文学少女JKは写真を撮りたい
「そろそろ私と王子様の関係性は、第二段階に進むべきだと思うの」
私の声が、良く教室内に響いた。
今は4時間目の授業を終えて、お昼休み。
各々が好き勝手に机を動かして、グループに分かれてお昼ご飯タイムといったところか。
少し前までは私は自分の机で1人弁当を貪っていたのだけれど、最近は仲良いメンツが自然と私の周りに集まってくるようになった。
これも、嬉しい変化の一つだなと思う。
……だけど。
「でさー。昨日のドラマ見た?」
「あ~えんのすけ様を見るためだけに見たわ。相変わらずイケメン過ぎた」
「あのぅお~~~~~」
こいつら話聞いてねえ!
どうなってんだ!
「……なに?」
「なにじゃないが??声高に宣言したはずだが???」
耳聞こえないのかな?おまいらだけに耳かきASMR開催してやろうか?
「はあ……また汐里の妄想の話?」
「妄想王子様(笑)」
嘲笑うようにそう言い放ったのは、一番ボーイッシュな短髪の初美。
こやつは将人様のことを未だに信じていない。
敗北者が!!受け入れろ現実を!!
ま、仕方ないか。悔しいんだよね。わかるわかる。
私は初美を慈愛の眼差しで見つめながら、肩をポンポンと叩いてやった。
「悔しい気持ちはわかるよ?けどさ、受け入れよ?」
「私は汐里がツーショットの写真を撮って来るまで信じないって決めてるから」
「ぐっ……」
これは実は前から言われていること。
信じて欲しいなら証拠を持ってこい、と。
でも別にツーショットじゃなくていいよねえ?!
「でもあの汐里がわざわざ服装まで聞いてきてさ、今もまさに清楚(笑)を気取るために髪を下ろして純白のセーターまで着てるわけじゃん?」
「中身不純なことでいっぱいなのにな」
「おいそこ余計だゾ」
どう見ても純白が相応しい清楚純潔やろがい!
「それにイマドキJK(笑)を装ったSNS戦略までやってるわけだしさ」
「あれマジで草だったわ。流石にキモすぎ」
「お前秋なんて冬眠の準備してるだけだろ」
「シバいたろかマジで」
熊かなにかと勘違いしてませんこと~????
「だからまあ、いるはいるんじゃない?汐里が言うような完璧超人かどうかはおいておいて」
淡々と語るのは、私達の中でも唯一の彼氏持ち、三秋だ。
サッカー部の男とくっついてる。許せん。
「文化祭とか連れてきて欲しいよねそこまで言うならさ」
「あ~確かに」
文化祭……文化祭か。
去年は全く楽しかった覚えがないけれど、確かに友人が少しできたわけだし、楽しめるかもしれない。
でも将人様を呼んだら……。
『汐里の王子様ちっすちっす!こいつ全然清楚じゃないっすよwww』
『こいつポスターにちゅきちゅきとか言って愛を囁いちゃうタイプの文学少女(笑)なんで』
『あ、いっそのこと私の家庭教師になってくれませんか?』
あ~キレそ~。
ダメだ。こいつらに紹介してろくなことになる気がしない。
それはそれとして、将人様に学校行事に来てもらうのはアリだなとも思う。
将人様と学校を歩く……なんて優越感。
やはりなんとかこいつらにバレずに招待するしかないか……。
「まあ、汐里のチキンハートじゃツーショット写真なんて夢のまた夢か」
「そ、そこまで言うなら写真撮ってきたりますわ!超絶イケメンだから、マジで」
「お、楽しみ~」
「ここまで言ったんだからできませんでした、は無しだからな~」
こ、こいつら……目線はスマホにやったままあからさまに期待してませんと言いたげなテキトーな物言い……わからせてやらないとダメみたいだな……どちらが上なのかということを……!
まあ、将人様と私の心の距離を考えれば、写真を撮るなんてこと造作もない。
ハッキリ言って余裕だ。
来週頭には、こやつらが悔しがる姿が目に浮かぶ。
さっそく今週末決行だ!
なんて思ってる時期が私にもありました。
「汐里ちゃん?どしたの?さっきっから挙動不審だけど……」
「い、いえいえいえいえいえ!なんでもありませんよ!」
もう時刻は18時前。
本日の将人さんの授業も終わりを迎えようとしている。
ここまで、写真撮れて無し。
それどころか、度々スマートフォンを出しては自分の顔を確認するヤバイ奴になってしまっている。
以前……将人様をスカウトから助けてからというもの、清楚を演じるのが若干辛くなってきてしまった。
何故か……理由はわかっている。
絶対にそんなこと許されないのに、素で話してみたいと思う自分がいるから。
でも、ダメだ。この仮面を脱いだら、きっともう将人様は来てくれない。
ただのどこにでもいる女子高生なんぞに、将人様は相応しくない。
それに今だって、自分じゃないからこそ、将人様と平気で話していられるんだから。
……でも、じゃあ私は将人様とどうなりたいんだろう。
付き合いたい?そりゃそうだ。付き合えて色々なことかっこ意味深ができたらそんなに素晴らしいことはない。
でも……だとしたらいつまでこの仮面をつけていればいいのだろう。
仮に付き合えたとして、好きになってもらえたのは私であって私ではない。素を一生隠したまま、付き合っていくことになるのだろうか。
「よし、今日はここまでにしよっか!だいぶ頑張ったしね!」
「え……あ、でもあと少し残って……」
「ここは宿題にしちゃおう!疲れてきた時に無理してやっても仕方ないしね」
やばば……ちょっと手止まってたのを見て、将人様は私を気遣ってくれたのだろう。あなたと付き合った時のことを妄想して手止まってましたなんて言えるはずもなく。
本当にどこまでも優しくて……気遣いのできる人だ。
だからやっぱり……やっぱりこのチャンスを棒に振りたくない。
そんな風に想いながら私と将人様は勉強道具を片付けて、将人様を家の玄関まで送るべく階段を降りた。
「もうそろそろ期末だねえ。頑張ってよ?」
「も、もちろんです。自信ありますから!」
これは本当。将人様は教え方も上手くて……勉強の内容もすんなり頭に入ってくる。
「じゃあ、俺はこれで帰るから、お疲れ様!」
「……今日もありがとうございました。ではまた……あっ!」
ゆっくりと優雅にお辞儀をしたその瞬間、私は気付く。
まずい!写真!
あれだけ友人に大口をたたいてしまったのに、まだ写真を撮っていない!
「……どしたの?」
「あのー……えっと……」
ダイレクトに写真撮ってください!なんて言えない。
仮面は被っていても、私の正体は所詮村人B。大それたことは言えないのだ。
く、くそ~~なんて言えばいいんだ。
この前最高のボイスメッセージをもらった時は文面だったからなんとかなったものの……。
面と向かっては恥ずかしいよ!
スマホを持った手を、ふらふらさせる。
あはは~、とか意味わからない言葉しか出てこない。
一体なんて言えば……。
「ねえ、汐里ちゃん」
「ほぇ?」
今まさに帰ろうとドアノブに手をかけていた将人様が、こっちに戻ってくる。
ちょ、ちょっとご尊顔が近うございますことよ……。
「写真、撮らない?」
「え……?」
「いや、俺の保護者みたいな人からさ、教えてるのどんな子なの、って聞かれててさ、もしよかったら一緒に写真撮ってくれないかな」
「……え、ええ是非!大丈夫ですよ!」
「ん……良かった」
え、えええ?!そ、そんな奇跡あります??
よ、よかったあ。なんとかミッションクリアできそうだ。この機会をくれた神に感謝。
将人様がスマホを取り出した。
「じゃあ撮るから、こっち来て」
「はい……ってえ?!」
言われて、将人様のいる方向に近づく。
すると、将人様が私の肩に手を回して、ひょこっと私の顔の横に自らの顔を出した。
ちちちちちちちちちちちかちかちかちかちかっとちかちか!!
「はい、撮るよ~はい、チーズ」
「あっ……!」
「はい、ありがと!念のため汐里ちゃんにも送っとくね。じゃ、また来週!」
バタン、と。
扉を閉めて、将人様が出ていく。
「~~~~~~~っ!!!」
いつもそう。
あの人は、すぐに私がしてほしいことをして、颯爽と帰っていく。
まるで、物語の王子様のように。
主導権は、いつだってあっちだ。
将人様がいなくなった玄関。
ドキドキと心臓の音がまだ続いていて。
顔の表面も絶対に熱くて。
なんか――悔しくて。
すぅ、と息を吸い込んだ。
「いつか絶対押し倒してやるからなあああ!!!!!」
意味の分からない意志表明を、するしかなかった。
【聖女の集い】
《篠宮汐里》
『写真撮ってきちゃった☆』
【画像を送信しました】
『いや~!ごめんごめん!こんなカッコ良い人家庭教師でめんごめんご☆』
『君たちが泣いて謝っても紹介はしてあげないゾ☆』
《三秋》
『うわ、マジじゃん。ってか距離近。エロ』
『絶対ヤれるやんこの距離』
《初美》
『うわマジかよ……って思ったけど』
『汐里の顔きっしょwwwwwwww』
《まな》
『wwwwww顔どうした汐里wwwww』
『デュフフって言いそうな顔してんぞwwwww』
『良くこれ送れたなwwwww君の顔のとこだけ塗りつぶしていい?』
《三秋》
『マジじゃんwwwイケメンに目行ってて見てなかったわwww』
『清楚(笑)やなこの顔は。ただのエロガキじゃん』
《初美》
『諦めろ汐里wwwwこのイケメンと汐里じゃ流石にキツイwwww』
《まな》
『ひぃwwwwwお腹痛いwwwww』
【《篠宮汐里》がグループを退会しました】
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