文学少女JKは不思議な子
「ふわぁ……」
気持ちの良い日の光と、鳥のさえずりで目が覚める。
大きく伸びをしてから時計を見れば、時刻は午前10時をさしていた。
早起き……とは到底言い難いものの、前日午前1時近くまでバイトして、そこから帰って寝たのは深夜2時過ぎとかなので許して欲しい。
今日は土曜日。
大学の授業は無く、午後から家庭教師の予定が入っているだけだ。
「昨日は色々あって疲れたしな……」
由佳とバスケしてたら大雨が降ってきて、一時的に避難したと思ったら由佳が何故か気絶してしまって。
起きるまで大変だった。とはいえ雨でやることもないし、タオルもなかったので申し訳ないけど俺の膝でも使ってもらうかと思って膝枕してたら起きた瞬間にまた意識失うし。
う~ん、最近の女子中学生は難しいな。やっぱ膝は良くないか……今度からはやめてあげよう。
「今日はなにすっかなあ~……」
お腹がすいたので冷蔵庫を空けてみる。
ああ、藍香さんが余ったからって持ってきてくれた煮物がまだあるわ。んじゃ煮物と……ベーコンと卵があるからこれでいいや。
味噌汁はインスタントでええやろ。
フライパンにオリーブオイルを少量引いてから、ベーコンをぶち込む。
そのタイミングで、そういえばまだ見てなかったな、とスマホを開いた。
「んあ……?」
あれ、どうやら通知が来ている。
《望月星良》『今日はありがとう』
《望月星良》『また必ず行くから』
《将人》『は~い!待ってますね!』
《望月星良》『そういえば、まさとくんって本名だったのね。まさかそんなひょろひょろの名前が本名だと思わなかったわ笑』
《望月星良》『ごめんなさい。ちょっと失礼だったわね』
《望月星良》『あの、怒ってる……?ごめんなさい』
……。
いや寝ただけだけども。
昨日星良さんとその先輩が来て、先輩がゆうせーさんと連絡先交換してるってのをずっと羨ましがってたから俺も連絡先交換してあげたんだけど。
俺は昨日この『は~い!待ってますね!』を送って寝た。
その後のメッセージが30分後で……その次が1時間後で、更にその次が1時間後。
え?いや寝てよ。
全然怒ってないしそれくらいいつも言ってるじゃないスカ。
と、とりあえず返信するか。
《将人》『ごめんなさい!すぐ寝ちゃいました!』
《将人》『全然気にしてないっすよ!笑 そうっす名前も身体もひょろひょろなもんで!笑』
ま、こんなとこやろ。
最近辛そうな表情ばっか見てたから、連絡先教えてあげてすげー嬉しそうにしてくれたのは良かった。
『え……いいの?』
『嬉しい……お店行く時は連絡するね』
昨日の星良さんのその時の笑みといったら。
やっぱ美人には笑っててもらわないとね。
……なんか若干目が怖かったような気もするけど気のせいやろ。
フライパンに卵を投下。
これで目玉焼きとベーコンは完成。
あ、お湯沸かしとくか。インスタント味噌汁用に。
――ピロン。
ん?通知か。
星良さんだったら早いな。土曜日くらいゆっくり休んでればいいのに。
あ、恋海かもな。恋海ともやりとりが続いてた気がする。
もう一度スマホを開いてみた。
《望月星良》『良かった』
《望月星良》『それじゃあ私寝るわね、おやすみなさい』
……???
え、今から寝るの?
え?ってかずっと起きてたの?
なんで???
あ、そうか。あの後2件目とか行ったのかな?はしごかな?
んで朝帰りして、家帰ってきて……。
いやでも10時になる、か……?
まさかと思うけど俺の返信待ってたとかないよな?……無い、よな?
……怖いマヨ。
ベーコンは焦げた。
「こんにちは~片里です~」
「はいいらっしゃい!もう汐里は上にいると思うから、上がっちゃって!」
「ありがとうございます」
午後3時。
土曜日は毎週汐里ちゃんの家庭教師だ。
まだ日は浅いものの、幸い汐里ちゃんの成績も少しずつ伸びてきて安心している。
全く成績伸びなかったらすぐクビになりそうやしね……。
階段を上がって、汐里ちゃんの部屋の前。
トントン、と2回ノックした。
「汐里ちゃんこんにちは。片里です」
「……どうぞ」
扉を開けると、いつも通り優雅な姿勢で椅子に腰かけている汐里ちゃん。
今日は小さな花柄を随所にあしらったロングスカートに、トップスは白の引き締まったブラウス。
彼女のお淑やかな感じと相まってとても似合っている。
「こんにちは!元気してた?」
「ふふふ。はい。とっても元気ですよ。将人さんもお変わりないようで」
「そだねーでも昨日なんか急な大雨に打たれちゃってさ、大変だったよ」
鞄を降ろして、教材を引っ張り出す。
「昨日はすごい雨でしたね……外にいらっしゃったんですか?」
「そーそー。外でバスケしててさ。もうびしょびしょだったよ!」
本当に洗濯が大変だったくらいにはね!
「びしょびしょ……」
「ん?」
汐里ちゃんが顎に手を当ててなにか考えている。
どうしたんだろう?
「……すみません、もう一度言っていただけますか?」
「え、え?えっと……びしょびしょだったよ?」
「……ありがとうございます」
え?何が??
汐里ちゃんはたまによくわからないんだよなあ……不思議ちゃんというかなんというか……。
授業を始めて1時間ほどが経った。
1つ目の科目である英語が終わり、休憩中。
「よし。いい感じだね汐里ちゃん!この調子なら中間もいい感じになるんじゃないかな?」
「ありがとうございます。将人さんの、おかげです」
汐里ちゃんのお母さんが持ってきてくれた麦茶を飲みながら、俺は汐里ちゃんのテキストの結果を見る。
うんうん。悪くない。初めて来たときよりだいぶ成績が上向いている。
ってかやれば元々できるタイプの子だったんじゃないかなあ。俺の授業が特別上手いとはとても思えんし。
やる気の問題な気はする。
「ところで将人さん」
「ん?」
コホン、と一つ咳払いの汐里ちゃん。
「最近、うちの学校でカップルなるものが誕生しましてね」
「お、おう。言い方どした?」
高校生なんだし、変な話ではないだろう。最近は中学生でも付き合うのなんか当たり前だと聞くし。
「私はもちろん、もちろん彼氏はいないんですが」
「あ、そうなんだ。いてもおかしくなさそうだけどね」
「……それはどういう?」
「え?いや普通に汐里ちゃん綺麗だし」
普通に綺麗じゃない?最近は容姿に力入れてる感じするし、もともと顔立ちが整ってるのもあって魅力が増してきたような気がする。
「……ぢゅふ」
「え?」
「コホン。いえ、すみません」
なんか今すごい音聞こえたけど……気のせいか?
汐里ちゃんが改まって、俺と視線を合わせる。
「そうおっしゃられるのでしたら、将人さんこそ彼女さんいらっしゃるのでは?」
「え~いないよ?普通に」
「……本当ですか?」
「え?うん。本当だよ?」
何故か汐里ちゃんが後ろを向いた。
「っし!!」
「え?」
なんかすごいガッツポーズ見えたけど。
なに???俺が彼女いないのそんなに嬉しい???
ざまあ!的な??
「失礼いたしました。てっきりいらっしゃると思ってまして」
「そんな簡単な話でもないさ」
彼女とかいたら楽しそうだなとは思うけどね。
今はどっちかっていうとちゃんとお金稼いで藍香さんに恩返しせんと。
「……では将人さんは、どのような女性が好みなのでして?」
「んーそうだなあ……」
いざ言われてみると難しい。
容姿に特にこだわりはないし……もちろん清潔感が無かったり、容姿に努力をしていないのは若干嫌だけど。
あ、でもそうだな。色んな場所に行ったりとか色んな趣味を共有できる人がいいかも。
「まあでも、明るく話せて、色んなことを一緒にできる人がいいな」
「色んな事?!」
「お、おう。どうしたのそんなに声荒げて」
「それはつまり、あんなことやこんなことの色んな事……ですか?」
???あんなことやこんなことってどんなこと???
……アウトドアな趣味もインドアな趣味も、ってことかな?
「よくわかんないけど、そう、かな?」
「……!そうなんですね……!」
なんか顔を赤くして後ろ向いてしまった。
いったいどうしたというのだろうか。
なんか答えまずったかな。
「落ち着け。びーくーる。私は今クールな女。ハイになっちゃいけない。鎮まれ……鎮まれ内なるリピドー……!!」
……なんかぶつぶつ言ってるけどあんまり聞こえない。
なんか気分を害しただろうか?
しばらくすると汐里ちゃんがこちらに振り返った。
ゆっくりと深呼吸して、真剣な瞳でこちらを見ている。
え?なんかそんな真剣に話すようなことだった??
「将人さん」
「ど、どうした?」
「私、こう見えてそっちの体力には自信があります」
「……え?」
そっちってどっち?
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