第73話 夏祭りデートその3

 

「てやっ!」


 俺が指で弾いたコルクの弾はまるで本物の弾丸のように王将の駒の右下、『玉』になるような位置に直撃した。

 駒は衝撃ではじけ飛び、きりもみ回転しながら後ろの壁にぶつかる。


 ――そして、跳ね返ったコルク弾は数回屋台の中を跳ね回る。

 最後にはヘロヘロと力なく柏木さんの胸元に当たって落ちた。

 コルク弾を心底羨ましいと思ってしまった。


「"…………"」


 店主さんは唖然とした表情で殉職した将棋の駒を見つめる。


「"やった! 落としたから、これで貰えるんですよね!?"」


 無邪気に喜ぶ俺を見て、店主さんはため息を吐いた。


「"落としたというか、弾き飛ばしてるじゃねぇか……屋台が揺れたぜ? 一体どんな馬鹿力してるんだ"」


 店主さんは観念したような表情で俺にテディベアを渡す。


「やりましたよ、柏木さん! テディベアです!」


「おい、山本。お前が撃った弾が私にも当たったんだが?」


「す、すみません! でも、勢いはありませんでしたし、痛くなかったですよね?」


「そうじゃなくてその……クマだけじゃなくて私も……ま、まぁ良い!」


 柏木さんは何やら顔を赤くしてゴホンと咳払いをした。


「良かったな、テディベアが手に入って。これを渡せばリリアとも仲良くなれるだろ」


「何言ってるんですか。はい、柏木さん。差し上げます!」


 俺はテディベアを柏木さんに手渡す。


「良いのか?」


「リリアちゃんには他のお土産を沢山渡すので大丈夫です! テディベアは夏祭りっぽいモノとは言えませんしね~」


「そ、そうか……その、山本。お前は全く気が付かなかっただろうが、実は、私はこのぬいぐるみが凄く欲しかったんだ」


「エー、ソウダッタンデスカ!? イガイデスネェ!」


 柏木さんのメンツを保つために俺は騙されたフリをする。

 顔を赤くしているし、きっと柏木さんとしては恥を忍んでの告白だっただろうから。


「だからその……ありがとう」


「はい! どういたしまして!」


 これでほんの少しでも俺が柏木さんに受けた恩への恩返しになっただろうか。


「ふふふ……お前は本当にモフモフだな~。このこのっ!」


 幸せそうな表情でテディベアに頬を擦り付ける柏木さんを見て愚問だったと悟った。


――――――――――――――

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