第47話 魔神の弱点

 俺は自分の右手をジッと見つめる


 聖王の攻撃からチェルシーを守るために差し出した手。

 麻痺したようなピリピリとした感覚が襲ってきていた。


 聖王が破れかぶれに放った《聖なる閃光ホーリー・ライトニング》。

 光属性の攻撃であり、ルルナには一切効いていない。


 しかし、闇属性の魔神相手には効果的な攻撃スキルのようだった。


「聖王様、これで終わりです!」


「ま、待て、待ってくれぇええええ!! わ、わかった! 余が世界を支配したら、お前に世界の半分をくれてやろう! そ、それで良いな!?」


 威厳も尊厳も感じられなくなった聖王の言葉。

 

 ルルナと聖王との戦いに決着がついたようだ。


「全然わかっていないようですね。これまで苦しんできた《荒くれの町ラガール》の人たちを始めとする皆さんの想いを受けてください!!」


「な、なにを……っ!!??」


「《悪魔の審判ラスト・ジャッジメント》!!!!」


 連戦においての最強スキル2連発。


 その強烈な闇属性のエネルギー波が聖王に直撃し……、


「グ、グハッッッッ!!!!! こ、こんなことが……余は……余は……世界を統べる……グハッ……支配する……絶対的な存在…………ガハッ」


 悪魔の審判が下された。


 聖エリオン教会のトップに悪魔の審判が下る……なんとも皮肉な光景である。


 聖王自身は、どうやら闇属性が弱点だったらしい。


 ゲーム上では闇属性の仲間キャラクターが居なかったため、俺も初めて知った情報である。


 光属性の聖王は闇に弱かった──聖王は自身の心の闇には勝てなかった、ということなのだろう。


 それにしても、『デーモンサイズ』の力を借りているとはいえ、光属性でありながら闇属性までも使いこなせるとは……。


 ここにきて、徐々にルルナの本領が発揮されていくのを実感する。


「やったわね! ルルナ!」


 ルルナに駆け寄るチェルシー。


「は、はい……うっ」


 ルルナは眩暈を起こしたように、その場に倒れそうになってしまう。


「っと。大丈夫か、ルルナ」


「あっ、ありがとうございます……ヴェリオさん」


 俺が素早く介抱すると、ルルナは優しく微笑んだ。


「ふふっ」


 俺とルルナの様子を見ながら、チェルシーが幸せそうに笑った。



 ──ルルナは『光のフェイタル・リング』を手に入れた──



 視界にシステムメッセージが表示される。


 俺たちは、無事に『光のリング』入手イベントを終わらせることができた。


「……おや? ヴェリオさんの手……お怪我をされているようですね」


 聖王の光攻撃によりダメージを負った俺の手。

 ルルナが心配そうに見つめてきた。


「大丈夫だ。大した傷じゃない」


「ダメですよっ、しっかり治さないと。『光のリング』を手に入れた今なら、ヴェリオさんを癒して差し上げられますっ」


 そう言って、ルルナは『光のリング』を指に嵌め、なにやら詠唱を始めた。


 ……回復魔法か。


 こうして仲間に心配されるのは初めてのことだな。

 なんだか気恥ずかしい気分になる。


 『光のリング』を装備した聖女の回復魔法……凄い気持ち良さそうだ。


 …………ん?


 光……聖女……回復魔法?


「あっ! ルルナ! ちょ、ちょっと待──」


 俺が気づいた時には遅かった。


「《聖なる祈りライト・ヒーリング》」


 ルルナは静かに回復魔法を俺に使用した。


「ぐ、ぐあああああぁぁぁ!!!!!」


 い、痛ぇえええええ!!!!!


 回復魔法を俺は思わず叫んでしまった。


「え……ど、どうしたのですか!!?」


「ヴェリオ様!? どうなってるの!? ルルナ、今のは回復魔法なのよね!? なんか、ヴェリオ様、逆にダメージを負ってるわよ!?」


「回復魔法ですよ!! それも教会の聖職者が使用する微弱な回復魔法ではなく、『光のリング』で効果を増大させた強力な回復魔法です!! それが……なんで……」


「ごほっ、ごほっ…………え、えっと……大丈夫大丈夫、何にも起きてないから! 大丈夫! ちゃんと回復したから!」


「本当でしょうか……?」


 いぶかるような視線を送ってくるルルナ。


「あ、ああ! ルルナ、ありがとう。おかげで快調だ!」


 俺は両手をブンブン振り回し、回復したことをアピールした。


 ……ホントはダメージ負ったんだけどな。


 俺の予想通りだった。

 魔神の身体は、回復魔法の類は逆にダメージになってしまうんだ。


 回復魔法は光属性。

 魔神に対しては強力な攻撃手段になるようだ。



 ──最強の裏ボスにも弱点はある。



 これは、俺自身にも有益な情報だった。







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