第36話 土のリングを求めて

 主人公ルルナたちから差し伸べられた手を握り返し、俺は決意を新たにする。


「ヴェリオさん、これからも私たちに力を貸してくださいねっ」


「ああ! もちろんだ」


 ルルナたちが成長しているのは間違いないが、俺の持つ知識チートは彼女たちの役に立つはずだ。


「ヴェリオ様、さっそくだけど、これからどうするのかしら? 聖王のいる《聖都ロア》に殴り込みに行く?」


 軽く言い放つチェルシー。

 その顔は、とても冗談を言っているようには見えない。

 そこがチェルシーの怖さ……もとい頼り強い部分ではあるのだが。


 思わぬ展開になってしまったリング集めだが、攻略ルートからは外れていない。


 『火のリング』と『風のリング』を無事に入手した後、次に向かうのは──


「俺たちが次に目指すのは『土のリング』だ」


「え? 土なの? 『光のリング』じゃないの?」


「聖王の持つ『光のリング』は後回しだ。今は、聖王や皇帝よりも早く『土のリング』を入手すべきだ」


 俺がリングの入手順を「火 → 風 → 土」にしたのには当然理由がある。


 『土のリング』の入手には、風のチカラ──『風のリング』を装備していると発揮するチカラが大活躍するからだ。


 『光のリング』は、そもそも水火風土の4つのリングを手に入れてからでないと、入手フラグが立たない。


 ということで。


 俺たちは『土のリング』を手に入れるべく、ノームの国《ノームランド》へと空間転移テレポートした。





「な、なにここ……!? ほこりっぽいわね……ごほっごほっ!」


 《ノームランド》に転移した直後、チェルシーが咳き込む。


「鉱山があった《イーリスの町》よりも土埃や粉塵が舞ってますね……こほっ」


「ここは土で造られた街だからな」


 土の精霊ノームをまつる《ノームランド》は、大地を掘って造られた街である。


 街全体が盆地になっているので、ほこりちりが溜まりやすい環境なのだ。


 そんな過酷な環境でも力強く生きる住民の人間たち。

 彼らは遥か昔から土の精霊ノームを信奉しており、土とともに生き、土とともに大地に還る、という考えのもと生活している。


 《ノームランド》に暮らす人間たちにとって、精霊ノームは神にも等しい存在なのだ。


 そして、精霊ノームは人間の前に姿を見せず、半ば伝説として語られる存在でもある。


「それでヴェリオ様、この土の街に『土のリング』があるの?」


「いや、この街にはない」


「「?」」


 ルルナとチェルシーは同時に首を傾けた。


 精霊は『フェイタル・リング』に宿っている。


 つまり、土の精霊ノームのいる場所=リングの在り、である。


 人間の前に姿を現さない精霊ノームなのだが──



 出たくても出られない状況に陥っているのだ。



 俺たちは、これから精霊ノームをためのメインクエストを進めることになる。


 俺は脳内に描いた攻略チャートに沿って、クエストフラグを持っている人物たちのもとを順に訪れる。


 そうして……。



 ──メインクエスト《ワームの大好物》を受注しました──



 無事に『土のリング』入手に向けたメインクエストを発生させることができた。


「それじゃあ、『土のリング』を手に入れるために、街の食材屋に行くぞ」


「「食材屋!?」」


 ルルナとチェルシーは、目を見開いて驚きの声をあげた。





 《ノームランド》にある何の変哲もない食材屋。


「いらっしゃ~い! あら? 旅の御方かしら? ウチは《ノームランド》でも一番の品揃えを誇る店だからね! ゆっくり見ていって頂戴!」


 店に入るや、店主の威勢のいい声で迎えられた。


「……ヴェリオ様、本当にココに『土のリング』が置いてあるの?」


「街で一番の品揃えを誇るって言っていましたから、このお店にあるのかもしれませんよ?」


「いや……さっきも言ったけど、この街に『土のリング』は無いからな?」


 こんな普通の食材屋に、世界を支配するチカラがあるリングが置いてあったらビックリするわ……。


 それにしても、ルルナ……成長したとはいえ、天然なところは変わりないな。


 少しほっこりした気持ちになる。


 そして、俺は店に置いてあった『香草』を大量に抱え、店主のもとへ。


「おいおい、お客さん! そんな大量の香草ばかり買って、肝心の肉や魚は買わなくていいのかい!?」


「ああ、問題ない」


「そ、そうかい……まぁ、お客さんの買い物に口を出す権利は無いからねっ」


 そう言って、店主は素早く会計を済ませた。


 これでメインクエスト《ワームの大好物》の準備は整った。






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