5.日常

あれから、猫たちの言葉がわかることはなくなった。






夢……




夢だったのかもしれない。




でも、あのとき扉の向こうで見た景色……感じた風や花の匂い、踏みしめた草原の感触。



猫たちが、夢中で駆けていってしまって……遠ざかっていってしまったときに感じた焦りも……。



猫と話せていたことも、現実味があった。ぬしって呼んでたなんて、と衝撃を受けた。



あれがすべて夢だったとは、思わない。思えない……。






私が暗い闇に落ちてベッドで目覚めたとき、猫は側にいなかった。



いつも、夜寝るときも朝起きたときも、お昼寝のときも一緒にいるのにいなかった。



「モニカ……ピオ……。」



まさかという思いで、急いで体を起こして猫を探す。


寝室には、いない。




子ども部屋にもいない。




階下へおりて見るも、ソファやキャットタワーに姿はない。




次いでキッチンに行くと、2匹揃ってそこにいた。




「よかった……! モニカ、ピオ……。」




私は心から安堵した。

居なかったらどうしようと気が気じゃなかったから。


2匹はキッチンで、ご飯を食べるでもなくただ、あの草原へと続く扉があった壁を、見ていた。






そして猫たちは私に話しかける。




「ニャー」


「ニャン」




でも、もう言葉としては聞こえなかった。




「あったよね?」



「ニャー」


「ニャン」




言葉としてはわからないけど、確かに猫たちと会話できている。




「どうやって帰って来たのかな」



「ニャーニャ」


「ニャニャン」




確かに、会話になっている。


そう、日本語として通じなくても、猫たちとは、ずっと会話出来ていたじゃないか。




ごはんが食べたい。



トイレきれいにして。



眠いよー早く寝ようよー。



撫でて撫でて。



びっくりした!



遊ぼ遊ぼ!



おかえりー。




ずっと、言っていることは、理解出来ていた。






「戻って来てくれて、よかった。」



「ニャニャ―!」


「ニャンニャニャ」











『当たり前だよー』


『ここが家だもん』





そう、聞こえた気がした。










これが、私に起こったたった数日間の不思議体験。












~うちの猫がしゃべった~





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