第14話 火のリングと愛妻弁当

 マグマから飛び出し、俺たちの前に現れた精霊ニフレイム。


「貴方が火の精霊ニフレイム様……私に宿った水の精霊アクアリス様が仰っております。是非、世界を魔の手から救うために、ニフレイム様の力をお貸しください、と」


 ルルナが精霊ニフレイムに問いかける。


 メインクエストは問題なく進んでいる。


 『火のリング』入手の推奨Lvは5なので、現在Lv8のルルナはメインクエスト自体は簡単にクリアできるだろう。


 そもそも、ここのボスバトルはパーティー戦なので問題ないのだが。


 ──しかし、を攻略することはできるだろうか?


 Lv補正だけでは突破することができない難敵。


 俺がメインクエスト以上に厄介なサブクエストの攻略を考えていると、


「フフンッだ!! お前が水の精霊アクアリスに認められた存在だからって、ボクを従えられるほど強いのかは分からない!! お前のチカラ! ボクに示してみせろッ!!」


 火の精霊ニフレイムが、主人公ルルナのチカラを試すべく、襲い掛かってきた。



「うるさい」



 俺はボスバトル開始直後、ニフレイムに向かって手を翳し《混沌のカオティック・終劇フィナーレ》を繰り出した。


「ヴェ、ヴェリオさん!?」


「ヴェリオ様……!?」


 ルルナとチェルシーが驚くのも無理はない。


 だって──


「……グハッ!! な、なんという強さ……だッ!! こ、こんなチカラ、ボクを従えるとかそんなレベルじゃない……ぞッ!!!! ぐふっ」


 ニフレイム戦が一瞬にして終了してしまったのだから。


 サブクエストのことばかり考えていたせいで、メインクエストのボスバトルが完全に前座扱いになってしまった。


 攻略方法を考えていた時に戦闘を仕掛けてくるんだもん……つい……さ。


「ヴェリオさんっ! さすがですね! ニフレイム様を簡単に倒してしまうなんて! これで『火のリング』はゲットですよね!?」


「う、うん? あ、ああ……そうだな」


 俺の頭の中は『火のリング』よりも『お弁当』に支配されていた。


「凄いチカラだ……ッ!! たしかに水の精霊が認めるだけのことはある! よし! ボクもお前を認め、今後はチカラを貸してやろう! これを装備するがいい!」


 そう告げて、ルルナに指輪を渡す精霊ニフレイム。


「は、はいっ」


 ルルナは渡された指輪を装備する。


 そして、火の精霊ニフレイムが朧気おぼろげな火の気体と化し、リングの中へ消えるようにして入っていった。



 ──ルルナは『火のフェイタル・リング』を手に入れた──



 俺の視界上部にシステムメッセージが表示される。


「わぁ! 凄いわね! これが『火のフェイタル・リング』なのね!?」


 『水のリング』の隣の指に装備された『火のリング』。


「そうだ。火の精霊ニフレイムが宿ったことで、今、ルルナは2つの『フェイタル・リング』を手に入れたことになる」


「これも全てヴェリオさんのおかげですよっ。私がニフレイム様を倒したわけじゃないですし……認められたのは、ヴェリオさんのチカラです」


「俺のチカラはルルナのチカラだ。俺はルルナの……だからな」


「はいっ! これからも、どうぞよろしくお願いします!」


 ルルナが俺に一礼した直後──


「おぉ? その弁当、もしかしてオレの嫁さんが作ったやつじゃねぇかぁ?」


 鉱山夫と思しき格好をした屈強な男性が声を掛けてきた。


 男性は、チェルシーが持っていた弁当を見ている。


「あっ! もしかして、あの女性の旦那さん!? やったわね、こっちの依頼も簡単にクリアできそうよ!」


「そうですね! あちらの男性に『お弁当』を渡しましょう? いいですよね、ヴェリオさん?」


 ルルナが確認のため、俺に訊ねてきた。


「…………ああ」


 俺は、そう答えるしかなかった。

 

 結果は分かっているが、ここから先のルート分岐はない。


 《真心弁当》を受けてしまった以上、を倒さなければ先へは進めないのだ。


 そうして、俺たちは男性に弁当を渡し、昼食……いや、少し早めの夕食タイムをとった。




「お前さんたち、ありがとうよ。おかげで助かったぜ! 今日は昼ご飯を受け取り忘れちまってよぉ~。餓死するところだったぜ! がっはっはっはっはっ!」


 豪快に笑う男性。


「奥様からの愛妻弁当、とっても素敵です。私、憧れてしまいますっ」


「うんうん! 鉱山で働く旦那さんのために愛情を注いで作ったお弁当……まさに真心と愛が込められた料理だわ!」


「おう! オレの自慢の嫁さんが作ってくれた弁当だからな! 嫁さんのおかげで毎日こうしてキツい鉱山労働も頑張れるんだ!」


 男性の満面の笑みに、ルルナとチェルシーは幸せそうに微笑み返す。


 鉱山内で幸せなイベントを堪能した俺たち一行は、食事後、男性と一緒に外へ出ることに。



 ◆



 鉱山から外へ出ると、辺りは夕暮れ状態になっていた。


 そして、《真心弁当》が恐怖の始まりを告げたのだった──


「んッ!? んんんんッ!! あ、あ、ぐぅ……痛ぇ……な、なんだ、これ……は、腹が痛っぇええええッ!!」


 突如、俺たちが弁当を渡した男性が腹を押さえて苦しみ始めた。


 閑散とする周囲に響き渡る男の絶叫。


「どうしたんですか!? まさか……食あたりでしょうか!?」


「もしかして、さっきのお弁当!? アタシたちが届けるのが遅れたせい!?」


 ルルナとチェルシーが心配そうに男性を介抱する。


「いや…………食あたりじゃない」


「「?」」


 俺の答えに同時に首を傾げる2人。


 直後──




「アハハハッ!! アンタたち、ありがとう! おかげで、そのクズ野郎を始末できたわッ!! アハハハハハハハッ!!」




 俺たちの前に、《真心弁当》のクエストを依頼してき女性が現れた。


 愉悦に満ちた表情を浮かべて。


「貴女は……私たちにお弁当を渡した女性!? こちらの男性の奥様じゃないですか!?」


「クズ野郎とか言ってるけど……どういうことよ!?」


 男性を介抱しながら固まってしまった2人に俺は説明する。



「あの女、悪霊に取りかれてるんだわ……」



 サブクエスト最大の難敵『名もなき女性』と、胸糞イベントの概要を──






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