汐里のとこの王子様は?』
汐里『あー……えっとー……来る、と思います』
まな『マジ?!ついに実物と会えるのかあ!』
三秋『おー。それはシンプルに楽しみ』
初美『なんでそんな歯切れ悪いん?』
まな『男は!連れてこないのか!あ、いや王子様本人でも全然ウェルカムなんだけど』
汐里『男は連れてきません……』
まな『男“は”……?』
初美『あっ……(察し』
三秋『wwwwwwww』
汐里『なんかうちの卒業生の友達と行くわ!って言われて……女らしいっす』
まな『シンプル地獄で草』
文化祭。
去年も一応経験してるけど、去年の段階では仲良い友達もいなかったし、呼ぶような人もいなかったから一日中店番して終わってた。
けれど、今年は違う。
「はよっす~。お、寝取られ汐里んじゃん」
「おはよう。朝から言葉の刃キレッキレだね危ないから少し仕舞おうか?」
憎まれ口を叩きながら教室に入ってきたのは、ボーイッシュ選手権ナンバーワン(自社調べ)の初美だ。
まだ初美とも他のメンバーとも付き合い自体は長いわけではないけど、波長が合うのかとても仲が良い。って勝手に私が思ってるだけかもだけど……そんなことは無いと信じたい。
「寝取られ展開もイケるとか汐里の性癖もなかなか業が深いね」
「ま、まだ寝取られたと決まったわけじゃないし」
「声震えてるけど」
まあでも正直、否定はできないなと思ってしまう。
夏のあのお祭りの日のことを思い出す。
あの時の自分の浅ましさを考えれば、私の性癖は業が深いし変態なんだろう。
今日将人さんが連れてくると言った女の人も、きっとそういう関係。
でも別に良いかなって思ってる私が怖い。
おもえば私の中の将人さん像はどんどんと変わっていった。
最初は超絶イケメンお兄さん。途中から、中身まで完璧超人なんだってなって……。最近は、その、女性関係が……。
でも、正直それ自体は私にとって悪い事じゃない。そりゃ最初は私だって将人さんの一番になりたい、彼女になりたいって思ってたけど、冷静に考えてあんな超絶完璧イケメンが私1人の手に負えるわけがない。
将人さんが女性関係にだらしなければ、ワンチャン私にもおこぼれがあるかもしれないし……。
「あ、おはよ~寝取られ」
「私の名前は寝取られじゃないわ」
もれなく全員私のことなんだと思ってるんだこいつら。
ってかそもそも彼氏じゃないんだから寝取られじゃないだろ。
「2年B組お化け屋敷やってまーす!」
「喫茶店やってまーす!」
「たこ焼き焼きたてですよ~!」
学校という施設がこれだけ喧騒に包まれると、流石に非日常感がある。
去年は正直このやかましさが好きになれなかったけど、今年はそんなに気分が悪くない。
それはきっと自分の気持ちの問題で。
「汐里いいよ看板代わる。そろそろ王子様来るだろ?」
「あ、もうそんな時間か……」
教室の前で突っ立っていただけだったけど、意外にも時間が経っていたらしい。
にしてもなあ……。
私は憂鬱な気持ちをこらえて、生徒用のトイレでみだしなみを整えた。
正直気分は複雑だった。
もちろん将人さんが文化祭に来てくれるのは嬉しいし、テンションも上がる。
けれど、けれどだ。
女の人を連れてくるって言われて私はいったいどんな顔でその人に自己紹介をすればいいんですかねえ……。
これがよくあるラブコメディなら、きっとその人と私がバチバチになって、将人さんの取り合いをするのかもしれない。
でも私はそんなことする気になれなかった。
鏡を見る。そこに映る、いつもの私。
外見こそ取り繕ったままだが、将人さんはこの内に秘めた篠宮汐里という人間を知ってくれている。
将人さんは好きだ。
けど、将人さんのハイスペックを知っているからこそ、私1人が独占していいような存在じゃないのも理解している。
今日おそらく連れてくる女の人だって、きっと将人さんを狙ってるはず。そりゃそうだ。将人さんの近くにいて、好きにならないなんて女として欠陥があるとしか思えない(過激派)。
そしてきっと、私なんかよりもずっと可愛くて、女性らしい人なんだろう。
それを目の当たりにした時、私は一体どんな感情を抱くんだろうか。
嫉妬?自己嫌悪?
それとも……あの夏祭りの日感じたような、歪で、それでいて高揚感のある――
ブー、とスマホが小さく振動した。
ポケットから取り出してみれば、『片里将人』の文字。
学校に着いた旨の連絡を確認して、私は一つ息を吐いた。
「まあ……なるようになるか……」
「さーて、皆で汐里が目の前で寝取られる所見に行こー」
「いやー楽しみだなあ。友達が脳破壊されるの直で見れるなんて」
「お前らホントにド畜生だな?」
廊下に立って将人さんが来るのを待っていると、教室からわらわらと友人達が顔を覗かせる。
ああ、なんかとても嫌になってきた。
「あ、いたいた!汐里ちゃんだ」
その声は、唐突に聞こえてきた。
廊下の向こうから歩いてくる姿は、将人さんのモデルみたいな体型と顔も相まって、ドラマのワンシーンみたいに見えなくもない。
問題は、その後ろに女の人が歩いてるってことなんだけど……。
将人さんは深めの青と白のいわゆるエプロンチェックの長袖シャツに、黒のスキニー。肩掛けのポシェットすらも、将人さんのカッコよさを引き立たせているように見える。
「汐里ちゃん誘ってくれてありがとうね!えっと、こっちが友達の恋海!ここの卒業生だってよ」
「はいはい!五十嵐恋海ですー!流石に数か月じゃあんまりなつかしさないねー!」
将人さんの後ろからひょこっと顔を覗かせたのは、ショートボブの可愛い女性。
あ、こーれダメです。何一つとして勝っている要素がありません。
短めのキュロットスカートにオフショルダーのブラウス。もう陽キャですっていうオーラがバチバチに光り輝いている。
ポン、と両隣から肩に手が置かれた。
「汐里。無理だ。諦めろ。相手が強すぎる」
「ああ。勝負にすらなっちゃいない。塵だよ塵。君は」
「あんたら本当に黙っててくれませんかねえ!?」
憐みの目で見てくるゴミ友人達の手を払いのける。
んなことは最初から分かってたよォ!
「……?とりあえず汐里ちゃんのクラスから回ろうと思ってたんだけど、今平気?」
「あ、大丈夫ですよ。今店内ガラガラなんで……」
なんかすごい惨めな気持ちになって来たな……?
とりあえず将人さんとその友達の五十嵐さんを連れて、教室へ。
うちのクラスの出し物は喫茶店。なんの物珍しさもない、普通の喫茶店だ。
将人さんを連れて教室に入ると、教室がにわかに色めき立つ。
「えっ……誰あのイケメン」
「篠宮さんの彼氏?」
「いや流石にそれはないでしょ……」
おい誰だ今どさくさに紛れて私の悪口言った奴。
私もその通りだと思います。
「あれ、恋海先輩じゃないですか!」
「ありゃ!久しぶり~!元気してる?」
丁度2人を席まで案内したタイミングで、五十嵐さんの方にクラスメイトが声をかけた。確かあの子はソフト部の……。
「え、恋海先輩の彼氏さんですか……?!え、めっちゃカッコイイ」
「ほんとだめっちゃイケメン来てる!」
教室にいたクラスメイトの女子達が群がってくる。
おいお前らやめろ!群がるな!気持ちはわかるけど!
「はいはい気持ちはわかるけど将人が困るからあんまりジロジロ見ちゃダメだよ!」
「そうだぞー恋海先輩は怒ると怖いんだから皆怒らせないでね」
「それは違うでしょ!」
私のいないところで話が進んで盛り上がっていく……嫁力高いなーこの人。
こりゃお似合いだわ間違いない。
と、そんなタイミングで席に着いた将人さんが、私の腕をちょいちょいとつっつく。
「ごめんね、せっかく誘ってくれたのに全然時間作れなくて」
「え……ああ、いえ。むしろ来てくださってありがとうございます」
この気遣い。この性格の良さは本当に将人さん唯一無二だなあと思わず感心してしまう。
「……もっと素で良いのに」
「……っ!さ、流石に学校ですし……」
あーもうほんと、こういうところだ。
せっかく半分諦めてるのに、こういうところが私の心をかき乱す。
「汐里、ありゃ無理だ。完全にあの先輩お前の王子様に入れ込んでるし、スペックで勝てやしないよ」
「んなこと言われなくてもわかってるわ」
未だクラスメイト達から大人気の2人を席において、私は仲間がいるところへと戻る。
「いやでもわかるなあ。あれは惚れるわ。そこそこのイケメンで、性格もよさそうだし。私も彼氏いなかったら危なかったわ」
「マウント乙」
彼氏持ちの三秋にマウント取られた。調子に乗りやがってよぉ……!
でも実際あれだけのカッコ良さで今まで彼女がいないというのだから世の中わからない。
あんなの彼女10人いますって言われたってまあおかしくないわなって思うのに。
「え、将人本当にいいの?」
「全然良いよ、面白そうだし!」
「本当ですか?!ありがとうございます!!」
ん……?なんか話が盛り上がってる。
なんだろ?
今しがた将人さんと話していたクラスメイトが笑顔でこっちにやってきた。
「ねえ篠宮さん!あのカッコ良い人に執事服着てもらってちょっとだけ呼び込みやってもらおうと思うんだけどどうかな?!」
「……はい?」
ツッコミどころしか無いが????
「こちら2年C組で喫茶店やってますー!」
「え、なんか執事服のイケメンいるんだけど」
「ちょっと見て行かない?」
あれよあれよという間に話が進み、演劇部の子が持ってきた執事服に身を包んだ将人さんが何故かウチの教室の前に立っていた。
そしてお客さんが増えた。なんだこれ。
とりあえず後で写真撮ろ……。
「将人ったら本当になんでも受けちゃうんだから……」
「あはは……そうですね」
そして私の隣には将人さんの連れてきた友達、五十嵐さん。
正直胃が痛いです、ハイ。
その五十嵐さんが、ねえ、と一つ呼吸を置いて私に話しかけてくる。
「汐里ちゃんはさ、将人のこと好きなの?」
「……えーっと……」
はい、来ました。牽制球です。
牽制球のボールがランナーの私に直撃してる気がするけど大丈夫そ?
なんて答えれば正解なんですかねえ……。
はい、そうですって言ったら私この瞬間に刺されたりしない?
「ごめんごめん、言いにくいよね。でも、将人の近くにいたら、好きになっちゃうよね。ほんと、良い人過ぎるしさ」
「……まぁ、なんといいますか、その、はい、そうですね……」
隠すのも無理があるかなと思い、とりあえず賛同しておく。
じゃ、消えて?って言われない?平気?
「だよねえ……将人が女子高生の家庭教師やってるって聞いた時からそうなんじゃないかとは思ってたよ~」
ため息をつきながらも、意外と平穏な反応……いやだけど油断するな。
ここはこっちもちゃんと意志表明しておかないと……。
「あ、でもあれですよ。本当私程度の人間が将人さんを独り占めできるなんて思ってないですし。でもほんの少し、ほんの少しでいいからおすそ分けしてもらえたらなーなんて……」
……逆にキモイか、これ。
まぁでもこれが私の本心だから。
そもそもあんな神みたいな人を独り占めするって方が罰当たりそうじゃない?どう?
そんな私の聞く人が聞けばドン引きのお気持ち表明を聞いた五十嵐さんは、少しきょとん、とした後。
「……そっか。そうだよね。皆、思うことは一緒か……」
と、呟いた。
五十嵐さんも思うところがあるのだろうか。
笑顔で接客する将人さんを見ながら、どこか物憂げな表情をしていた。
「ま、まあ、将人さんの周りにいる人みんな狙ってる説ありますからね。流石にこの前中学生くらいの子といちゃいちゃしてた時はびっくりしましたけど」
あの子もきっと将人さんが大好きでたまらないのだろう。思春期真っ盛りだろうし。
でも流石にあそこまではやりすぎですよ。混ぜて欲しい(切実)。
なんて思っていると、こちらを向いて目を丸くする五十嵐さん。
「……え?」
「え?」
……あれ、私また何かやっちゃいました?
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