第127話 彩夏の気持ち
【前書き】
彩夏の一人称視点です。
――――――――――――――
逃げるように自宅を出発して自分のクラスに到着した私、山本彩夏。
今年の春にお兄ちゃんと同じ私立辻堂高校に入学した高校1年生だ。
そんな私は、自分の席に座ると深く息を吸った。
「はぁぁ~~~」
つい、大きなため息が出てしまう。
それも仕方がないことだ。
顔を両手で覆うと――
昨日からずっと私の頭の中を支配している心の声が一段と大きくなる……
(お兄ちゃん、カッコ良すぎ~!!)
顔を覆ったのは、思い出してニヤケ面になってしまう自分の顔を隠す為だ。
ましてやお兄ちゃんが目の前なんかにいると……もうダメだ。
私はずっと仏頂面で気を張っていないと、だらしなく緩んだ顔になってしまう。
もちろん、言葉を交わすのも最小限。
うっかり目が合ってしまうようなことがあれば、私は死ぬ気で目を逸らす。
そのせいで、少し感じが悪くなってしまっているかもしれないけれど、それも仕方のないこと。
もし、一度でもダガが外れてしまったら自分でも自分がどうするかなんて分からない。
そんな相手とこれから一つ屋根の下……幸せも適量をすぎると毒になるのだと実感する。
「彩夏、今日元気ないけど大丈夫~?」
高校で新しくお友達になった秋山ちゃんがすぐに私の様子に気が付いて声をかけてくれた。
「ごめん、私今自分の心臓を休ませてるの。このままじゃドキドキが凄すぎて寿命が縮んじゃうから」
「そんなに走ってきたの? 彩夏はダイエットなんてしなくても可愛いよ~」
そう言って、ぐったりしている私の頭を撫でる秋山ちゃん。
秋山ちゃんのおかげで私もなんとか落ち着いてきた。
「彩夏、大丈夫かよ? 何か心配事があるなら聞くぜ?」
「あっ、おい健斗! 抜け駆けするなよ! 彩夏、俺の方が頼りになるぜ!」
「全く、君たちのような騒々しい奴らに話せることなどないさ。彩夏さん、僕が力になるよ」
私の様子を見て、クラスの男の子たちが心配して集まってくる。
はぁ……みんな、なんて落ち着く顔をしているんだろう。有難い。
頭の中で物凄く失礼なことを考えてしまっていた私は男の子たちに笑顔を向ける。
「ううん。みんなのおかげで元気が出たよ! ありがとう!」
「そ、そうか? 彩夏が元気ねーと心配だからなー」
「そうそう。彩夏はやっぱり笑顔じゃねーと!」
「彩夏さんの笑顔が見れて嬉しいよ。僕はいつでも力になるからね」
面倒見の良い男の子たちはそう言って顔を赤らめる。
そんな様子を私の中学からのお友達、七瀬ちゃん、三崎ちゃん、日向ちゃんが面白くないような表情で見ている気がした。
そして、七瀬ちゃんがなにやらニヤリと笑ってみんなの注意を引き付けるように話し出す。
「そぉ~言えば、彩夏って昨日お兄ちゃんが海外から帰ってきたのよね~?」
その言葉を聞き、美咲ちゃんと日向ちゃんもニヤリと笑って話を広げた。
「ならきっと、そのお兄ちゃんが原因じゃないかしら~」
「え~、でも彩夏って中学生の時からお兄ちゃんにべったりだったじゃない~? どうして再会できたのにそんなに落ち込んでいるのかしら~」
せっかく休んでいた心臓がドキンと跳ねる。
しかも、周囲の女の子たちが興味を示してしまった。
「彩夏ちゃんのお兄ちゃんだって!」
「え~、気になるぅ!」
「彩夏ちゃんに似て、顔も綺麗なんだろうなぁ~」
「彩夏のカッコ良いお兄ちゃん、紹介してよ!」
とんでもない雰囲気になってしまい、私は慌てて否定した。
「わ、私のお兄ちゃんは別にカッコ良くなんてないよ! だ、だから悪いけど紹介とかはできないかな~」
私の慌てる様子を見て、3人はさらに愉快そうに口元を歪めて私に笑いかけた。
「えぇ~? なんで~? 自慢のお兄ちゃんだって言ってたじゃない~!」
「私たちには喜んで紹介してくれてたのに~! ああいうのが彩夏のタイプなんでしょ~?」
「そうそう~、いつも手を繋いで歩いてるし、ラブラブだってアピールしてたじゃない~」
「――て、手なんか繋げないよ! とにかく、私のお兄ちゃんはダメなの! みんなも、別に興味なんか持たなくていいから!」
気が付けば私は、怒鳴るように周囲に声を荒げてしまっていた。
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