第19話 チェルシーの想い
『サブクエスト』に時間を取られてしまったが、無事に目的の『火のフェイタル・リング』は手に入れることができた。
次なる目標は『風のフェイタル・リング』だ。
ここ《イーリスの町》の
自然と胸が躍る。
俺が攻略チャートを脳裏に思い浮かべていると、
「ヴェリオさん。ヴェリオーグというのはヴェリオさんのことなのでしょうか?」
……ど、どうしよう。
この質問には何と答えるのが正解だ!?
……ダメだ……全然わからん……。
だって、こんな選択肢、ゲームじゃ無かったもん……。
「もしかして、ヴェリオ様の本名なんじゃない!? ……ヴェリオーグ様……ああ、こちらの響きも素敵だわぁ……♪」
うっとりとした表情を浮かべて、妄想の世界へトリップするチェルシー。
「そ、そう! チェルシーの言う通り、俺の本名だよっ。長いから普段は省略してるんだよ。いやー、俺も久しぶりに自分の本名を耳にしたなー、あはははは」
「……ふむ、そうでしたか。ヴェリオーグ……どこかで聞いたことがあるような名だったのですが、きっと私の気のせいですね」
「うんうん、気のせい気のせい! だって俺、この世界で全然無名の冒険者だもん。誰も俺のことなんか知らないさっ」
「あの女性は知っていたようですが。それに、眷属? という言葉も口にしていましたね。どういうことなのでしょうか」
……うっ。
色々と切り込んでくるな、この主人公様……。
「こらこらっ。ルルナ、自分で言っていたことを忘れてるわよ? ヴェリオ様のことは詮索しないって約束でしょっ」
俺が返答に困っていると、妄想の世界から帰ってきたチェルシーが助け舟を出してくれた。
「そ、そうでしたっ。ごめんなさい、つい…。私、ヴェリオさんのことが気になってしまうんです……何が好きなのか、嫌いなことは何なのか、これまでの生活やご家族のこと……本音を言えば、ヴェリオさんのことを全部知りたいという気持ちが強いです……。ただ、ヴェリオさんを嫌な気持ちにはさせたくありません。だから……さきほどの質問は忘れてください……ごめんなさいっ」
ルルナは凄く慌てた様子で言った。
「ん? んんんんん? なんか、今のルルナの言動……アタシの嫉妬レーダーに反応あり、よ?」
「なんですか、そのレーダー!! そんな……嫉妬、だなんて……それは、その…………ちょっとだけあるかもしれません……はい……」
しょんぼりと
「まぁまぁ、そう落ち込まないでっ。アタシだって、『眷属』のことが本当だったら、あの女性に嫉妬してしまうわ。もし本当だったら、アタシだってヴェリオ様の眷属にして頂きたいわよ!」
どうやらチェルシーが出してくれた助け舟は泥舟だったらしい。
この舟には乗りたくない……。
「ま、まぁ……あの女性、けっこう精神的に参ってたみたいだしな。取り
「ヴェリオ様がそう言うなら間違いないわ! うんうん!」
「そうですね。私は少し考え過ぎてしまったようです。それにしても、話は変わりますが、チェルシーは本当に凄かったです! よく、あの場面で前に出て、恐怖の相手と対峙できましたね。これまで戦闘の経験は無かったのですよね?」
「それ、俺も気になってた。なんで自分が戦おうとしたんだ? ルルナだって、俺だって居たのに」
本当に、心の底から気になっていた。
なんで、あの場面──『名もなき女性』との一騎打ちが
「──あの
チェルシーがポツリと呟くように答えた。
「チェルシーと似てる? そうでしょうか? 私には真逆の性格のように見えましたが……。チェルシーは嫉妬心に支配されて行動することなど、しないでしょう?」
「なんか言葉では上手く説明できないんだけど……アタシにも、嫉妬心に支配される──そういう一面があるかもしれない、って考えちゃったのよ」
「…………」
チェルシーの言葉に、俺は思わず無言になってしまう。
……ゲームの《フェイタル・リング》では、確かに『チェルシー』は悪役だった。
恋敵である女の子に嫌がらせをし、他国へ追放しようと企む悪役令嬢だった。
今のチェルシーも、もしかしたら……その世界のチェルシーのことを、どこか胸の
だから、以前の自分と同じような境遇、立ち位置のキャラクター──嫉妬に狂う『名もなき女性』を本能的に助けようとしたんだ。
「でも、嫉妬から生まれるのは悲劇だけだわ。誰も幸せにならない。アタシは、あの鉱山夫の男性がお弁当を幸せそうに食べていた時、思ったの…………この
チェルシーがサブクエ攻略前に言った“愛のチカラ”という言葉には、そういう意味が込められていたのか。
「ふふっ。やっぱり、チェルシーはチェルシーですよっ。困ってる人がいたら助ける……チェルシーは優しい性格の女の子です!」
「ありがとっ、ルルナ」
チェルシーに抱きつくルルナ。
チェルシーは、そんなルルナを優しく包み込んだ。
◆
「よし。それじゃあ次の目的地に向かおうか」
《イーリスの町》で一息入れた俺たち一行は、さっそくメインクエストに戻ることに。
「次は、どちらに向かうのですか?」
「『風のリング』を手に入れるために《
「さっすがヴェリオ様! 旅の行程を全て頭に入れているのね! もちろん、アタシとルルナはヴェリオ様の指示通りに付いていくわ♪ ね? ルルナ!」
チェルシーが嬉しそうに俺の腕にしがみついてくる。
「はい! ……でも、今回のクエストではヴェリオさんに迷惑を掛けてしまいました。あの時、私がお弁当を受け取らなければ良かったのですから……。最終的にはヴェリオさんが解決してくれましたけど、これからは私ももっと慎重になろうと思います!」
「おう! 頼りにしてるぞ、ルルナ! もちろん、チェルシーもな!」
そして、俺たちは次なるリングを求めて《エルフの里》へ飛んだ。
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