第150話 最終話
俺は柏木さんと一緒に、お互いが失った青春を取り戻すように学生生活を満喫した。
それは駆け抜けるように一瞬で……
でもどれもが一生忘れることのない宝物になっていった。
そうして――1年の月日が流れた。
◇◇◇
柏木さんの家。
サイリウムを持って、気合を入れた格好でアイドル番組を見る彩夏に俺は呆れた表情で声をかける。
「彩夏~。いつまでテレビ見てるんだ~」
「だって~、これからルカ君が登場するんだよ! 見逃せないよ!」
「本物のルカ君はここに居るんだけど?」
「い、言わないで! 意識したらまた動悸が……」
「彩夏……もういい加減慣れてほしいな」
そして、テレビには例のうさん臭いオジサン、R・Kロバートが笑顔で手を振っている。
俺はため息を吐いた。
「それにしても、まさか本当にアイドルデビューなんかさせられるとは……」
「う~、お兄ちゃんがみんなのモノになっちゃう……」
「――残念ながら、そうはいかん。山本は私のモノだ」
俺の背後からひょっこり出てきた柏木さんが後ろからギュッと抱きしめてきた。
「あ~、ずる~い! わ、私もっ!」
対抗するように彩夏は俺の前から抱きしめてくる。
早く食べないとお料理が冷めちゃうけど、内心は凄く嬉しいから困ってしまう。
「それはそうと、山本は勉強も頑張らないとダメだぞ? 医者を目指すんだろ?」
「お兄ちゃん頑張れ~!」
「か、柏木さんや蓮司さんと比べないでくださいよ……?」
そう、俺は高校卒業後、医者を目指すことにした。
流石に柏木さんや蓮司さんほど立派な医者にはなれないと思うけど。
……それでも、俺が助けられた分、誰かを救いたいと思ったんだ。
「お前なら立派な医者になれるさ」
「そうですかね?」
「あぁ、だってお前はすでに沢山の人を励まして救ってきただろう?」
柏木さんはそう言って俺から離れると、にっこり微笑んだ。
「目の前にいる私だってその一人さ」
◇◇◇
この1年でみんなもさらに色々あった。
俺は高校3年生になり、文芸部の先輩たちは卒業していった。
足代先輩は今や同人作家界の大人気作家だ。
アニメの評判も良く、コスプレイヤーやVtuberとしても活動している。
俺もコスプレに誘われるけど、2人で外でコスプレなんてしたら大変な騒ぎになってしまうので、足代先輩の家で2人だけのコスプレ会をしたりして楽しんでいる。
足代先輩は相変わらず紅茶をこぼしてしまうので、俺はよく足代先輩の家で服を着替える羽目になるんだけど何故かいつも俺の替えの服が用意されているから不思議だ。
高峰先輩は無事、東京大学に合格。
俺の人生を題材にした新作小説も無事に出版された。
大学生活を送る傍ら、これからも執筆業を続けていくらしい。
文芸部は無くなってしまったけれど、いつも高嶺先輩が中心となってみんなを集めてくれるから寂しくない。
吉野先輩はプロボクサーになった。
腕力はそんなに無いものの、鋭い分析能力で数々の試合を制している。
「兵法とは、敵を良く知ることでござる!」と吉野先輩らしい戦略だ。
そして、佐山もボクシング界に復帰していた。
人を悲しませるのではなく、喜ばせる為に競技として拳を振るって欲しい。
そう言って、吉野先輩が佐山を説得したらしい。
先輩のボクシングパンツには『風林火山』の刺繍が力強く輝いていた。
リリアちゃんは日本に来て、ついに憧れの足代先輩とご対面。
足代先輩のサインと限定本をもらってとても嬉しそうにしていた。
そのまま、日本の学校に入学。
手術の後遺症で力が強いままのリリアちゃんは体育のバスケットボールでダンクシュートを決めてクラスの男の子たちを驚かせていた。
そして約束通り、日本中をリリアちゃんと周って楽しんでいるけれど、俺が他の女性に話しかけられると不機嫌になってしまうので大変だ。
ジョニーさんは警察官になった後、日本にも遊びに来てくれた。
ブレイバーズの皆さんが警察官になってから、あの町の犯罪率が15%も減って警察の志願者数も増加したらしい。
さらに孤児院の認知度も広がって、多くの支援と養子の引き受け手も増えたそうだ。
サウスビーデンの病院も見回って、「夜中に患者を連れて抜け出すようなけしからん奴がいないように見張ってる」と笑っていた。
藤咲さんのお店はあれから大繁盛。
ついにミシュランも2つ星になった。
お店にはサングラスとマスクで変装した倉持さんがよく訪れて藤咲さんのお料理をこっそりと堪能しているらしい。
この活躍できっと、ご両親も認めてくれるだろう。
俺は本当は藤咲さんの彼氏じゃないことをもうご両親に明かしても良い思ったのだが、「ま、まだこのままで良いんじゃないか?」という藤咲さんの提案でひとまずそのままの状態だ。
段々と言い出すタイミングが難しくなってしまった。
留美は小学校の頃から陸上を続けていたらしい。
そして、地区大会の中距離の部で優勝した。
表彰式では、優勝のメダルと俺が小学校の時に作ってあげたメダルの両方を首にかけて笑っていた。
留美は今でも俺とよく遊びに出かけてくれる。
背伸びして失敗しているところは相変わらずだけど……。
誰にでも分け隔てなく接するようになって高校では『優しいギャル』としてモテモテらしい。
千絵理は長年の努力が実ってアメリカの大きなコンサートホールでピアノの公演をさせてもらえることになった。
俺も柏木さんや他のみんなと一緒に素晴らしい演奏を聞きに行った。
蓮司さんは理子さんの写真を持って、使用人の高橋さんと一緒に幸せそうな表情をしていた。
昔、俺が拾い上げた赤い宝石のネックレスが千絵理の首元でキラキラと輝いて、一層その姿が綺麗だった。
演奏後に花束を渡しに行くと、千絵理は涙ぐんで俺をギュッと抱きしめた。
感極まってしまったのかもしれないが、周囲の観客たちからあらぬ誤解をされてしまって大変だった。
――それから、さらに数年後。
◇◇◇
渋谷のとある大きな書店の前。
「『日本文学賞』受賞!」と大きく掲げられた横断幕の前でサイン会が行われていた。
用意された長机に、俺と高嶺先輩が横並びで座る。
仕事が終わってすぐに駆け付けたので、俺は白衣のままだ。
共同著者である俺も高嶺先輩の隣でサインを書いていた。
「高嶺先輩、改めておめでとうございます!」
サインを書きながら、高峰先輩は俺の言葉に対して首を横に振る。
「俺はただ、山本の人生を書かせてもらっただけだ。本当に凄いのは、病気や周りの環境に打ちのめされずに戦った……山本、お前だよ」
「俺は、周りの人に助けられただけですから」
「みんな、『お前だから』助けたいと思ったんだ」
そう言って、高嶺先輩はサインを書き終えた本を俺に渡して笑う。
「――だから山本、これは他の誰でもない。お前のリベンジだったんだよ」
「"リベンジ"……」
柏木さんもそう言っていた。
そんな風に考えたことはあまりなかったけど、確かにそうかもしれない。
困難の中でもずっと踏ん張って、何とか幸せを手に入れた。
だからこそ、この物語が多くの人の共感を呼んで、何万人という素晴らしい読者に恵まれたのだろう。
「……そうかもしれませんね」
自分の分のサインも本に書き終えると、俺は昔の俺のように丸々と太っている男の子に笑顔でサイン入りの本を差し出した。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございますっ!」
本のタイトルは――『山本君の青春リベンジ!』。
~fin~
――――――――――――――
【あとがき】
最後までお読み頂き、本当にありがとうございました!
完結まで書くことができたのは、読者の皆様の応援のおかげです!
せっかく最後まで読んで頂けましたので、暖かい感想を残していって頂けますと大変嬉しいです!
「お疲れ様!」という意味で☆評価も入れてもらえると嬉しいです!
たまに番外編を追加するかもしれないので作品フォローは外さずにお願いします!
そして、新作を投稿しました!
ぜひ読みに行って☆評価を入れていただけると嬉しいです!
↓
『転生したら山に捨てられたので、チートスキルでモフモフ聖獣を手なずけてスローライフを満喫します!』
https://kakuyomu.jp/works/16818093076823139935
【あらすじ】
SSランクスキル、『キャンプ』
"Aランク"が最上だとされるこの世界で、異世界に転生してきた俺はこの"SSランク"スキルという意味の分からないスキルで見事落ちこぼれ判定を受ける。
山の中に捨てられたので、しょうがないからこのスキルで料理を作っていたらお腹を空かせたモフモフの聖獣が寄って来て……。
追放から始まる、痛快異世界ファンタジー!
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