第5話 裏ボスと主人公、仲間になる

「さきほどは危ないところを助けて頂き、本当にありがとうございましたっ」


 聖女見習いルルナが改めて俺に礼を言ってくる。


「怪我がなくて良かったです……はははっ」


 俺は思わず苦笑してしまう。


 いくら自由度の高いゲームだからって、主人公が入れ替わるなんて無茶苦茶すぎる……どうすりゃいいんだ、この状況。


 途方に暮れていると、


「…………あ、なんでしょう?」


 突然、ルルナが誰も居ない方向に視線を向け、誰かに語りかけた。



 ──その後、約10分間。

 ルルナは無言になった。


「これ、主人公としてののシーンじゃ……」


 本来であれば、主人公ルークが水のリングに宿った精霊と言葉を交わす場面。


 このシーンのあと、フェイタル・リングを集め世界を混沌から救うという『運命』に向かっていく流れになるのだが……。


「私……やります! 世界を混沌から救ってみせますっ!」


 ルルナが両手を胸の前で握り拳にして意気込んだ。


 彼女の青い瞳からは覚悟の気持ちが伝わってくる。


「…………う、うん」


 ほんとに主人公になっちゃった……らしい。


 トッポ村に戻っていったルーク元主人公は、逆にモブになってしまっていた。


 まさか、旅立っていなかったとは…………ルークめ……。


 そして──


 ルルナは指に『水のフェイタル・リング』を嵌め、真剣な表情を俺に向けてきた。


「私、これからフェイタル・リングを探す旅に出るんですけど……貴方も一緒に来て頂けないでしょうか!? 貴方のような強い方が仲間に加わってくださると、私も心強いです。…………ダメ、でしょうか?」


 ルルナは上目遣いで俺を見つめてくる。


 なんという急展開!


 透き通るような青い瞳に長く伸びた銀の髪。

 まだ15歳程度と思しき童顔な顔つきは、中学生のようにもみえる。


 そんな美少女に俺は仲間に誘われてしまった。



 ……世界を滅ぼそうとしている魔神の俺が! 聖女に!



 仲間に誘ってくれるなんて経験、幼稚園の時の鬼ごっこ以来だ。

 あの時は、ずぅ~っと鬼の役をやらされ続けていたが……。


 思えば、高校も大学もボッチ生活だった。


 でも──


 この世界では俺を仲間として誘ってくれる人が居る!


「いいですよ!」


 そう思ったら、俺は喜びのあまり自分の立場を忘れて答えてしまっていた。

 

 俺が答えた直後。




 ──『聖女見習いルルナの仲間に加わりました』──




 俺の視界上部にシステムメッセージが表示された。


 俺がルルナを仲間にしたわけではなく、主人公ルルナのパーティーに俺が新規加入したという扱いか。

 いつもは主人公側の立場だから、なんだか不思議な感覚だ。


「ありがとうございますっ! 改めまして、私は聖女見習いのルルナですっ。これから宜しくお願いしますね! あっ、あと、私に敬語は使わなくて大丈夫ですよっ」


 ルルナは嬉しそうに笑いながら言った。


「はい、わかりまし…………わかった。俺は──」


 自己紹介しようとした俺だったが、言葉に詰まってしまう。


「?」


 首を傾げるルルナ。


 って何だ!? 魔神とか言えるわけない!


 魔神ヴェリオーグという名前が知られていたらマズいことになる。

 ここは上手く誤魔化そう。


「……俺は……ヴェリオだ。何の変哲もない一般的な普通のありふれた冒険者だ。よろしくな」


「ふふっ。あんなに強い御方が普通の冒険者なわけありませんっ。でも、ヴェリオさんがそう仰るなら……私も詮索しないでおきます。これから一緒に頑張ってリングを探しましょうね!」


「ああ」


 俺は全てのフェイタル・リングの入手方法を知っている。

 また、その流れも。


 しかし、俺が真っ先にやるべきは別のことだった。



 ◆



「ヴェ、ヴェリオさん? ここは……どこなのですか? 転移魔法を使えることも驚きなのですが……」


 俺は主人公ルルナの仲間になった直後、すぐさま裏ダンジョンへ空間転移ファスト・トラベルしてきた。


 もちろん、《裏ダンジョンで主人公に倒される》という裏ボスのメインクエストを達成するためだ。


 しかし、なぜかダンジョンの最奥部ではなく、ダンジョンの入り口に転移してしまっている。


 ──目の前には扉。


「ここは……え~っと、俺の隠れ家のような場所なんだけど、扉が開かなくなっちゃってさ。聖女のルルナなら開けるかなって思って、連れてきちゃった」


 我ながら苦しい言い訳である。


「なるほどっ。……でも、なんだか禍々しいオーラを感じる場所ですね……地底の奥深くに眠る魔神ののような…………あっ、すみません! ヴェリオさんの家を禍々しいとか言ってしまって……」


「ははは…………平気平気、全然気にしてないから」


 その通りの場所だから!



 その後、ルルナに扉を押してもらったのだが、まったく開く気配はしなかった。


「……ダメ、みたいですね。もしかしたら、この窪みに何かアイテムを入れることで扉が反応する、という仕組みなのではないでしょうか?」


 ルルナが指差した


 固く閉ざされた扉に、4カ所、歪な形で凹んだ窪みが彫られてあった。


 ……なるほど。

 普通に考えれば、ラスボス討伐後にしか開けることができない仕組みだよな。


 いくら裏ボスだからって、途中のチャートを全部スルーして、いきなり裏ダンジョンに突入するのは無理ってことだ。


 ダンジョン最奥部に空間転移することもできないみたいだし。


 どうやら正規ルートでルルナに攻略してもらうしかないようだ。


 ──そうなると、かなり大変だぞ。


 なにせ、このゲームはであり、しか参加できないイベントやバトルが数多く存在するのだ。

 俺が介入できないバトルではルルナに頑張ってもらうしかない。

 

 でも、やってやる!


 正規のルートで攻略してやるさ!


 俺は決意を新たにした。





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