第86話 ラッキースケベ


「"ラケットが握れないならバドミントンもダメか……あと、体育館でできるスポーツって言ったら何があるかな……"」


 俺は考えながら卓球台を片付け始めた。

 単純に運動神経が悪いだけなら教えられる自信も少しはあったのだが、非力が理由だとなかなか難しい。

 一緒に筋トレしよう! なんて言ったらもう二度と運動なんてやりたがらないだろうし。

 リリアちゃんが満足してくれそうなスポーツ……。


 俺は頭を悩ませながら卓球台をキャスターで押して運ぶ。


「"ほら、山本。卓球のネット、畳んでおいたわよ"」


「"ありがとう、リリアちゃん"」


 背後から聞こえた声に、俺は右手を差し出した。


 考え事をしながら卓球台を運んでいたせいで、ちゃんとリリアちゃんの位置を確認せずに手を出してしまったのが失敗だった。

 リリアちゃんは俺が想像していたよりもすぐそばにいたようで……


 ――ふにっ


 俺の指先には何だかとても柔らかい感触があった。


 振り向くと、その指先は卓球のネットを差し出すリリアちゃんの胸に触れており……

 リリアちゃんは顔を真っ赤にしてワナワナと震えていた。


「"キャァァァーー!!"」


 スパーン!


 悲鳴と共に、リリアちゃんのスナップを利かせた右手の平が爽快な音を立てて俺の頬にめり込む。


 直後にリリアちゃんはハッとした表情をした。


「"ご、ごめんなさい、つい反射的に! 事故だし、あ、あんたにだったら別に――"」


「"これだっ!"」


 俺は思わず叫んだ。


 リリアちゃんは意味が分からずに首をかしげる。


「"リリアちゃん、今みたいに手首のスナップを利かせれば強い力が出せるんだよ!"」


「"……はぁ"」


「"バレーボール! スパイクやサーブは肘や手首のスナップで打てるんだ! ボールも比較的軽いし!"」


 非力なリリアちゃんでもできそうなスポーツを思いついた俺は嬉しくて笑顔でリリアちゃんと向かい合う。


「"今のビンタ凄く良かったから、感覚を忘れないようにもっと俺の頬をはたいてみて!"」


「"えぇ!? な、なに言ってるのよ、そんなのできないわよ!"」


「"大丈夫、全然痛くないから! コツを掴めるまではたいて!"」


「"そ、そこまで言うなら……痛かったら言ってね?"」


「"思いっきりね!"」


 そして、リリアちゃんは先ほどと同じように手首のスナップを効かせて俺の頬をはたく。

 狭い体育倉庫の中で爽快な音が響いた。


 ――バシィーン!

 ――バシィーン!


 大丈夫だ、やっぱりリリアちゃんは筋が良い。

 これくらい力強くはたけるならバレーボールも上手く飛ばせるはずだ。


「"いいよリリアちゃん! 次は腕全体を鞭のように使って!"」


「"あはは、な、なんだか楽しくなってきたわ……ダメ……クセになりそう……!"」


「"その調子! もっと強く、俺の頬をぶって!"」


 ――ドサッ。


 何度かビンタを受けていると、体育倉庫の入り口で何かが落ちる音がした。

 俺とリリアちゃんは振り向く。


 そこには、手に持っていた小包を落とした様子の柏木さんがいた。

 柏木さんは動揺を隠しきれないような表情をしている。


「"……す、すまん。差し入れにブラウニーを持って来たんだが、邪魔をしたな……。倉庫から音がしたから……。ま、まさかお楽しみ中だったとは……"」


「"……お楽しみ?"」


 言われて、今の自分の状態を客観的に考える。

 どう見ても、体育倉庫で小学生女児にブルマを着せて何度もビンタされて喜ぶ変態である。


 柏木さんは顔を赤くして、咳ばらいをする。


「"し、しかし、山本はMなのか……困ったな、私もどちらかというと――"」


「"違います! 誤解ですって、柏木さんー!"」


 柏木さんへの弁明には時間がかかり、この日の運動はこれで終わってしまったのだった。


――――――――――――――

【業務連絡】

噂によると、今月がもう終わるとか。

早すぎる……


投稿もできるだけがんばっていきます!

よろしくお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る