幼馴染系JDは嫉妬する
人生の夏休み。
入ることは難しいけれど、卒業をすることが簡単なことから、日本の大学生活はそんな風に呼ばれたりする。
専門学校とか、理系の大学とかはその限りではないけれど、文系は確かにそんな感じの所が多い。
私が通っているこの大学は大別するならいわゆる夏休み寄りの方だと思う。
普通に生活してれば卒業できる……と思う。入るのが難しかっただけに、授業の課題とかで苦しむ学生も少なそう。
そしてそんな人生の夏休み、と言われるくらいだから、学生は皆この大学生活を楽しみたいと思っていて。
「男が!!!捕まらん!!!」
……私の隣に座るみずほ……戸ノ崎みずほは、どうやら恋愛方面で振り切って楽しみたいタイプのよう。
「もう入学して2ヶ月だよ?!男の一人や二人、捕まっててもいいはずでしょ?!」
「いや高望みすぎでしょ……」
みずほはそのトレードマークのツインテールをぶんぶんと振り回して感情を露わにしている。
一人や二人って……一人も彼氏ができずに大学生活を終える女の子がいったい何人いると思ってるの……。
「いーやそんなことない!せっかくの大学生活だよ?!彼氏とたくさんデートしてやることやってキャッキャウフフしなきゃ話にならないよ!」
「大声でそんな話しないでもらえますかねえ……」
「さしあたっては、必ず合コンを開催する。その時は是非恋海殿も参加してくだされ」
「誰ですかあんた」
私の友人は暑さでちょっとおかしくなってしまったらしい。
まあ、元からこういうテンションの子ではあるんだけど。
やれやれと思っていると、急にぐるんと首とツインテールを振り回してみずほがこっちを見る。
え、なに怖いんだけど。
「ねえ、恋海。私に隠してることあるよね」
「え?な、ないと思うケド……」
「いーやあるね!じゃあ……」
みずほはビシッと私の顔に指をさして。
「一緒に授業受けてるイケメンは誰!!!!」
「ギク……」
思いっきり隠していることあったわ。
「なーーーんか最近おかしいと思ったんだよね。私と一緒に受けてたはずの授業一緒に受けられないとか言いだすし。他の友達に聞いても、『最近急に恋海が一緒に授業受けてくれなくなった』って言ってたし」
……いつかバレるとは思ってた。
と、いうか今まで私には各授業のほとんどで一緒に受けてた友達がいる。
それがほぼ全て一緒に受けられないかも、と断ってしまったものだから、そりゃ速攻でバレるんだけどさ……。
「それで教室の隅っこ見てみたら??なんかイケメンいるし????隣でデレデレしてる恋海いるし???」
「で、デレデレはしてないでしょ!」
「いーやデレデレしてたね。あれは女の顔だったわ」
そ、そんなあからさまだったかな……なんか恥ずかしくなってきた。
「まあ、いいけどさあ……紹介はしてくれるんだよね???」
「あー……えっとー……」
こうなるかも、という予感はあった。
基本的に男の子はやっぱり少なくて、私の……今は“まだ”私のじゃないけど、将人は普通にかっこ良いし中身も完璧だし完全に優良物件だ。いや優良物件どころの騒ぎじゃない。きっと将人の人となりを知れば、売約済みの札を持った女たちがこぞって集まるだろう。
全部蹴散らすけど。
だからこそ本当にあの時会えたのは奇跡だった。奇跡というより……運命、みたいな。
だってそうだよね。あんな運命的な出会い、漫画でもそうそうない。
「あのーー恋海さん???」
「あ、ああごめんごめん」
トリップしてる場合じゃなかった。
まあ紹介してとか言われるよね……ここでどうするかなんだけど。
正直、とうに私の心は決まっていた。
「ごめん。本当にそれだけは無理」
「えー!なんでよ!男の情報は共有しようって言ってたのに」
「ごめん!」
「……っ」
みずほの言葉を遮るように、手を合わせる。
確かにみずほの言ったように、その約束は、した。
正直当時はこんなに一人の人に入れ込むとも思ってなかったし、誰かと付き合ってみたいなーくらいの軽い気持ちだったのだ。
今はもう、全てが違う。
「本気なんだ、私。ごめんだけど……あの人は……将人は誰にも譲れない」
初めて自覚した恋。
これだけは、誰にも譲れなかった。
頭を下げていると、みずほのため息が。
「はぁ……しんゆーにそんな頭下げられたら、もうなんも言えないって」
「ごめん……ありがと」
「でも!そしたらもー他の男は全部情報もらうからね!あのイケメン独り占めする気なら、他の男紹介してよね!」
「あはは……善処します……」
やっぱり、みずほは良い子だ。
もし、もし将人以外に男子と話す機会があったら、必ずみずほを紹介しよう。
みずほと別れて、私は2限の教室にきていた。
「あれ……将人まだいないのかな?」
だいたいいつも、授業の始まる15分前には来ていて合流するのだが、まだ連絡が無い。
「しょーがない。席取っておこっかな」
まだ人の少ない教室に入り、奥の一番後ろまで突き進む。
自分の座る席と、その隣に鞄を置いて席を確保。
ここに、将人が来る。
それだけで、自然と口角が上がってしまう。
「連絡しとこっと」
席に座って、スマホを開く。
連絡先はすぐに交換した。授業の資料の写メとか送りたいって言ったら一発だった。
ちょっとでも緊張した私がばかみたい。
ハートとか使ったらキモがられるかな……いやでも将人だし。そんなこと絶対思わなさそう。
約1ヶ月ちょっと将人と学校生活を送って感じたのは、彼の性格が良すぎること。これは最初からわかっていた感もあるけど、本当に良すぎる。良すぎて心配になる。
なにが心配って、彼は性格が良いのも相まって、女子へのガードが緩い。ありえないほどに。
私もそのおかげで仲良くなれた節はあるけれど、もう仲良くなって、思いっきり狙っている身としては、かなり心配だ。
とんでもないビッチに騙されたらと思うと寒気が止まらない。
(私が、守ってあげなきゃ……)
だから、大学生活中は私が守る。
なるべく一緒にいる。
そしていつかは……大学の外でも、私が守りたい、なーんて。
ピロン、と通知が鳴ったのでスマホを取り出す。
将人から、デフォルメの猫がありがとう!と言っているスタンプが送られてきた。
こんなところまで、可愛いんだから……。
大丈夫、絶対私が守るからね。
授業が始まって10分ほどで、将人は教室にやってきた。
後ろのドアから入ってきて、きょろきょろしている。可愛い。
私は将人に気付いてもらえるように、手を振った。
すると将人もこちらに気付いたようで、こちらへと歩いてくる。
ふむ。今日の私服もカッコ良い。
将人はファッションセンスもめちゃくちゃ良いのだ。
「マジサンキューな恋海助かったわ」
「にしし……将人のためならこれくらいちょろいもんだよ♪」
こうして名前で呼び合って、二人で授業を受ける。
私にとっては、毎日が夢のような時間だった。
けれど、この生活が始まってから1ヶ月。
そろそろ……そろそろ次の段階に行ってもいいんじゃないだろうか。私はそう思っていた。
(ん……そしたら今のこの状況……使えるのでは?)
汗を拭きながら、文房具を出している将人の横顔を眺める。
私は、将人が好き。
だけどそれを今すぐに伝えても、勝率は薄い。
私は絶対に将人を彼氏にしたいから、失敗は許されない。
これなら断られないという確信が持てなければ、告白なんてできない。
何事にも段階は必要で、今必要なのは、もっと親密になること。
親密になるために手っ取り早いのは……デートだ。
私は、勝負に出る。
ようやく落ち着いて授業を聞く体勢になった将人のTシャツの袖を、引っ張ってみた。
「……ね、せっかく席とってたんだから、今日こそ一緒にご飯行ってよ」
……ちょっとあざとすぎたかな。
けど、これくらいしないとどうせ意識なんてしてもらえない。
「あ~ま~じでごめん、今日はバイトなんだよね」
ぐっ……でも想定はしてた。何故なら先週も金曜日は断られたから。
それならそれで、まだ手はある。
「え~もしかして将人金曜日は確定でバイト系?」
「そーね、ほとんどそうかなあ」
「そっか、じゃあ来週の月曜日とか!」
「おーそれならいいよ全然」
「やった」
きた!!!デートの約束ゲット!!!!
感情が溢れて、思わずガッツポーズしてしまった。けど仕方ないよね。嬉しいんだもん!
さっそく私の中でデートプランの構築が始まる。
月曜は6限までだから、大学が終わるのは恐らく17時とかになるはず。
夕飯はもちろん予約するとして、それまでどこにいこうか?
ちょっと駅前でショッピング?
映画……を見るには少し時間がないか。
カラオケとか行くのも悪くない。
最寄り駅の施設を思い浮かべながら、一番将人に楽しんでもらえる方法を探る。
授業の内容なんて、1ミリも頭に入っていなかった。
「……なあ」
「……?」
そんなタイミングで、小声で将人が話しかけてきた。
あ、ヤバ。全然授業聞いてないけど授業関係のこと聞かれたらどうしよう。
と、思ったら。
「本当によかったのか?俺と授業取るより、友達と授業とりたかったろ……?」
「……んー?全然そんなことないよ。友達とは、サークルとかで会えるしね」
……どういう、ことだろう。
そんなことない。私は将人と授業を受けたい。将人と過ごしたい。
もやもやとした気持ちが、胸に巣くう。
そんな私に、追い打ちがかかる。
「もしあれだったら、たまには友達とうけてくれてもいいからな。俺は一人でもいいからさ」
……なんで、そんなこと言うの?
一瞬で、黒い感情が、胸に渦巻いた。
「なんで?」
自分でも驚くほど冷たい声が出た。
「え、いや、恋海がほら、他の子と受けたいかな~って」
「将人は私と授業受けるの、嫌?もしかして、他の女の子と授業受けたい?」
こんなこと言いたいわけじゃないのに。
黒い感情の波が、押し寄せて止まらない。
「いやいやいや!そんなことない。マジでありがたいし、恋海みたいな美少女と授業受けれるならそんなに嬉しいことは無いようん!ってか恋海以外に友達いないし!」
……び、美少女?
今私、美少女って言われた?
「び、美少女?そう?かな?将人からみて、可愛い?」
「お、おう。そら可愛いだろ。自信もっていいと思うよ?」
え、めちゃくちゃ嬉しい。
急にぽかぽかと心が温かくなった。
「そっかーえへへ……可愛いかあ……」
好きな人から言われる可愛いが、こんなに嬉しいだなんて知らなかった。
たくさん自分磨きをしてきて良かったと心から思う。
そして朝、みずほから言われたことを思い出す。
――確かに私、デレデレしてるかもしれません。
3限が終わって、将人は帰っていった。
大学の出口までそれを見送って、私は4限へと向かう。
その道中。
さっきの2限での出来事を思い出していた。
(あんなこと、言いたくなかったのに……)
自分でもわからなかった。
将人が、他の女の子と会いたいと思っていると考えただけで、心の中の黒い感情が暴れ出した。
醜い、嫉妬の感情。
将人も、慌てていたように思う。
そもそも将人は他の女の子と授業を受けたいなんて一言も言ってないのに。
(将人はあんなに良い人なのに……私は……)
思わず自己嫌悪してしまう。
けど、今でもやっぱり、もし将人が他の女の子と遊びたいとか言いだしたら、同じことを言ってしまう気がする。
私でいいじゃんって思ってしまう。
初めて人を心から好きになった。
毎日がとても楽しい。
――けれど、初めてのこの特大の感情を、制御できていない気もする。
気をつけなきゃ……嫌われたら、多分私二度と立ち直れない。
ああそっか。
私は――嫉妬深い女だったんだ。
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