幼馴染系JDは紹介する
みずほがこっぴどくフられた翌日のこと。
私はみずほが落ち込んでるかなと思い、今日は帰りにアイスでも奢ってやるかという意気込みで大学に来た。
でも私のその気遣いは、朝イチで必要なかったことをわからされる。
「だからこれは運命の出会いってわけ!!!」
「みずほそれもう今日5回目~」
「全員に同じ話してない??」
サークルの友達数人と一緒に、今日何度目かわからないみずほの惚気(?)話。
朝から違う友達来るたびに話すもんだから、最初から一緒にいる私はもう何度聞いたかわからない。
「いや~あるんだねえ運命ってやつは!人生わからないもんだよ!」
「はいはい。でもその人と会えるとは限らないわけでしょ?」
「いーや探すね!もー彼を求めて三千里!どこまででも探しちゃう!地球の裏側まで行っちゃうね!」
「みずほ一里って何mか知ってるの?」
「……え?……100mくらい?」
ぺろりんっと舌を出すみずほが愛らしい。
みずほはけらけらと笑い、周りもそのみずほの笑みにつられて笑っている。
まぁ元気になってくれたなら良かったかな。
正直、あの告白の直後は見ていられないほどつらかったから。……なんて、覗きに行った私が悪いんだけど……。
「じゃー私ら次こっちだから!じゃあね~!」
「じゃあの~!あ、私の運命の人見つけたら情報求む!!」
「そんな薄っぺらな情報じゃ見つけようがないよ……」
ビシッと敬礼するみずほに、苦笑いの友人達。
次の授業は私とみずほが同じ教室だ。
渡り廊下を歩く。窓からの陽光が気持ち良い。
そんな中隣を歩くみずほは、鼻歌混じりで上機嫌。
「でもよかったよ。なんだかんだみずほが本気になれそうな相手を見つけたのって初めてじゃない?」
「いや~そうでござるなあ~。人を好きになるって、こういうことなんだね、なんちゃって~!」
「まったくもう……」
事の顛末は朝一番に嫌というほど聞いた。
みずほがコンタクトレンズを落としちゃったのを探すの手伝ってくれた上、見つけたコンタクトをハンカチの上に乗せて返してくれたらしい。
指輪かな?
正直そんな優しい人ならとっくに彼女の一人や二人いそうなものだけど……。
今の状態のみずほにそんなこと言うのは流石に野暮だよね。
「と、いうことでワトソン君」
「誰がワトソン君よ」
「いいからいいから!ワトソン君にも私の運命の相手探しを手伝ってほしいのじゃ!」
「いいけど……仮にうちの大学の新入生だったとして、候補2000人くらいいるんだよ?」
みずほ曰く、その彼が落としたボールペンが、うちの大学で今年の新入生に配られるボールペンだったらしく、1年生の可能性が高いとのこと。
確か新入生の数は1万人ちょっとで……うちの大学は男の子がちょっと多めだった気がするから多分2000人くらい。
そこから絞るとなると、かなり難しい。
しかもみずほはコンタクトが外れてた上に泣いてたから相手の顔をほとんど覚えていないと来た。
私達の交友関係だけでは限界がある気がする。
「ちっちっち……諦めたらそこで試合終了だよ?」
「なんで私が咎められてるのかなあ……?」
余裕そうなみずほの表情。
なにか秘策でもあるのだろうか?
「会えばきっと思い出す!!オールバックだったし!」
「髪型かあ……」
みずほの話によると、その男の子は髪型がジェルで固めるタイプのオールバックだったらしい。
確かに珍しいっちゃ珍しいかも?
けど毎日そうとも限らないし……。
「このハンカチを返して……私は伝えるのだ!あの時助けてもらった鶴です!恩返しにきましたってね!」
「昔話始まっとるぞ~」
大事そうに握りしめているハンカチは、その彼からの借り物らしい。返さなくていいって言われたみたいだけど、みずほは会って返すと意気込んでいる。
と、その時。
ピロン、と。
私のスマホに通知。
《将人》『それはたしかにそう笑』
《将人》『恋海今日の3限一緒に受けられそう?』
あ……そっか、次の3限は最近は将人と一緒に受けている授業。
今までは、みずほには申し訳ないけど将人と受けていた……けど。
(今までは、将人がカッコ良すぎて惚れられちゃうとちょっと困るからなるべく友達は遠ざけてたけど……みずほはもう大丈夫ってことか)
言うまでもなく、隣で上機嫌に歩くみずほはその例の運命の相手とやらに夢中だ。
将人は私以外に大学の友達がいなさそうで可哀想だなとは思っていたし……これはいいチャンスなのでは?
「ねえ、みずほ。良かったらさ……次の授業、将人と3人で受けない?」
「え?いいの?!いやー会って話してみたかったんだよねー!恋海のぴっぴ!」
「だから彼氏じゃないって……!会っても変なこと言わないでよ?」
「言わないでござるよ~!ちゃんと恋海の良いところ宣伝大使になるからさ。任せてよ!」
ドン、と胸を叩くみずほ。
全然胸がないのも相まって可愛らしい。
「でもなんで?どんな心変わりでござるか?」
「いや、だってみずほ今その運命の人とやらにお熱でしょ?それくらい恋する相手いないと危険だよ将人の相手は。もう会って30分話したら好きになりかねないよあの超絶イケメン」
「……恋は盲目、か」
「あ、バカにしたでしょ」
微笑ましいものを見る目で見てくるみずほ。
いや本当に将人は破壊力抜群なんだって。あそこまで完璧な男の子他に知らないもの。それこそ昔私が好きだった――ってそんなのはどうでもよくって。
「安心してほしいでござる。私は今、あの運命の人を探すのに必死!その将人君にはちゃんと恋海売り込んどくからさ。さっさと告白しちゃいなよ」
「もー余計なお世話だって!!」
本当に余計なことを言いかねない。大丈夫かなあ。
とりあえず私は将人に返信。
《恋海》『おはよ!』
《恋海》『一緒に受けられるよ!それで私の親友も一緒の授業だからさ、将人よければ3人で受けない?』
学内にいることもあってか、私がスマホを閉じるより先に、すぐに返信が返ってきた。
《将人》『お、ありがたい是非是非~』
よろしくお願いします、と猫が頭を下げているスタンプつきで。
将人はSNSでも可愛いのずるいなあ……。
「将人おっけーだって。じゃあ3限は3人で受けよっか」
「やったー!イケメンを拝めるなむなむ……」
「もーほんとふざけすぎないでよ?」
私の好きな人と私の親友が仲良くなってくれたら、嬉しいしね。
大学生活がもっと楽しくなりそうな予感がする!
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
なんとなんと、恋海がぞっこん中の彼と会っていいということで!
恋海も用心深いなあ。私がうっかりその将人君とやらに惚れちゃうのを危惧して会わせなかったとは……。
まあそれだけ好きなんだね。うんうん。良い事だと思う!
でもご安心!私は今情報集めに忙しいのである!
ボールペンだけで同じ大学だって判断するのは早計だって?ふふん。そうだとしてもね、手がかりがある限り私は諦めないっ!
だってもう一度会えたら素敵でしょ?そう考えるだけでいーのいーの。
私はポケットに入れてたハンカチを、もう一度取り出す。
シンプルな紺色のデザインに、赤と黒のラインが角にあしらってある。
ぎゅっと、握りしめた。
――いつか、いつかこのハンカチを、必ず返すんだ。それで、伝えよう。この想いを。
「お、結構まだ席空いてるねー。3人分とっちゃおっか」
「了解でござる!」
そっと丁寧にハンカチを畳んで鞄にしまう。
恋海と一緒に、教室後方の席を確保。
大学の席確保は弱肉強食……!すまんなまだお昼ごはん中の皆……。現実は無情なんだよ。ヨヨヨ……。
「将人もうちょっとでつくらしいから私教室前に迎えに行くね」
「ほいさ!いってらっしゃいませ!」
恋海が教室の外に行くのを見送って、今度はボールペンの方を取り出した。
「1年生……じゃないってこともあるのかな?」
このボールペンのデザインになってから配られたのは今年が初めてのはず。
だから基本的には1年生が持っていることが多いけど、教職員の人達がいる棟に行けば、手に入らないことも無さそう。
ってことは、1個か2個……または3個上ってこともあるのかな?
年上っぽかったし。
まあでも正直、年齢もどうでもいい。
あの時のことを、思い出す。
『すみません!ちょっとコンタクト探してますので!』
『はい。気をつけてね』
『あ、このハンカチは別に返さなくていいから。じゃ!』
あの眩しい笑みを、思い出す。
(カッコよかったなあ……)
あんなことされたら、誰だって好きになる。
顔は確かによく見えなかったけど、もう顔なんて気にならない。
あのやさしさと、笑顔に触れたら、顔なんて関係ない。
(願わくば目に焼き付けたかった……ヨヨヨ……)
机に突っ伏す。
泣いてなければ……いやでも泣いてなかったらコンタクト取れないか……。なんて。
思い出すだけで、胸がきゅんとする。
(うん。やっぱり絶対にもう一度ちゃんと会いたい。お礼を言って、それで……)
会えたら、どうしよう。
すぐに好きですなんて言っても不審がられるだろうし……。
まずはお友達から?なんか下心ありそうに見えるよね。
とにかくお礼を伝えたくて。
あなたのおかげで、私はどん底から救われましたって。
……ちょっぴり重いかな?
でもそれくらい感謝してるし……憧れちゃってる。
だからちょっとだけ重くても、許して欲しいな。
「にへへ……」
まずい。だらしない顔をしているかもしれない。
恋海の『お気に』と会うのに、変な人扱いされたら悲しすぎる!
もしかしたら男子ネットワークで、私の運命の人探しに協力してくれるかもしれないし……初対面の印象は大事!
授業開始10分ほど前。
恋海が教室に入ってくる。後ろには、男の子の姿があった。
あー恋海の顔完全に恋する女の子ですわ。ってかやっぱカッコ良いっぽい……?身長もそこそこあるし。
入ってきただけで教室の周りの女の子達がちょっと振り向いてる。
そりゃ恋海も心配になるわけだ。
そうしている内に、恋海とその男子が、私のところまでたどりついた。
「はい!ってことでこれが私の親友の戸ノ崎みずほ!んで、こっちがえっと……と、友達の片里将人!」
恋海の後ろから。
ひょいっと顔を出すイケメン君。
「こんにちは!恋海からちょいちょい話は聞いてたよ~よろしくね!」
……あれ?
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