第37話 巨大ワームの大好物

 目当ての買い物を終え、《ノームランド》入り口に戻ってきた俺たち。


「ヴェリオさん……あの……これから私たち、どうするのでしょうか……?」


 ルルナの手には大量の香草、そして、頭には疑問符が浮かんでいるようだった。


「これから『土のリング』を手に入れるため、巨大ワームをおびき寄せる」


「巨大ワーム!?」


 大声をあげるチェルシー。


「そうだ。普段、巨大ワームは地中深くで生活しているんだが、好物を利用してヤツを地上に出す必要がある」


「え? なんでですか?」


「まさか……」


 どうやらチェルシーは気づいたようだ。



「『土のリング』が巨大ワームの腹の中にあるからだ」



 ──そう。


 『土のリング』──土の精霊ノームは、遥か昔に巨大ワームに吞み込まれ、今も消化されずに胃袋の中に閉じ込められているのだ。


「ええええええ!? じゃあ、この大量の香草って……」


「巨大ワームさんの好物ってことなんですか!?」


「…………ま、まあな」


 俺はルルナの質問に一拍置いて答えた。


 嘘は言っていない。嘘は。





 《ノームランド》から離れた砂漠地帯。


 ここが巨大ワーム発生のポイントだ。


 本来なら時間を掛けて発生ポイントを探索するのだが、予備知識のおかげで色々とショートカットすることができた。


 本音を言うと、この後のイベントもショートカットしたいのだが……。


「よし。それじゃあ2人とも、持ってる香草を自分の身体に振りかけろ」


 俺は言った直後、頭から香草を被る。


「よし……じゃないわよ!? ヴェリオ様、さすがに唐突すぎよ!? って、ルルナ!?」


「はい! 振りかけました! これで良いでしょうか?」


 躊躇ためらうチェルシーに対し、ルルナは間髪入れずに香草を自身の身体にかけた。


「ああ。さすがはルルナだ。肝が据わっているな」


「……うぅぅ。いいなぁ……ルルナ、ヴェリオ様に褒められて……。こうなったら、アタシだって!!!!」


 チェルシーも意を決し、香草を身体に振り撒いた。


「いいぞ、チェルシー! あとは、そのまま待機だ」


「はい!」「……うぅ」


 元気よく答えるルルナと、身体に付着した香草を気にするチェルシー。


 対照的な2人を微笑ましく見守りながら、俺はその場でジッと待った。




 ──しばらくして。


 俺たちの立つ砂漠地帯。

 その地面が大きく揺れ始めた。


「ヴェリオ様!? これは!?」


「大丈夫だ。そのまま立ってろ」


 俺たち3人は一歩も動かず、ただただ様子を見守る。

 ……香草を全身に付着させたまま。


 すると直後。


 砂の大地が激しく波打ち、地割れが発生した。


 いよいよ目的のモンスター、巨大ワームとの御対面である。


「シュハアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!」


 地中から大きな鳴き声とともに、巨大ワームが出現した。


 全長約200メートル。

 まるで高層ビルのような大きさの巨大生物。


 見た目は芋虫のようだが、大きく開いた口が特徴的である。


 全てを丸呑みしてしまうかのような大きな口。

 開いた口の内部には深淵が広がっており、外からでは身体の中の様子を確認することはできない。


 全てを呑み込む黒い空間。

 俺はブラックホールを思い浮かべてしまう。


「ヴェリオ様!? ア、アタシたちは、こ、このまま突っ立っていればいいの!?」


「ああ」


「ホ、ホントに!? ねぇ!? ホントに!? なんか、巨大ワームがアタシたちを呑み込もうとしてるんだけど!?」


「ああ」


 チェルシーの言うとおり、眼前の巨大ワームは俺たちに迫り、よだれと思しき液体を口からダラ~っと地面に垂らしている。


 そして──


「シュウウウウウウウウウウウウウ!!!!! ハアアアアアアアアアッッッ!!!!!」


 巨大ワームは物凄い音を立てて、空気を吸い込んだ。


「キャアアアアア!!!」

「きゃああああああ!」

「っくぅ!!」


 空気だけでなく、俺たち諸共もろとも……。


「巨大ワームの好物って、人間アタシたちだったのおおおおおおお!!!!!」


 巨大ワームに吸い込まれながら、チェルシーが絶叫を轟かせた。






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