第2話 裏ボスのメインクエスト
とりあえず、現状把握だ。
ここは、さっき俺がクリアしたゲーム《フェイタル・リング》の世界で、俺は最強の裏ボスに転生してしまった……ということらしい。
そして、この場所は、おそらく裏ダンジョンのデーモンパレス最奥部。
今の俺は、ラスボスを倒した主人公たちを待ち構えている状態なのだろう。
「異世界に転生するなら、冒険したかったよ…………俺」
広い空間でボッチ状態とか。
なんだよ、この孤独な状況。
大学のキャンパス内での俺と一緒じゃん。
このゲームの裏ボス、現実の俺と同じような無味乾燥的な生活を送ってんだな。
ちょっとだけ愛着が湧いてきたぞ。
とは言え、この世界から抜け出す方法を見つけなければならない。
俺は『クエスト』のタブを押してみた。
【メインクエスト】
・裏ダンジョン最奥部に到達した主人公に討伐される。(未達成)
報酬 → 現実世界への帰還
【 サブクエスト 】
・現在、受注しているサブクエストはありません。
見慣れたUIとデザインで表示されたクエストウインドウ。
そこには、見慣れぬクエスト名とクエスト内容が書いてあった。
裏ボスのメインクエスト……悲しすぎるだろう……。
でも、このメインクエストを達成しないかぎり、俺は現実世界に戻ることができないのだ。しかし逆に言えば、このクエストを達成すれば現実に戻れるってことだ!
そうして、俺は主人公がやって来るのを待つことにしたのだった。
◆
「ぜっっっっんぜん! 来ねえええええええ!」
待てども待てども、主人公が
もしかして、放置されてる!?
こんな訳の分からないところに引きこもったまま、主人公たちに発見されないで終わるとかないよな!?
本当に
──待ってるだけでいいのか!?
俺は使命感と孤独感に駆られて、裏ダンジョン最奥部から出ることにした。
本来であれば、ゲームをクリアした主人公が訪れる最難関ダンジョン。
しかし、俺はダンジョンの主ということもあり、簡単に迷宮を探索していった。
ここは俺の庭。というか家なのだ。
攻略すること自体は容易い。マップも全て踏破済み状態で迷うこともない。
問題は出口の場所……いや、入口か。
俺は主人公が入ってくるであろう、その場所を目指していた。
この《フェイタル・リング》は屈指の死にゲーなのだ。
通常のダンジョンや中ボスクラスでさえ、初見での攻略は不可能。
何度も死んで、攻略パターンを覚えるのだ。
この世界の主人公の強さは分からないけど、裏ダンジョンの攻略ともなると非常に時間が掛かるはずだ。
先に俺がダンジョン最奥部までの安全な
本音を言えばダンジョン入口で主人公を待ち構えていたいところだけど、最奥部で倒されないとクエストは達成しない。
俺は焦っていた。
時間の流れや感覚が現実世界と同じかどうかは分からないが、今の状況は非常にマズいのだ。
俺は焦りながら洞窟のような薄暗い回廊を小走りで駆ける。
その時だった──
「魔神ヴェリオーグ様!? なぜ、このような場所に……!?」
突然、背後から声を掛けられた。
心臓を跳ね上げさせて振り返ると、1体の魔族が立っていた。
……敵モンスターか!?
見ると、魔族は俺と同じような黒いローブを着ており、身体からは黒い
頭から2本の角が生えており、全体的に禍々しい雰囲気が漂っていた。
画面越しで観るモンスターとは迫力が段違いだ。
いくら《フェイタル・リング》の映像がハイクオリティでも、このリアリティには勝てない。
俺は、あまりにリアルな敵の姿に恐怖を抱いてしまっていた。
ここで俺は殺されるのか!?
主人公以外の敵に倒された場合はどうなるんだ!?
様々な考えが頭の中を巡った結果──
「頼む! なんでもいい! なんかスキル出てくれぇえええ!!」
俺は眼前の魔族に手を翳し、叫んでいた。
直後、俺の右手からドス黒いエネルギー波が噴き出し、前方の魔族に向けて一直線に放出された。
密閉された暗い通路に轟音が響き渡った時には、俺の目の前に居た魔族は跡形もなく消え去っていた。
お、おいおい……マ、マジかよ……!?
このスキル、きっと《
こんなスキル、剣とか斧で原始的に戦う《フェイタル・リング》の世界じゃ、完全にチートだろ……。
開発スタッフさん、設定ミスってないか!?
そんなことを考えていると、またしても視界の右上に『!』が出現した。
×撃破モンスター×
【 名前 】冥府神ザンガース
【 種族 】魔族
【 Lv 】90
【 職業 】魔神の右腕
・
・
・
【 特記 】
・魔神ヴェリオーグの眷属であり、デーモンパレスを守護する最高幹部。
・世界を滅ぼすために様々な画策を練っている。
……あ、今倒した魔族、俺の部下だったらしい。
裏ダンジョンの中ボスだったのかな……なんか一撃で倒しちゃったけど。
まぁ、世界が滅ぼされなくて良かった。
自分の能力を確認したところで、俺はダンジョン探索に戻った。
そして──
「ここが、裏ダンジョンの入り口か……」
大きな扉の前に到着した。
薄暗い洞窟内を密閉するかのように配置された両開きの扉。
「くっそ! なんだこれ! 全然開かねぇぞ!?」
押しても引いてもビクともしない。
ダンジョンの最高幹部を一瞬にして葬り去ったスキルをブッ放してみても、門をこじ開けることはできなかった。
なんでダンジョンの主が自分の家の扉を
そもそも、本当に主人公は
このまま放置され続けたら──
「俺、留年しちまうぞぉおおおお!!」
悲痛な叫び声が、裏ダンジョンに寂しく響き渡った。
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