文学少女JKは覗き見る
世間は夏休みと呼ばれる時期に入った。
高校生という身分にある私もその例に漏れず、現在進行形で夏休みを謳歌させてもらっている。
今日は友人である三秋と一緒にファストフード店でランチ中。
このクソ暑い中「部活終わったから来いよ」とかいう死ぬほど自分勝手な理由で呼び出された私は然るべき手段を持って訴えても誰も文句言わないと思う。
事件は、そんな時に起こった。
パタリ、と私が落としたスマホが倒れる音が響く。
そ、そんなはずは……と私が絶望の表情で落としたスマホを、対面に座っていた三秋が拾い上げる。
そして奴は容赦なく私のスマホの画面を開いた。
「断られてて草ァ!!!そりゃ女の1人や2人いるだろ!」
「ええ……いるでしょうねそれは……」
「なに知ってて聞いたの?ウケる。あいつらに共有しとこ」
面白がって私のスマホと悲嘆に暮れる私を撮影する三秋。相も変わらずド畜生だなコイツ。
「『汐里、家庭教師のお兄さんを夏祭りに誘うも撃沈で草wwwww』と……」
「お前らに人の心とかないんか?」
ケラケラと笑う三秋にスマホを返されて、SNSの画面を開く。
今しがた三秋が共有した写真に、さっそくコメントが届いていた。
まな『当然の結果で草』
初美『むしろ何故通ると思ったのか』
ああ、こいつらに人の心なんか無かったわ。
ちょっとでも期待した私がバカだったわ。
……まあでも正直、この結果は割と納得でもある。
あれから、私と将人さんの関係は変わった。
私はもう清楚を無理して装う必要がなくなり、ほぼ素の状態で話している。
たまにかなり遠慮なく話してしまっている自覚があるのだが、何故だか将人さんはそれが嬉しいみたいで。
そんでもってそれが嬉しい私はそれを続けて……というループ。
私は楽しいから良いんだけど……将人さんは本当にそれでいいんだろうか。
そしてなにより……あの“跡”の事。
将人さんの近くには、女がいる。間違いなく。
彼女はいないと言っていたから……いわゆる身体だけの関係というやつなんだろうか。
ゴクリ、と生唾を飲み込んだ。
あのぅ、拙者も入れていただけないでござるかねぇ……!
羨ましすぎるんだが???セフレ?大いに結構。肉欲に勝る物無し。
まずは清く正しいお付き合いからなんていう精神は5才の時に消し飛んだわ。
私もその先発ローテーション(意味深)の中に入れてもらえませんかねえ……。
「おい、まなから連絡きてんぞ?」
「え?」
ボケっとそんなことを考えながらバニラシェイクのストローを咥えていると三秋にデコピンされた。
スマホを開く。
まな『んじゃ汐里私と祭り行かん?私もアプリで知り合った男にフられて暇なんだよね』
初美『お前も懲りないなあ……あ、私も暇だから行くわ。ワンチャン男釣れるかもしれんしな』
「あ、ちなみに私は彼氏と行くから。すまんな」
「あ、聞いてないっス」
対面のリア充は無視。リア充に構って良かった試しがないって古事記にもそう書いてある。
で、問題の夏祭りの誘いに関してだが。
なーーーにが悲しくて女3人で祭りなんぞ行かなくちゃならんのだ。お断りじゃお断り。
汐里『無理でぇ~す!そんな傷のなめ合いするくらいなら家でゲームしまぁす!』
まな『じゃあ18時○○駅集合でよろ。ナンパすっから浴衣な』
初美『うぃ~』
……もしかして私だけこいつらと使ってる言語違ったりする?
夏祭り当日。
「っしゃー男漁るべ」
「そんな上手く行くかね……」
結局……来てしまった。2人が浴衣なのに私が浴衣じゃないのも変だなと思って浴衣まで着て……。
「いつまで落ち込んでんだ汐里。早く行くぞ~」
「え~……マジでナンパするの?」
「あったりまえじゃん!なんのためにここまで来たと思ってんのよ……」
そう言って元気よく歩き出すまな。
まなは私達の中で一番今時の女子らしい。ほんと陽キャ女子って感じ。何故私なんかと仲良くなれたのか甚だ不思議でならない。
「ま、私もあんま乗り気じゃないんだけどねー……」
そう言って続くのは初美。こっちもこっちでベリショでボーイッシュな健康女子。見るからにスクールカースト高そう。
ハイスペックに囲まれるこっちの身にもなって欲しい。
はっ……こいつら最初から私を当て馬にするつもりで……なんてゴミクズな奴らなんだ……やっぱ友達やめるか……。
とか全然思ってもいないことを考えつつ私も2人に続いた。
「全然捕まんね~!!!」
「そらそーでしょうよ」
お祭りが始まってから1時間ほど。
結局私達はろくに男の人に巡り会えていなかった。
そもそも人数が少ないのもそうだし、だいたいの男はやはり女性つきで来ている。
男性のみで来ていることが、極端に少ない。
「お前らもうちょい気合入れて探せよ~」
「え~そんなこと言われても~ってかお腹すいた~」
会場に設置されているベンチに、初美が腰掛ける。
言われてみれば、私達はまだなにも食べていないし屋台にそもそも行っていない。
「たしかしたかし。なんか食べない?」
「しゃーないか。諦めて普通になんか食べるか」
まなも流石にこの人数も増えてきた状況では厳しいと思ったらしい。
もう皆お祭り楽しんでる段階だしね~……。
「よし、そうと決まればどっか行こうよ。焼きそば?たこ焼き?」
「どっちも!」
「デブじゃん」
「黙れ」
憎まれ口を叩きながら、私達は屋台の方向へと向かっていく。
「焼きそばうめえ~」
「普段やきそばなんて食べようと思わないのになんで祭りの時の焼きそばって美味しいんだろうね」
私も自分で買ってきた焼きそを口に運ぶ。
うん。美味しい。紅しょうががあると味が締まって良いよねえ……。
「たこ焼きも開けようぜ~」
たこ焼きが入っているプラスチックの容器を、初美が開ける。
途端にソースの香りが、ふわっと辺りに広がった。
う~ん、夏祭りって感じ。
夏の夜ならではの暑いのに涼しいような気温も。
いつもなら煩いだけの虫の合唱も。
この時だけは何故か心地良い。
珍しく私がそんな感傷に浸っていた、そんな時だった。
「おいおい中学生っぽい子ですら年上の男連れてんぞ。今の子は進んでんなあ……」
「流石に兄妹じゃない?いやまあだとしてもあんなお兄ちゃん欲しいわあ……」
たこ焼きを頬張る2人の視線の先。
私もそんな前世で得を積みまくったとしか思えないような子の姿を見ようと、そちらに目をやった瞬間。
「……ッ!」
私は、息を呑んだ。
将人さんだった。見間違えるはずもない。
あぁ……浴衣姿もよく似合っている。流石の王子様力と言うべきか……。
そして問題はそこではない。
一緒に並んで歩いている女の子……。どう見ても、高校生以上には見えない。
中学2、3年といったところだろう。
妹?いや、違う。将人さんは兄弟はいないと言っていた。
ではいったい……?
仲良く並んで歩く2人が、人混みに紛れて見えなくなる。
自然に、私の足が動いていた。
「ちょ、汐里?!どこ行くの?!」
「ごめん後で連絡する!!」
私は走り出す。浴衣が足にまとわりついて煩わしい。
確かめなければならない。
あの子が、将人さんに“跡”をつけた犯人なのか。
確率は低いと思う。流石に年齢が低すぎる。
さしずめ、面倒を見てる親戚の子とか、そんなんじゃないんだろうか。
それでも、可能性はある。
もし、もし万が一あの子がそうなんだとしたら。
私にも、チャンスがあるということじゃないだろうか?
幸い、2人の姿はすぐに見つけることができた。
身長差もある2人は結構目立っていたし、そもそも将人さんの雰囲気を私が逃すはずがない。
「いた……」
楽しそうに話している。
少女……そうだな、今はロリっ子と名付けるか。ロリっ子が狐のお面を将人さんに渡している。
不思議と……私の胸の内に嫉妬のような感情は湧いてこなかった。
それは、それこそ兄妹のようにしかみえないからなのか、それとももっと別のものに由来するのかはわからない。
『間もなく、お祭りのラストを飾る打ち上げ花火を行います』
お祭りの会場に設置されたスピーカーから、アナウンスが響いた。
もう、そんな時間か。
周りの人間は皆、花火が見やすい境内の方へと移動している。
まずい。人混みに紛れていたからバレていなかったが、周りに人がいなくなったら別だ。
将人さんに気付かれてしまうかもしれない。
私はとっさに、裏道の雑木林の中へと身を隠した。
よし。ここからでも、2人の姿はしっかりと確認することができる。
なにやら、将人さんがかがんでいる。
お面を、外しているのかな……?随分と、距離が近いような――。
そして、次の瞬間。
ロリっ子が、将人さんにキスをした。
「っ……!」
思わず、木の影に身を隠して口を両手で抑えた。声が出てしまいそうだったから。
嘘、でしょ?つ、付き合ってるの?あのロリっ子と……え、でも恋人はいないって……。
おそるおそる、もう一度2人の方を見る。
その時見た光景は、もっと刺激的なものだった。
将人さんを抱きかかえたロリっ子が、将人さんを雑木林の中へと運んだかと思えば。
思い切りその浴衣を脱がせたのだ。
「っ……」
私は思わずしゃがみ込んだ。
もう彼らとの距離は近い。少しでも物音をたてれば、バレてしまうかもしれない。
その場に座りこんで、首だけを動かして様子を伺う。
「ちょ、由佳……!ダメだって……!」
「将人さんが悪いんですよ。こんなえっちな姿を見せて私を挑発するから……!」
……心臓が破裂しそうだった。
私のすぐ後ろで、あの愛しの将人さんが襲われている。
もし私が清く、正しいヒロインなら。きっとやるべき行動は出て行って止めることなのだろう。
なにしてるんですかって。
そんなことしちゃいけませんって。
それなのに。
「はーっ……!はーっ……!」
息が荒くなる。
あの将人さんが、私よりも幼い少女に良いように蹂躙されているという事実に、どうしようもないほどに興奮する。
私よりも幼い少女が、私なんかよりも遥か上を行っていることに絶望する。
それは相反する感情のはずなのに。
この2つの感情が歪に重なり合って
もっと声を聞かせてほしい。息遣いを聞かせて欲しい。
もっと……乱れてほしい。
下腹部を撫でた。
私のそこは、信じられないほどの熱を帯びていて。
あぁ。私と言う生き物は。
本当に度し難い生き物だ。
顔が熱い。身体が熱い。
なのに、何故か涙が止まらない。
有り余る熱を冷ますために。
2人の嬌声を聞きながら。
私は自分の身体へと手を伸ばした。
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