第46話 無敵のルルナ

 さて、どうしたものか。


 ラスボスである皇帝ディアギレス戦前のメインシナリオとしては、最大の見せ場である聖王エリオン17世とのバトル。


 3対1という、相手からしたら不公平なパーティー戦。

 正直、攻略難易度はそれほど高くない。


「……はぁ……はぁ……はぁ……」


 ルルナは《悪魔の審判ラスト・ジャッジメント》を使用した反動で、身体にダメージを負っている。


 今後のことを考えると、ここはチェルシーを中心にして戦うのが効率的だ。

 レベル100(MAX)の俺が戦闘に参加すると、ルルナとチェルシーに経験値が入らなくなるからな。


 ラスボス戦前に、少しでも2人をレベルアップさせておきたい。


「チェルシー、聖王とのバトルだが──」


「ええ、分かってるわ。アタシが戦うわ! あの聖王には、アタシのヴェリオ様に酷いことをしたっていう大罪があるからね。アタシが罪を償わせるわ!!」


 俺の言葉を遮って出たチェルシーのセリフ。


 個人的な想いが前面に表れていた。


 ……ルルナとは違うベクトルでの、個人的な感情が。


「う、うん……戦う理由はともかく……その意気込みは心強い」


「任せて! 愛のチカラ、みせてあげる!」


 チェルシーの「愛のチカラ」発言を聞くのは二度目だ。

 サブクエスト《真心弁当》での『名もなき女性』との戦いに見せた、チェルシーの熱い気持ち。


 今、あの時と同じ強い感情が溢れ出ているのだろう。


 しかし、そんなチェルシーを制し、聖王の前に立った人物がいた。



「聖王様とは…………私が戦います」



 主人公ルルナだった。


 ルルナは、鋭い眼光を聖王に向け、『デーモンサイズ』を構える。


「無茶よ!! ルルナはタナトスとの戦いで消耗してるでしょ!? ここはアタシに任せて──」


 チェルシーが説得するが、


「いいえ、私が戦います」


 ルルナの意志は揺るがない。


 俺が言っても、ルルナの気持ちが変わることはないだろう。


 チェルシーの感情以上に、ルルナは聖王に対して……教会に対して強い想いを抱いているのだ。


「ふむ……さきほど、タナトスが言っていたな。お前たちの誰が、何人で戦おうが関係ない、と。あの男は弱く脆い存在だった故、その言葉に重みは無かった。しかし──余が発すると、その言葉は真実となるのだ! お前たちの誰が、何人で戦おうが関係ない!!!! 正義のチカラの前に、ひれ伏すが良い!!!!」


 聖王が言い放ち、バトルが開始された。




 初手は聖王エリオン17世の光魔法攻撃。


 聖王の右手から発せられる眩い光線が、直線上に飛んでくる。


 光線の攻撃対象はルルナ。


「っ……!!」


 ルルナは聖王の光魔法攻撃を辛うじてかわす。


「ルルナ大丈夫!?」


「大丈夫です!! 私は、やれます!!」


 体勢を立て直し、力強く言うルルナ。

 その瞳に宿る光は、曇ることなく輝きを放ち続けている。


 聖王の装備する『光リング』以上に、ルルナの瞳は輝いていた。


「初撃を躱したくらいで図に乗るなよ。余の正義のチカラは、こんなものではない!!! ハァッッッッ!!!!」


 聖王の言葉に呼応するように、『光のリング』が強烈な輝きを放つ。


 その直後、俺たちの周囲が白い光に包まれる。


「これは!?」


 チェルシーが驚愕の声をあげた。


 俺たちを包み込んだ球体上の光。


 これは『光のリング』の固有能力。


 ──《聖なる光陣ホーリー・プロテクション


 対象の能力値を下げる光魔法だ。


 この魔法は、発動したら確定で相手に入る。


 聖王戦で絶対に食らってしまう魔法であり、プレイヤーは強制的に能力値を下げられた状態で聖王に挑むことになるのだ。

 これは聖王戦におけるデフォのルールみたいなもので、《聖なる光陣ホーリー・プロテクション》を防ぐことは絶対にできない。


「気にするな、チェルシー」


 俺はチェルシーに言いながらも、自身の能力値が下げられていることを実感していた。


「ええ! わかったわ! 少し身体が重くなったような気がするけど、大したことないわ!」


「? あの……今の魔法攻撃……なんだったのですか? なにか、力が沸々と湧き上がってくるような感覚があるのですが」


 見ると、ルルナはタナトス戦で消耗していた体力が回復しているようだった。


 ……なにが起きた!?


 敵のデバフ攻撃を受けて、逆にバフが掛かったように見えるが……。


「……まさか余の《聖なる光陣ホーリー・プロテクション》が効かぬとは……小癪なッ」


 聖王が苛立ちを露わにする。


「よく分かりませんが、これで全力で戦えます!」


 ルルナは『デーモンサイズ』を振りかざし、聖王へ向かう。

 

 聖王は光魔法を駆使しながらルルナの攻撃に対抗する。


 遠距離戦が得意な聖王に対し、接近戦に持ち込んだ時点で戦況はルルナに有利だ。



 そんな戦闘の最中。

 俺はルルナの身に起きた現象を考えていた。


 《聖なる光陣ホーリー・プロテクション》は光属性の魔法である。


 闇属性である魔神の俺や無属性のチェルシーは、その影響を直に受けた。


 しかし、ルルナは能力値が下がるどころか、逆に上がった。


 ここから推察されることは──



 ルルナは初期の状態デフォルトで光属性なのでは?



 《フェイタル・リング》は属性ゲーである。

 光属性の相手に光魔法の攻撃は効かない……どころか吸収されてしまう。


 ルルナが光属性であれば、さきほどの現象に説明がつくのだ。


 今更だが、ルルナの秘められた属性が明らかになったような気がする。


「な、なんだと!? 余の《聖なる閃光ホーリー・ライトニング》までも効かないなどと……そんなバカなことがあってたまるかッ!!」


 聖王の狼狽する声が大聖堂に響く。


 やはり、聖王の光攻撃はルルナに効いていないらしい。


 元々のゲーム《フェイタル・リング》に光属性の仲間キャラクターは存在しない。

 もし存在していれば、この聖王戦が完全な消化試合になってしまう。


 さすがにゲーム開発スタッフさんも、そんな設計にはしない。


「どうやら私には聖王様の攻撃が効かないみたいですね」


 この世界では、完全な消化試合になってしまっているが……。


「こんなハズでは……こんなハズではああああああああっ!!!!!」


 聖王が、気が狂ったように光魔法の攻撃を連発してくる。


 もちろん、光属性のルルナには一切効かない。


 そんな破れかぶれの聖王の光攻撃が、チェルシーにも向かってきた。


 チェルシーの眼前に迫る一筋の光──


「フンッ!!」


 俺はチェルシーの前に掌を出し、光攻撃を代わりに受けた。


「ヴェリオ様!! ありがとう!!!」


「チェルシー、ヴェリオさん、大丈夫でしたか!?」


 ルルナから声が飛んでくる。


 聖王と対峙しながらでも、外野の俺たちのことを気にかけているようだ。


「アタシは大丈夫よ! ヴェリオ様が守ってくれたから!」


 チェルシーの言う通り、なにも問題はない。


 この戦闘も、おそらくルルナは無傷で聖王を倒すことができるだろう。


 しかし──


 俺は、この世界で初めてダメージを負っていた。


 光攻撃を受けた掌に。







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