第110話 また何かやっちゃいました?
「……山本、頭痛薬を持ってないか?」
柏木さんも全員との挨拶を済ませると冗談を言いながら俺に話しかける。
「あはは、凄い口説かれてましたね」
医療関係者の皆さんは優秀な医者である柏木さんをアメリカに引き留めて、自分の研究所や病院に来させようと猛烈にアプローチをしていた。
「全く、この期に及んで往生際の悪い奴らだ」
「モテモテじゃないですか、羨ましいです」
俺が茶化すと、柏木さんはジト目で俺を睨みつける。
「良いか、山本。上辺だけ見てすり寄ってくる奴なんてロクな奴は居ない。お前も近づいてくる奴には気を付けるんだぞ」
「あはは、大丈夫ですよ柏木さん。これまでの人生で俺もよく分かってますから!」
俺は得意げに人差し指を振って答える。
「街中で声をかけられたら詐欺やカルト宗教、学校で声をかけられたらイジメ。俺なんかと関わろうとする人間はそれだけなので声をかけられたら基本的に逃げてます!」
「あっ……。その、大変な人生だったな、本当に……。ラムネでも食べるか?」
柏木さんは悲痛な面持ちで俺の肩を優しくポンポンと叩いた。
また俺、何かやっちゃいました?
「"それじゃあ! 二人とも、元気で~!"」
みんなの温かい声と笑顔で送り出される。
俺と柏木さんが見えなくなるまでリリアちゃんたちは手を振ってくれた。
心に寂しさを覚えつつ、搭乗口のゲートを通過する。
「ほら、チケットだ。普段から飛行機で飛び回っているのは遠坂だから、私たちの分もあいつが取ってくれたぞ」
「ってことは……」
柏木さんが俺に渡してくれた航空機のチケットを見る。
「行きの時もそうでしたが、当然のようにファーストクラスなんですね……」
「安心しろ、遠坂の奢りだ」
「改めて、蓮司さんってすごいお金持ちですよね」
「あいつはスポーツドクター界で一番人気だからな、年俸100億円クラスのアスリートたちが取り合っているレベルだ」
「ひゃ、100億円……。蓮司さんにとってはこのファーストクラスのチケットも豚バラ肉を買うくらいの感覚なんですかね~」
あまりの金持ちぶりに驚きながら、柏木さんと搭乗用の通路を歩く。
柏木さんも俺に大金を渡そうとしたりするのは蓮司さんのもとで育ってきたからなのだろうか。
ずっと貧乏なまま育ってきた俺とは金銭感覚がケタ違いだ。
「平日だが、空港に誰か迎えは来ているのか?」
「俺の妹の彩夏が来ています! あいつが学校を休むなんて初めてかもしれませんね~」
「あはは、それだけ早くお前に会いたいってことだろうな」
「はい! だから、できるだけ急いで日本に向かいましょう!」
「そうだな、窓を開けてうちわで扇いでみるか。飛行機の速度が上がるかもしれん」
「俺が痩せたので、多分その分飛行機も速いと思いますよ!」
冗談を言い合いながら、俺と柏木さんは飛行機に搭乗した。
――――――――――――――
【業務連絡】
次回は妹の彩夏視点になります!
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