元気っ娘JDは自己嫌悪する


 私はアウトレットとかショッピングモールでする買い物が好き。

 それは単純にオシャレが好きということもあるけれど、買うことはしないけれどこれとか好きだな~とかこのアクセあの子に似合いそうだな~とか考えるのが好きで。


 だからよく、休日のお出かけにショッピングを選ぶし、もし、もし私に彼氏とかできたら、一緒に服とか見れたらすごい楽しいだろうなあって思ってたんだけど。


 「みずほこれ似合いそうじゃない?普段着てる感じのトップスに合うと思うんだけど」


 「え、え~そうかな~……?」


 実際にこうして、好きな人と買い物に行くのは、だいぶハードルが高いよ!!

 真剣な表情で服を選ぶ将人を横目で見ながら、少しだけ天を仰ぐ。


 どうしてこんなことになったんだっけ……。








 大学生の夏休みはとっても長い。

 どれくらい長いかというとだいたい8月丸々が休みで、9月も中旬から下旬にかけてまでお休み。 

 それを最初聞いた時は休みながーい!うれしーい!なんて思ってたけど。


 8月中にあったあの3人で行った海水浴から1ヶ月ほど。 


 未だに私の感情はぐちゃぐちゃで、とてもお休みを満喫できる気分じゃなかった。


 「はぁ……」


 9月の夜中。もう暑さもだいぶ引いてきて、秋っぽい気候にだんだんとなってきている。

 私は自室のベッドに横になりながら、スマホとにらめっこを続けていた。


 

 『じゃあさ、みずほ……私で、将人の彼女になろうよ』


 「あ~!!もうよくわかんないよ……」


 ごろん、とベットの上で転がって、私は大の字に手を広げた。


 あの日交わした約束。

 それは一見だいぶおかしな提案に思えて、その実インターネットで検索してみれば、意外ともう一般的なようで。

 そういうものなんだ、と一旦は私も飲み込んだんだけど。


 「将人が許してくれるかどうかは別問題なわけでして……」


 普段はツインテールにしているセミロングの髪を指でくるくると意味もなく巻いてみた。

 

 私達でいくら盛り上がったところで、将人が許可してくれるかどうかはわからない。

 正直、私も将人は高嶺の花だと思っているし、1人で勝負を挑むのは元々だいぶ気が重かった。

 

 だから恋海と一緒なら確かにワンチャンあるかも?!とあの時は思ったけども。


 将人から「そういうのはちょっと……」と言われてしまったらそれでおしまい。

 しかもそんなことになったらきっともう将人は私達とは一緒にいてくれないだろうし……。

 将人は良い人だから、どっちかを選ぶとかも難しそうだし……。


 「はぁ……」


 ため息ばかりが出る。

 

 そんな時だった。

 ピロン、とスマホの通知が鳴って。


 さっきベットに放り投げたままだったスマホを手に取る。


 「え……」


 通知の名前に驚いて、私は寝ていた体勢から起き上がって、姿勢を正して座り直した。


 SNSを開いて、既読がつかないように少しだけ長押ししてメッセージを読む。



《片里将人》


『みずほ今週どっか暇?』

『秋服が全然無くって服買いに行きたいんだけど~』



 「……っ!」


 身体が少し熱くなるのがわかる。

 ちょっとお出かけに誘われただけでこんなにも嬉しくて、ああやっぱり将人のことが好きなんだなって自覚する。


 「え、ちょっと、どうしよう。最近会ってなかったし……」

 

 今から会うわけでもないのに、自然に髪を手で梳いていた自分が滑稽で笑ってしまう。

 どうしようめちゃくちゃテンパってる!!


 「そ、そうだこういう時はSOSしよう!」


 同じSNSの画面から、《恋海》の名前を探して通話ボタンを押した。

 

 コール音のメロディが鳴って少し。

 


 『もしもし?』


 「あ、もしもしごめんね夜遅くに!」


 『ん~ん大丈夫~どしたの?』


 「あ、あのですね……」


 私は言葉を選びつつ、将人にデートに誘われたことを説明した。

 あんまりるんるんで話すのは、恋海にも悪いし……。


 『う、羨ましすぎる……え、なんで私じゃないの将人?!』


 「あ、あはは……恋海と前出かけてたし、気遣ってくれたんじゃないかな……?」


 海水浴に行って以来、私は将人に会ってなかったけど、恋海は何回か会っているらしい。

 恋海の積極性はホント見習いたい……。

 

 『えーでもよかったじゃん!アウトレットとか行ってきちゃえば?』


 「あーありかも!前恋海と行ったところあったよね」


 『海浜公園の近くのやつね、そうそう!……服買うなら車で行く感じ?』


 「あ……それ全然考えてなかった」


 『どうせなら車で行けば?いいなードライブデート』


 私は高校受験が終わったタイミングで免許を友達と一緒に取ったので、運転ができる。

 車はまあ……レンタカーとかでもいいし……。だけど……。


 「で、でもドライブデートってレベル高くないですカ……?」


 『何言ってんの!むしろみずほが言ってたんじゃない!「良い男を捕まえるには免許は必須だZE☆」って!』


 「うえーん!あの頃はホントバカだったんですう~!」


 色んな意味であの頃の私は無敵だったなあ……。女子高生ツヨイ……。


 将人とのデートに想いを馳せていると、恋海が思わぬことを言ってきた。

 

 『それにほら……車で行けば……帰りワンチャンあるかも、だし……』


 「……わ、わわわわワンチャンってなんのことですか???」


 『カマトトぶらないでよ……』


 「なんのことかワカラナイナー」

 

 さ、流石にそんな展開にはならない……よね?


 























 

 と、いうわけでこんなことになっています。

 いじょう回想終わり!


 「……?どしたのみずほ」


 「えっ?!いやなんでもないヨ?!」


 危ない危ない。そんな回想に浸ってる場合じゃなかった。


 気を取り直して、隣で真剣に服を選んでいる将人を見る。

 やっぱりカッコ良い。




 『私達で将人の彼女になろうよ』




 「っ……!」


 ダメダメ。今はそんなことを考えちゃ。

 せっかく将人が誘ってくれたんだから、今日はこのデートを楽しまなきゃ!


 真剣に服を選んでる将人に、私は気になっていたことを聞いてみた。


 「ね、ねえ、将人はなんで私を誘ってくれたの?」


 「え?いやなんでって……」

 

 この時私は忘れてた。将人という男の子が、どういう人だったのかを。


 

 「俺の知り合いの中で一番ファッションセンスが良いのがみずほだったから?」


 「っ……い、いや~いやはやそれは嬉しい評価!そんなこと思ってたのかこのこの~」


 「あ、ちょ、一旦服掛けさせて!」


 恥ずかしくて、思わず表情が見られないように肘でつっついてやった。

 なんでこんなに、欲しい言葉をかけてくれるんだろう。

 ファッションセンスが良い。もちろんその言葉自体も嬉しいけれど、なによりもそれは普段から私のことを見てくれていることに他ならなくて。


 「ほら、これどう?みずほにはこういうの似合うと思うんだよね」


 将人がそう言って見せてきたのは、えんじ色で少し丈の短いキュロットスカート。

 細くて黒いベルトが、カジュアルな中でも大人っぽさを主張していた。


 正直に申し上げて、好きだった。

 なによりも、将人が選んでくれたということもあるけれど。


 「え、めっちゃ良い!これ買う!」


 即決!善は急げじゃ~!


 「ちょいちょいちょい!流石に試着していきなよ?!」


 「あ、そうだった」


 サイズ的には問題なさそうだけど……一応確認のため。

 すると近くを通った店員さんを将人が呼び止めてくれた。


 「あ、すいません、試着室ってどこですか?」


 「えっ……あ、ああ、こちらです!」


 一瞬面食らった店員さんが、私達を試着室に案内してくれる。

 まあ確かにこんなところに男の人がいるの珍しいもんね。


 しかもこんなイケメン!

 ちょっとだけ鼻が高くなってしまう。


 「こちらになります」


 「ありがとうございます。あ、じゃあみずほ荷物持っておくよ」


 「ありがとう~!ではしばし待たれよ!」


 こういう気遣いも将人らしくて、嬉しくなっちゃう。


 将人に荷物を預けて、私は試着室に入った。

 

 さて、将人を待たせてるわけだし、早めに試着を――



 「あの、彼氏さん、ですか?」


 はたり、と、手が止まる。

 おそらくさっきの店員さんが、将人に声をかけたらしい。

 まぁまぁ将人はカッコ良いからね。少しくらいなら許してあげよう。




 「あ、いえ!友達です」





 ズキリ、と胸が痛む。

 ーーわかってる。

  

 私と将人は、あくまで、友達。


 なのになんでこんなに、胸が痛むんだろう。



 「え、そうなんですね!すみません、私てっきり……」


 「いえいえ。大丈夫ですよ」


 「え、じゃあお兄さんは彼女さんとかは……」


 「えっと、いないですけど……」


  

 ……ちょ、ちょ、ちょ?なんか雲行き怪しくない?


 

 「えー!そんなにカッコ良いのに……あ、あの良かったら連絡先とか」


 おいこらあー!!人が試着してる隙にナンパなぞさせるか!!



 「将人ーーー!!?」


 「うわあ!びっくりしたなに?!」


 「これめっちゃ良い感じー!!!」


 「じゃあとりあえず見せてくれないかなあ?!」


 必殺の早着替えを炸裂させて、私はカーテンを開ける。


 「おー!やっぱ似合うよ!」

 

 「へへーん。でしょでしょ?よっしこれに決めたー。店員さん、お会計してもらっていいですか?」


 「あ、はい……」


 将人にバレないように、私は笑顔(意味深)で店員さんにレジを促した。



 


 

 


 

 

 


 





 帰り道。

 ショッピングモールを後にした私達は、車で帰路を辿っていた。


 「いやーたくさん買っちゃったよー!将人ありがとうね!」


 「いやいやこちらこそ運転までしてくれてありがとうだよ」


 運転も久しぶりだったけど、将人が横にいるっていうだけで退屈とか苦痛は一切感じなかった。

 話してるだけでも楽しいって、やっぱり最高すぎるよー。




 『あ、いえ!友達です』



 ハンドルを握る手に、少しだけ力が入った。


 だからこそ、思い出してしまう。

 私は、将人の彼女じゃない。



 『2km先、右方向です』


 「次右だってさー、そろそろ右車線入っていた方が……みずほ?」


 「あ、ああ!うん、そうだ、ね」


 この大通りを右に曲がったら、もうすぐお別れ。

 この夢の時間も、終わってしまう。


 右車線に入らなきゃいけないのに、嫌だと心が叫んでる。


 


 このままどこかに行ってしまいたい。

 

 将人と二人で、二人で、どこか知らない場所まで行ってみたい。


 将人と……二人で愛を誓いたい。


 暗い気持ちが胸の中でじんわりと広がるのがわかる。

 あの夜に感じた、どうしてもこの人を独り占めしたいという、どうしようもない、欲求。


 ここをそのまま真っすぐ行った先に、休める場所が、ある。





 「ね、ねえ……将人、えっと……」


 「いやー楽しかったなあ~やっぱりみずほ誘って正解だった!新しいカッコ良い服買えたし~途中店員さんに絡まれた時も、助けてくれたしね?」


 


 外の喧騒が、少し間が空いた車内に横たわった。


 


 「……あ、あはは!バレた?私の目の黒い内は、将人には手を出させんぞ~!なんちゃって!」


 



 ……静かに、私は右のウィンカーを出した。



 手を出させないぞ、なんて嘘をついて。

 もうとっくに踏み越えちゃいけないラインなんて越えているのに。


 やっぱり私は、どうしようもなく最低だ。

 

 

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