幼馴染系JDは背負われる
真夏の太陽が、砂浜を焼いている。
初夏とは思えないほど気温は上がりに上がっていた。
俺たちが来たのは、夏の風物詩でもある、真っ青な海。
「海だ~!!!」
「おーい!いきなり入るなよ!準備運動しないと危ないぞ!」
夏休みに入って。
恋海とみずほと俺の3人は、予定通り一番近くの海水浴場まで来ていた。
一度海辺の旅館に荷物を預けてから、海へ。
海を一度見た時からテンションが上がりまくっていたみずほは、砂浜まで来るなり海に突貫していった。
あいつ大丈夫か本当に……。
「あはは、みずほは元気だねえ」
「いいんだぞ?みずほと一緒についていって。俺はどうせ砂浜にいるだけだしな」
「えー、つまんないよ。将人も一緒に泳ごう?」
少し俺より前に出て無邪気に笑う恋海。
前にみずほと話していた時は攻めた水着がどうのこうのと言っていたが……。
恋海の水着は上下セパレートではあるものの、下はショートパンツタイプに、上は白のリボンデザインの肩があるタイプだ。
露出は控えめで、可愛らしさ重視の水着。実際恋海はこういうタイプの方が似合っているとは思う。
スタイルがいいからビキニタイプも似合いそうではあるが。
「……どう、かな?」
俺が水着を少し見ていたのを気付いたのか、恋海が恥じらいながらその場で軽く回って見せる。
「……可愛いよ。なんつーか、恋海の良さが出てる感じがする」
「えへへ……ありがと」
……素直な感想を言うのも考え物なのかもしれない。
恋海が嬉しそうにしてくれるのは良いが、最近のこともあって俺は複雑な心境だった。
「こらそこ!いちゃいちゃしてないで海に入りなさーい!」
「い、いちゃいちゃなんかしてないよ!!」
いつの間にか戻ってきていたみずほが、ピピー、と笛を吹くようなジェスチャーでニカッと笑う。
みずほの水着はこちらもセパレートタイプのオフショルダー型。色彩は青を基調にしていて清涼感がある。胸周りの露出こそ少ないものの、肩とお腹は素肌が見えているし、下はフリルこそついているがビキニタイプだ。確かに若干攻めているかもしれない。けれどたしかに、みずほの可愛い部分を強調するのにはとてもいい水着なようにも見える。
「みずほ泳ぐの苦手って言ってなかったか……?」
「まあね!でもここそんな深くないし大丈夫なのだ!」
これまでの付き合いで分かったことだが、みずほは無理して元気を装う時がある。
辛い時は辛いって言って良いと思うんだが……。
そして今日ここまでは、どちらかと言うと装っている傾向が強い。
電車内で無理して俺と恋海を2人にしたがるし、何故か輪から外れようとする。
3人で来てるんだから、気にしないでいいのにね。
「俺はとりあえず空いてるとこにパラソル刺しておくから、2人は海行ってきな?」
「あ、私も手伝うよ」
「手伝ってもらうようなことないぞ……?」
「いいからいいから!将人が1人でうろうろ歩いてると危ないの!」
海水浴場は、そこそこの賑わいを見せている。
夏休み期間とはいえ平日なことと、比較的穴場である海水浴場だから人数は少ないが、周りに人がいないわけじゃない。
男が1人で歩くな、と言われるのも受け入れなきゃいけないんだろうな……。
「……じゃ、じゃあ私先にいってるね!海は待ってくれないのだ~!」
「あ、おいみずほ!」
たたたっとみずほがまた海へと駆け出す。
危なっかしいなあいつは……大丈夫か?
「私達も、パラソル立てたら行こう?」
「そだな。あいつ一人にさせとくのも危ないし」
俺は恋海に返事しつつ、みずほの行く先を視線で追いかけた。
どこにいるかはちゃんと把握しとかないとな……。
「この辺で良いんじゃない?海も近いし!」
「よし。ここに立てるか」
海に近すぎても、潮の満ち引きによっては波が来てしまうことがある。
ほどほどに海に近いけど、波は来ないくらいのところにパラソルを刺して、荷物を置いた。
と、そのタイミングで。
「あばっ!」
よくわからない奇声を上げながら、遠くにいたみずほがこけた。
「言わんこっちゃないあいつは……!」
「え、将人?!」
視界の端でみずほをちゃんと追っておいてよかった。
俺は走ってみずほのいるところまで行き、迷わず海へダイブ。
泳ぎはそんなに自信がある方ではないが、これくらいの距離なら問題ない。
すぐにみずほのところまでたどり着き、その細い身体を抱き上げた。
「だから言ったろ!ちゃんと準備運動しろって」
「あ……えっと……ごめん」
一応ぎりぎり頭が出る水深だったけれど、海をバカにしちゃいけない。
気付いたら深いところまで来てしまっていた、なんてのはあまりにもよくある話だ。
「大丈夫か……?足つったか?」
「いや、本当にバランス崩しただけ……」
いつになくしおらしいみずほを、そのまま砂浜へ救出。
恋海も俺の後を追って砂浜まで来ていた。
「みずほ大丈夫?!」
「あ、あーと、だ、大丈夫!ちょっとバランス崩しただけ」
海に入る予定はなかったのに、ばっちり入っちまった……あとはパラソルの下で大人しくしてよう……。
俺は視界を遮る鬱陶しい前髪をかき上げて、ビーチサンダルを履き直した。
「え……」
「?どうしたみずほ」
後ろを振り向けば、その場で固まったみずほの姿。
目が丸くなっている。
恋海も不思議そうな顔だ。
「……ん-ん!なんでもない!将人ありがと!」
「……ちゃんと準備運動するんだぞ」
なにかを振り切るように首を横に振ったみずほが、今度は恋海と一緒に準備運動を始めた。
俺はパラソルの下に戻ってきて、腰を下ろす。
仲良く恋海とみずほが話しながら準備運動をしている姿が、ここから良く見えた。
どちらも負けず劣らず可愛い2人だ。
前の世界なら、あんな2人がいたらナンパされること間違いなしだろう。
「前の世界、か……」
最近は、考えさせられることが多い。
由佳のこと、そしてこの前の、星良さんのこと。
前の世界基準で考えたら俺は普通のことをしているだけなのだが、こちらではそうではないらしい。
かといって、今から仲良い子達にわざと冷たく当たるのは、俺には無理だ。
星良さんの時にわかった。あの人の泣きそうな顔を見て……俺は耐えられなかった。
「どうすりゃいいんだ……」
考え事をしている内に、瞼が重くなってくる。
波の音が耳心地良いし、俺は睡魔に身をゆだねることにした。
「……と……まさと!」
「ん……?」
起きてすぐ目に入ってきたのは、みずほの顔。
ちょっとびっくりしたが、それ以上にみずほの表情が焦っていることに気付き、身体を起こした。
「将人!恋海が熱中症っぽいの!」
「ええ?!」
一瞬で意識が覚醒した俺は、周りを見渡して……隣で体育座りをしている恋海に気付く。
「あはは……ごめん、ちょっとダルくて……」
「無理しないでいい。水分はとってる?」
「うん、おかしいな……ちゃんとポカリ飲んでたんだけど……」
顔が赤く、呼吸も荒い。
本人曰く、頭痛とめまいがしたようだ。
「みずほ、ちょっとここ見ておいてくれ。俺は恋海連れて先に旅館の部屋に寝かせるから」
「う、うんわかった!」
「恋海、ちょっと我慢してくれよ……」
「えっ……」
俺は恋海の前にしゃがみこむと、恋海の両手を俺の肩にひっかけさせる。
そのまま立ち上がって、恋海を背中に背負った。
「しっかりつかまってろよ。少し辛抱してくれ」
「……うん」
ぎゅっと、俺の身体に回された腕が強くしまる。
……こういうことも多分良くないんだろうが、今は緊急時だから……と、言い訳する自分にも少し嫌気が差した。
振り返ると、みずほのいつもの笑顔に影が差しているように見えて、それも少し気になった。
恋海を部屋に寝かせた後。
もう日が暮れそうなほどに傾いている中、俺とみずほは2人で海辺を歩いていた。
「恋海にも困ったものですな~あの子、高校の時はソフトやってたから暑さには慣れてると思ったんだけどね」
「ブランクがあれば、そんなのすぐ無くなるさ。今日は特に日差しが強かったからな」
恋海を運んだ後の時間は、みずほと一緒に海水浴に興じていた。
恋海自身から頼まれたのだ。みずほと遊んであげて欲しいと。
まあ確かにみずほを一人にしておくわけにもいかないから俺としては賛成だったんだけど。
「にしても将人はカッコ良いね!あんなぱっと恋海背負っちゃうんだから!」
「いやあれが一番恋海に負担ないだろ……」
「そうは言うけどさ!やっぱりあれ?バーで働いてると女の子に優しくできる的な?」
「それはあんま関係ないんじゃないかな~」
本人もそんな風には思ってないのだろう。からかうように耳打ちしてきたみずほは、ひひひ、と可愛く笑っていた。
「ねえ、将人」
「ん?」
また少し前を歩き出したみずほが、こちらを見ずに呟く。
「私が恋海の立場だったらさ……私も背負ってくれた?」
なんて答えたらいいのかわからなくて、一瞬俺は言葉に詰まる。
けれど、みずほの背中が、少し寂しそうで。
「……そりゃそうだろ。その……友達だしな」
「……えへへ。ありがと」
くるっと振り向くみずほ。
……なんかこう、水着なのもあってみずほの可愛さが2割増しくらいに見える。
みずほがもう一度前を向いて、ぐっと上に伸びをした。
「運命の人が将人みたいに優しい人ならいいなあ~!」
「ウチの人達俺が関わった人はみんな優しいから、大丈夫だと思うけど」
あそこの人達の人の良さは異常だ。
見た目で最初嫌厭してしまった自分が恥ずかしい。
まあ、接客の時猫なで声になるのはやっぱ嫌だけど。
そうして2人で話しているうちに、日も沈んであたりが暗くなってきたので、荷物を置いていたパラソルの元に戻ってきた。
周りを見れば、皆帰路についているか、荷物をまとめているかな様子。
視界が悪くなってきた後の海は危ないからな。
「夕飯どうしよっか」
「恋海の体調次第だな……なんか美味しい物部屋に買っていって食べるくらいでいいんじゃないか?」
「そだね」
旅館は素泊まりなので、夕飯はついてない。
本来なら近くのところに食べに行こうという話になっていたのだが、恋海があれじゃ仕方ないだろう。
ふと、みずほが自分の鞄から何かを取り出しているのに気付いた。
それは、1枚の布。
それを広げて、みずほがぼーっと眺めていた。
――あれ?
「それ俺のハンカチじゃん」
「――え?」
こちらを見たみずほの表情が、固まった。
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