第129話 彩夏の教室に行きました


 不意に彩夏の陰口を聞いてしまった俺だが、すでに彩夏の弁当の小包とスマホを持って教室に入ってしまっていた。

 とはいえ、正直ダメージは少ない。

 何となく態度で分かってたし。

 噓です、シスコンだから血ぃ吐きそう。


「どうも~、ダメダメお兄ちゃんウーバーイーツです」


 俺は彩夏の弁当を持って、ため息を吐きながらひょっこりと目の前に現れる。

 すると、彩夏は驚愕の表情で席を立ちあがって絶叫した。


「お、おお、お兄ちゃんっ!? 何で来たのっ!」


 彩夏が大声を出したせいで周囲の視線が集まる。

 当然、俺の顔もジロジロと見られている。

 美少女の彩夏と見比べて衝撃を受けているのだろう、みんな口が開きっぱなしだ。


「彩夏、弁当とスマホ忘れただろ? 可愛い妹が飢え死にしないように持って来たんだ」


「――か、かわっ!? そんなのどうでも良いから! 早くここから出てって! ほ、ほら、校門まで送るからっ!」


 彩夏は俺をグイグイと教室の外へと押し出す。

 ぽかーんとした表情で見ている女の子たちの中に見たことのある顔ぶれがあったので、俺はにこっと笑って手を振った。

 中学の頃から彩夏の友達だった3人だ。

 今日も迎えに来てくれていたし、変わらず仲良くしてくれているようで嬉しいな。


 俺はそのまま、彩夏に腕を引っ張られて本当に校門まで連れてこられてしまった。

 2人きりになると、彩夏は顔を真っ赤にしたまま言う。


「わ、忘れ物を届けてくれてありがとう……。すぐにお礼言えなくてごめん……」


 分かるぞ、妹よ。

 あんな空気の中でお兄ちゃんにお礼を言うのは屈辱的だろうからな。


「悪口も、本当は思ってないのっ! その……なんていうか」


「別にあれくらい普通だって。全国の妹も多分同じくらい兄貴のことをボロクソ言ってると思うぞ」


 むしろ今までのお兄ちゃんスキスキ状態が異常だったんだ。

 彩夏が正常に戻ってくれて俺は悲しいよ。

 ぜひ狂ったままでいて欲しかった。


「ごめん、お兄ちゃん。私、悪い子だ。お兄ちゃんが他の人に見られるの、どうしても我慢できなくて……」


 兄貴が妹の教室に来て歓迎されることなんてないだろう。

 身内が人に見られるのを恥ずかしいと思うのは普通のことだ。

 俺はむしろ彩夏が妹であることを世界中に自慢したいくらいだが。


「彩夏、もう忘れ物には気を付けるんだぞ? じゃないと、また教室に行っちゃうからな~」


「そ、それは嫌っ! もう忘れ物は絶対にしないようにする!」


 冗談なのに、そこまで強く拒絶しなくても……。

 シスコン野郎は心の中で泣いた。


       ◇◇◇


「「「彩夏、本当にごめんなさい」」」


 放課後、彩夏の中学の頃からの友達3人の女の子がウチに来て彩夏に謝っていた。


 話の内容を聞く限り、彩夏に俺の話をしつこく聞いていたのは彼女たちが発端らしい。


「実は私たち……」

「今朝、彩夏に話しかけてた男の子たちの事が好きで……」

「だから、嫉妬してつい彩夏が嫌がることしちゃったんだ」


 3人の話を聞いて、彩夏は首を大きく横に振る。


「そ、そんなの全然気にしてないよっ! 嫉妬なんて誰でもしちゃうことだもん!」


 彩夏は能天気に笑って、許した。

 それにしても、やっぱり彩夏は俺以外には優しい。


「それで、それでっ!? 3人とも誰が好きなの!? 私、応援するよ!」


 恋バナが大好きな彩夏は逆に目を輝かせて3人に尋ねる。


 俺は焼きたてのマドレーヌとお茶の入った透明なポットをお盆に載せて、4人がいるテーブルに運んだ。


「こら、彩夏。お前もあまり人の嫌がることは聞いちゃダメだぞ? あとこれ、良かったらみんなで食べて」


 彩夏のお友達の3人は俺が運んだ焼き菓子を見て興奮する。


「す、すごい! これ手作りですか!?」


「フランス料理のお店で働いてるんだ、『ラ・フォーニュ』って所」


「『ラ・フォーニュ』って一つ星の!? お料理、凄くお上手なんですね!」


「あはは、彩夏が食いしん坊だから作ってたら上手くなっちゃった。お茶は熱いから気をつけて」


「お茶も凄く良い香り! お花の花びらが入ってるんですか!?」


「これはフレーバーティーって言って、フランスでは紅茶は香りを楽しむモノなんだ。ちゃんと仲直りできたから、これはそのお祝い。これからも彩夏と仲良くしてあげてね」


「「「はぁ~い!♡」」」


 やっぱり女の子はお菓子と紅茶に弱い。

 3人ともうっとりとした表情で紅茶をカップに注ぐ俺を見ていた。

 早く飲ませてあげよう。


 俺はまたキッチンに戻って今度はタルトタタンを作り始めた。

 藤咲さんの好物だ、きっと喜んでくれるだろう。


「……3人は、が好きなんでしょ? ねぇ? そうよね? そう言ってたよね?」


 どうしても3人の好きな人を聞き出したいのか、彩夏はなにやら脅すようにして笑顔を作っていた。


 恋バナのヤクザか、お前は。


――――――――――――――

【業務連絡】

『ライブ直前に怪我をしたアイドルの代わりにステージに立ったら、マネージャーの俺の方が大人気になってしまった件』の方も更新していますので、読みに行ってもらえると嬉しいです!(みなさんのおかげで週間2位です!)

https://kakuyomu.jp/works/16817330654365815813


山本リベンジも引き続き頑張りますので、作品フォロー&☆評価おねがいいたします!

<(_ _)>ペコッ

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