第55話 未知の肉体
俺の身体のデータを取ると、柏木さんはパソコンのデータを見て頷く。
「ふむ、なるほどな」
「何か分かったんですか?」
検査のためにパンツ一丁にされていた俺はスポーツドリンクを飲みながら尋ねる。
「あぁ、お前の人間離れした運動能力の正体が分かったよ」
「えっ! な、何だったんですか!?」
「分からん。ということが分かった」
「……あれ?」
どっちですかという視線を向けると、柏木さんは俺から視線を外した。
いつもの、話が長くなる時の前触れだった。
「人間の筋繊維には2種類ある。瞬間的な力を発揮するのが得意な『速筋』と持久的な力を発揮する『遅筋』だ。だが、山本の筋肉は肥大症の影響で変質してしまっていた。『速筋』と『遅筋』、両方の性質を兼ね備える"未知の筋肉"になっていた」
「未知の筋肉……だから分からないんですね」
「そこでだ。お前の筋肉のデータを遠坂に渡しても良いか? あいつは外科医だが筋肉の研究を行っていてな。きっと驚くと思うぞ」
「蓮司さんにですか? えぇ、良いですよ! これで少しでも恩返しになると良いなぁ」
そんな話をしながら俺は自分の姿をすぐそばの鏡で見た。
確かに適度な筋肉はついているが、以前の自分と比べるとずいぶんと貧弱に見える……。
「でも、納得しました。だからこんなにヒョロヒョロした身体なのに俺は力があるんですね」
そう言うと、柏木さんも俺の身体をじっと見つめる。
「……ヒョロヒョロだなんて思っていたのか。私としてはその……凄く、良い身体だなと――い、いや、何でもない!」
柏木さんは小さな声でボソボソと何かを言うと、顔を赤くして慌てて誤魔化した。
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