第96話 サンタニアにて

 

 電車に乗ってサンタニアに着くと、すでに多くの人がごった返していた。


「"ほ、本当に来ちゃったよ……"」


「"良いのよ。すぐに帰れば大丈夫だわ"」


 ニコニコと笑うリリアちゃんを見ていると、確かに来てよかったとは思ってしまった。


「"カバンに色々と詰めてくれてありがとう。よく考えたら財布くらいしか要らなかったけど"」


「"あら? 何があるか分からないわよ? 備えあれば憂いなしよ"」


「"だからって、クリスマス会の時のお菓子や引き出しに入れてたガラクタまで入れなくても……"」


 カバンの中を見て呆れながら俺はため息を吐く。


「"どうして、急に外に出たの?"」


「"……私、間違ってた。これからはもっと素直に生きてやろうって思って。私、本当は外に出るのもお祭りも結構好きなの。まずはあんたにそれを知ってもらうわ"」


 そんなことを言うと、鼻歌を歌い始めたリリアちゃんを連れて俺はサンタニアのカウントダウンが行われる時計台広場へ向かう。


「"いいか~押し合うんじゃねぇぞ~! みんなで楽しく! 節度良く!"」


 会場に向かう途中で拡声器を持って群衆に指示を出している知り合いを見つけた。


「"ジョニーさん! 今回もお仕事されているんですね!"」


「"おぉ! 山本じゃねぇか! お前も年末のカウントダウンをしに来たのか? おっ? 今度は金髪のかわいこちゃんを連れてるのか!"」


「"お……犯される……シャブ漬けにされて、海外に売られる……"」


 とんでもないことを口走りながら、リリアちゃんは震える。

 確かに、こんなに入れ墨だらけで強そうな人を見たら怖がるのも無理はない。

 実際はボランティアで警備をしている凄く優しい人なんだけど。


「"人は多いが、通路が広い。以前、ここで銃乱射事件があった時も群衆事故はなかった。とはいえ、何があるか分からないから一応チームで警備をしてるんだ! 今日は怪我人の一人も出さねぇぜ!"」


「"寒い中、お疲れ様です。俺たちは勝手に病院を抜け出してきているので、年越しだけしたらすぐに帰ります"」


「"おぉ! 良いじゃねぇか! やっぱり少しくらいはヤンチャしなきゃ楽しくねぇよな! 急いだ方が良いぜ! もうすぐカウントダウンだ!"」


 ジョニーさんは俺たちを咎めるどころか豪快に笑った。


「"本当ね! あと5分しかないじゃない! 山本、走るわよ!"」


「"あっ、リリアちゃんズルいよ! 自分は車いすに乗ってるだけだからって!"」


「"いいから、急いで!"」


 ジョニーさんに見送ってもらいながら、リリアちゃんの車いすを慎重に押していく。

 時計台の中心に近づくにつれて人もどんどん増えていった。


「"だいぶ近づいてきたわね! 中心の時計台のところまで連れて行って!"」


「"えぇ? ここで良いんじゃないかな? 車椅子だとこの人混みは動けないし……"」


「"あ、あんたが抱きかかえれば良いでしょ? し、仕方なくなんだからね!"」


 俺はお願いされた通り、リリアちゃんをお姫様のように抱きかかえる。

 リリアちゃんは冬の寒さに顔を赤くしながら俺の首に腕をかけてギュッと抱き着いた。


――――――――――――――

【業務連絡】

年越しの瞬間に次の話が投稿されます!


年明けのご挨拶も兼ねていますので、よろしくお願いいたします!

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