第6話 想定外のチート攻略

 俺は方針転換し、最速での全クリを目指すことに決めた。


 そのためには、ルルナを直接サポートできる強力な『仲間キャラ』が必要不可欠になってくる。


 もちろん、正規の仲間キャラである。


 《フェイタル・リング》における最強の仲間キャラクター。


 それは──大剣豪ハワードである。


 俺はハワードを仲間にするべく、さっそく《アルビオン皇国》に空間転移した。



 ◆



 大剣豪ハワード。


 物語序盤で仲間にできる豪傑の漢であり、ラスボス戦まで活躍してくれる頼りになるキャラクターだ。


 プレイヤーの選択によって仲間になるキャラクターは変わってくるのだが、全部で6人いる《フェイタル・リング》の仲間キャラクターの中で最強なのが大剣豪ハワードである。


 俺は通常プレイしか経験していないが、リアルタイムアタックRTAでも必ずハワードは仲間に加えるはず──




「ヴェリオさん? 私たち、今度はどこに来たのでしょうか?」


 急に見知らぬ街中に転移させられ、キョトンとしているルルナ。


 意味不明に連れ回してしまって申し訳ないが、これも最速攻略のためだ。


 ハワードを仲間にするには、ここ《アルビオン皇国》におけるイベントをクリアしなければならない。


 《アルビオン皇国》に侵攻してきた《神聖ギレス帝国》の軍を撤退させる。

 これがハワード加入のフラグなのだ。


 本来であれば、攻略するのにLv5は必要だが、この撃退イベントはパーティー戦。知識チートと能力チートで簡単にクリアできるはず。


「ちょっとやることがあってな。この国で用事を済ませたら、フェイタル・リングを探す手伝いをするから」


「大丈夫ですよ。こうしてヴェリオさんと異国の地に来るのも、なんだか胸がワクワクしますから。会ったばかりなのに、不思議ですっ」


 ルルナは花が咲いたような明るい笑顔で答えた。


 その表情は、とてもNPCのようには見えない。

 


 ──完全に『人間』だった。



 中世ヨーロッパのような街並みの《アルビオン皇国》。

 街中を歩く人たちも、みな自然な行動をとっており、決められたプログラムで動いているようには見えない。


 ゲーム世界を模して再現した、とかいうレベルじゃない。


 ここは、完全に『異世界』なのだ。


 そう思うと胸が苦しくなる。


 この美しい街並みは、主人公が入国したことで一変してしまうのだから。



 しばらくして──


「た、大変だぁ! 帝国軍だ! ギレス帝国の軍勢が攻めてきたぞぉ!」


「なんだって!? みんな! はやく逃げろ!」


 警鐘が鳴り響き、辺りに住民の絶叫や怒号が飛び交う。


 イベント発生とともに、街中は一瞬にして大混乱に陥った。


「軍!? あの悪名高い……ギレス帝国の軍勢……?」


 ルルナの表情も一気に険しくなる。


 その直後。


「おい! お前さんたち! そんなところに突っ立てると、帝国軍の兵士たちにき殺されちまうぜ!」


 日本の戦国時代の武士のような出で立ちの男が、俺とルルナの前に現れた。


 セリフも外見も声も、全部一緒だ。


 目の前に颯爽と現れた男──大剣豪ハワード。

 この帝国軍侵攻イベントで彼に力を見せつけることにより、ハワード加入クエストが発生するのだ。


「大丈夫です! 帝国軍は……私が食い止めますっ!」


 ハワードに対し、勇ましく答える主人公ルルナ。


 田舎村の聖女見習いが、いきなり異国の地の戦争のど真ん中に立つ急展開。


 これ……絶対に俺のせいだよな……。


 《アルビオン皇国》に侵攻してきた帝国軍は既に街中に入り、俺たちの眼前に迫って来ていた。


 本来のゲーム上の流れでは、軍隊を各個撃破した後、最後に現れる指揮官を倒してクリアとなるのだが──


「《混沌のカオティック・終劇フィナーレ》!」


 侵攻してきた帝国軍に向け、俺がスキルを発動した瞬間。


 ギレス帝国の軍勢は闇の衝撃波を受け、跡形もなく消し飛んでしまった。


 最速攻略において、こんな序盤のイベントに時間を費やすわけにはいかない。

 時短こそ正義であり、時短によって俺の大学進級への道が開かれるのだ。


 それに、この帝国軍だが……。



 神聖ギレス帝国の軍勢は見た目こそ人間だが、実は全員がモンスターである。



 何を隠そう、神聖ギレス帝国を治める皇帝ディアギレスこそが、この《フェイタル・リング》のラスボスであり、世界を滅ぼそうとしている悪の王なのだ。


 帝国軍はガンガン倒していって問題ない。


「す、すげぇ……なんだよ、今の攻撃……お前、化け物かよッ!?」


 大剣豪ハワードが驚愕の表情を俺に向けてくる。


 はい……俺は世界を滅ぼそうとしているラスボス以上の巨悪の魔神です……。


 俺は心の中で呟く。


「ヴェリオさん! やっぱり凄いですね! ヴェリオさんの圧倒的な力は!」


 ルルナが興奮気味に言う。


「おいおい、こいつぁ~凄いなんてもんじゃねぇぞぉ!? 国を救ってくれた大英雄だ! 皇王様から特別表彰を受けるに値するぜ!」


 ルルナとハワードに褒められ、なんだか照れてしまう。

 しかし、その直後、俺の感情は驚きへと変化する。


 俺のスキルによって破壊された街のオブジェや建物が、一瞬にして元に戻ったのだ。

 ルルナを助けた時の湖と同じ……。


 この現象……もしかして、プレイヤーが影響を及ぼしたオブジェクトに関しては、全て復元するってことなんじゃ!?


 その証拠に、帝国軍が破壊した街並みに変化はない。壊れたままの状態だ。


 新たな情報を得た俺は、その後ハワードに連れられて国の王宮へと案内された。



 ◆



此度こたびの貴君らの働き、誠に大儀であった! 国を代表して感謝いたす!」


 俺とルルナは、豪奢な飾りつけが施された『玉座の間』へと招かれていた。


 《アルビオン皇国》の皇王から直々に言葉をたまわり、特別表彰のイベントを進行させる。


 お金と装備品、称号をゲットするイベントなのだが、プレイヤーの目的はハワードの仲間加入である。


 特別表彰イベントが発生した時点で、ハワード加入フラグは立っている。


 あとは、ハワードからの感謝のセリフを待つだけだ。


「ヴェリオ、それに…………ルルナ? だったか? 2人のおかげで国の平和が守られた。国の治安を守るオレとしても2人には感謝してるぜ! ありがとうな!」


 っと、きたきた!


 《アルビオン皇国》の将軍位に就いているハワードから感謝された後、仲間加入クエストが発生するのだ。


「いえいえ、みなさんに被害が無くて何よりです」


 俺がハワードに応える。


 この後、ハワードに『お願いごと』をされて、主人公が解決すれば加入クエスト達成である。


 簡単なクエストだし、余裕だな。


 しかし──


「それじゃあオレは軍務に戻るから、お二人さんは自由に街を観光していくといい! またどこかで会ったら、そん時は宜しくな!」


 そう言って、ハワードは『玉座の間』を出て行ってしまった。


 はあああああああああ!?


 どういうこと!?


「なんで仲間にならないんだよおおお!?」


 悲痛な叫び声が、絢爛豪華な玉座の間に響き渡った。






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