第92話 仲良くなって、ごめんなさい

  

「…………」

「…………」


 リリアちゃんの精密検査の結果を柏木さんと一緒に待つ。


 そして、リリアちゃんに呼ばれて二人で病室へと入った。

 中には蓮司さんが険しい表情でカルテを見つめていた。


「"蓮司、私の病気について山本に教えてあげて"」


 少しだけ震える声で、ベッドに座ったままのリリアちゃんはそう言った。


 患者の病気はプライバシーが守られる。

 本人からの許可がないと、一般人である俺に伝えることはできない。

 だから俺は知らずにいたし、聞くこともしなかった。


 柏木さんと共にその規律を守ってきた蓮司さんの口から、リリアちゃんの病名が教えられた。


「"リリアの病気は『筋繊維衰退症』。約10万人に1人の割合でかかる難病だ。最初は指先から……指を動かすのが困難になり、食器も持てなくなる。やがて足や腕の筋肉も衰えて……最後は、心臓を動かす筋肉が衰退する"」


「"治療方法は無いわ。運動すれば進行を遅らせられるんだけど……今更だったわね"」


 言いながら、リリアちゃんは大きなため息を吐く。


「"ごめんなさい、山本。私は死ぬの"」


 ギュッと、リリアちゃんは布団の裾を握った。


「"私は死ぬ。なのに……なのに……"」


 リリアちゃんの瞳からポロポロと涙があふれ出た。



「"仲良くなってごめんなさい……"」



 言葉が出なかった。

 信じたくなかった、だってやっとこれから……。

 二人で一緒に、色々と……。


「"……悪いけど、少し一人にして"」


 リリアちゃんは袖で涙を拭って無理に笑う。


「"安心して。勝手にどこかに行くなんて、もうできないから"」


 頭の中が真っ白なまま、俺は蓮司さんと柏木さんに連れられて病室の外に出た。

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