第3話 チート能力とチート武器

 大人気オープンワールドRPG《フェイタル・リング》。

 

 中世ヨーロッパの世界を舞台にしたような王道ファンタジーである。

 

 運命の指輪──フェイタル・リング。

 世界に6個存在し、全て揃えた者に世界を支配する力が与えられると言われているリング。このリングを巡って起こる様々な争いや問題を主人公プレイヤーが解決していく、というのがゲームの流れだ。


 自由度が高く、プレイヤーが選んだルートによってストーリーや結果も変わってくる。幾重にも枝分かれするマルチなストーリーを攻略するのは、本当にやりごたえがあった。


 しかし、今はそのが弊害になっていた──




 俺は自らが治めるデーモンパレス裏ダンジョンから出られず、ただただダンジョン内を探索し続けていた。


「いつ来るんだよ…………主人公」


 このままでは俺の単位が危うい。

 主人公には早くラスボスを倒してもらいたいところだが。


 他力本願な俺のメインクエスト《裏ダンジョン最奥部で主人公に倒される》に心の中で悪態を吐いていると、


「お? なんだこの武器、剣と……大鎌か?」


 なんと、探索していた裏ダンジョンで俺は武器を発見した。


 さっそく武器のスペックを『アイテム』ウインドウから確認してみる。




【デーモンサイズ】物理攻撃力900

 ・ゲーム内最強の大鎌。装備者は特殊スキル《悪魔の審判ラスト・ジャッジメント》が使用可能になる。


【魔剣ハーティア】物理攻撃力900

 ・ゲーム内最強の剣。装備者は特殊スキル《地獄よりの一閃ジ・インフェルノ》が使用可能になる。




 強すぎるッ!!

 俺がラスボスを倒した時に使っていた剣、攻撃力300だったぞ!


 このゲーム、ラスボスを倒した直後に数値がインフレ化するのかな……。


 これを装備すればラスボスなんか余裕で倒せ…………いや、この最強武器は裏ボスを倒すためのモノなんだろうな……。


 ……そんな最強武器を自分の居城に置いておくなよ……裏ボスよ。


 ゲーマーとしては最強の武器をゲットしたことに胸が躍っていたが、裏ボスとしては複雑な心境を胸に宿していた。


 そして、俺は2つの最強武器のウインドウ下部に『収納』という見慣れぬ文字が書いてあることに気がついた。


「収納? こんなもの本来のゲームには無かったぞ?」


 《フェイタル・リング》はアイテム毎に個別重量が設定されており、プレイヤーの所持限界量の数値を超えるとアイテムが持てなくなるというリアル志向のシステムを採用している。

 所持している武器や道具が謎の亜空間に収納される、なんてことは無いのだ。


 いぶかりながらも、俺は『収納』ボタンを押してみた。


 すると、目の前にあった大鎌と剣が一瞬にして消滅した。


 俺は、もう一度『アイテム』ウインドウを開き、2種の最強武器を選択してみる。


 今度は、どこからともなく大鎌と剣が一瞬にして出現した。


 俺は再び自身のスキル欄を開き、謎現象の原因を確認する。



【スキル】

 ・無限収納

  装備品や道具を無限に所持できるパッシブ能力。



「なるほど……裏ボスは謎の亜空間システムが使えるのか。こいつは便利だ」


 って言っても、冒険しない裏ボスにとっては無用の長物じゃないか?

 むしろ主人公にあげたいわ、このスキル。


 他にも大量の謎スキルを習得している裏ボス



【スキル】

 ・装備制限解除

 キャラクターに設定されている装備制限を解除し、全ての武器防具を装備可能にする。



 このスキルなんか、まさに主人公パーティーに最適だろうな。


 《フェイタル・リング》のキャラクターは、それぞれに得意武器が設定されており、決められた武器以外は装備できない仕様だ。


 剣で戦うキャラクターは剣しか装備できない。斧で戦うキャラクターは斧しか装備できない、といった具合である。


 それが別種の武器を装備できるとなると、間違いなく攻略の幅が広がる。


「あそこのイベントとか、あのボスの攻略とか、すっげぇ簡単になるな!」


 俺はゲームの難所を思い出していた。


 って、今はそんなこと、どうでもいい。


 こんな状況でもゲーム攻略のことを考えてしまう俺。

 自分の心根に呆れてしまう。


 そんな中、1つのスキルに目がいく。



【スキル】

 ・空間転移

 指定した街やダンジョンに一瞬で移動するテレポート能力。



 テレポート能力だって!?


「これだ! このスキルを使えば、主人公を裏ダンジョここンに連れてこられるぞ!」


 俺は速攻で《空間転移》を使用した。



 ◆



 世界の辺境に位置するトッポ村。


 『主人公ルーク』が暮らす村であり、物語が開始する初期村である。


 俺は、そのトッポ村にテレポートしてきた。


「凄いな……マジでトッポ村じゃん」


 何の愛着もない全然知らない裏ダンジョンには大して感動しなかったが、このトッポ村は違う。


 ゲーム上で何度も訪れた村の風景が、今、俺の目の前に広がっている!


 この世界に来て、俺は初めて感動した。


 南フランスにある田舎の農村といった感じのトッポ村。

 村民は50人くらいしかおらず、ゲームの描画的には軽い場所だ。


 しかし、草や土の匂い、田園風景など、ゲーム画面では味わうことができない部分で五感が刺激されていた。


「というか、このテレポート能力、便利すぎないか?」


 この世界のあらゆる場所に一瞬で飛べるとか、冒険感皆無だけどな。


 本来の《フェイタル・リング》に空間転移ファスト・トラベルなど存在しない。移動手段は徒歩か馬しかなかったのだ。広大な世界を時間を掛けて走り回るのはストレスも感じたが、結構楽しかったものだが……。


「まぁいいか……それよりも『主人公ルーク』の居場所を突き止めなくては」


 まさか初期村であるトッポ村に居るわけはないと思うが。

 すでに冒険に旅立っている…………はず。


 一応、俺はゲームの冒頭を思い出してみる──



 主人公ルークは釣りをしていると、尻尾に水色のリングが挟まっている魚を釣り上げる。

 《水のフェイタル・リング》を入手したルークは運命に導かれるようにして、残りのフェイタル・リングを探す旅に出る。


 ……というのがオープニングである。


 トッポ村では最初のメインクエスト《聖女の聖水づくり》を受けて物語を進行させていくのだが……。


 念のため確認してみるか。

 この世界の状況と状態を知っておきたいしな。


 俺はメインクエストを確認するために、村の教会へ行くことに。



 ◆



 教会に入ると、目的のNPCである《聖女マリアンヌ》がゲームと同じ地点に配置されていた。


「聖エリオン教会へようこそ。主の御導きに感謝いたします」


 聖女マリアンヌはゲームと全く同じセリフを言って、俺を迎え入れた。


 魔の神である俺を自然に受け入れるとは……。

 画一的な反応しか示さない『NPC』ということなのだろうか。


 果たして言葉は通じるのか。


「すみません、メインクエストの《聖女の聖水づくり》を受けたいのですが」


「はい? めいん? くえすと?」


 言語としての言葉は通じたようだが、言葉の意味は通じなかったようである。


 ……メタすぎたか?


「あ、いや、すみません。え~っと……聖女様の聖水づくりをお手伝いさせて頂きたいな、と思いまして」


「そうでしたか。大変ありがたい話ではあるのですが、聖水づくりは洗礼を受けた聖職者にしかできぬ務め。その寛大なお気持ちだけ受け取らせて頂きます」


 そう告げて、聖女マリアンヌは教会の仕事に戻っていった。


 メインクエストが受けられなかった。

 ……ということは、この世界の主人公ルークが既にクリアしたってことだろう。


 大学進級に明るい兆しが見えてきたぞ。


 喜びながら教会を出ようとした時、俺は教会内で鏡を発見した。


 恐る恐る鏡を覗き込んでみる。


「なるほど……な」


 聖女マリアンヌが魔神の俺を見て驚かなかった理由が分かった。


 魔神ヴェリオーグは黒髪の中肉中背の男であり、見た目的には至って普通の人間だった。


 ──眼光の鋭さと真紅の瞳の色以外。


 どうやら、NPCには人間として扱われるようだし、主人公ルーク探しも問題なく進められそうだな。


 ってことで……トッポ村近くの湖に寄って、次の街に向かうとしよう!







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る