第27話 ビジョン

 小夜美の眉間の『サードアイチャクラ』が動き出した事で、今までは、夢の中で見せられていたような情景が、もっと鮮明に、いかにも、自分が今そこに溶け込んでいるように映し出された。

 その緑が鮮やかな世界の中で、小夜美の目に留まったのは、追っ手が近くまで迫って来ている状態で、諦めずサーミ王女の手を引いて走っている近衛兵姿のロカだった。


「もう逃げるのは止めましょう! もう、無理です。追い付かれるのは、時間の問題です」


 訓練されているロカとは違い、走り続ける事に慣れていないサーミ王女が、捕まるのを覚悟し、息を切らしながら言った。


「ですが、捕まってしまうと、私もサーミ王女様も処刑される事になります」


 まだサーミ王女を逃避させようとし、足を止められずにいたロカ。


「もう、いいんです!」


 サーミ王女は足を止め、ロカから手を離した。


「サーミ王女様......」


「私は、もう十分ですから! 今まで、お城の外に出た事の無い私は、あまりに無知でした。今でも、無知である事にあまり変わり映えは無いかも知れないですが......でも、今回、こうして外に出られて、私は、こんなにも色んな世界が広がっているのだと知る事が出来ました! 束の間ではありましたが、生まれて初めて、自由と幸せを体験出来ました! 何より、あなたに出逢えて、こんなに命がけで、私の逃亡を助けて頂いた、それだけで満足です! 捕まっても、悔いなどは有りません!」


 目尻に薄っすらと涙を浮かべながら、きっぱりと言い切ったサーミ王女。

 

志半こころざしなかばで断念して頂く事になり申し訳ありません、サーミ王女様......」


「いいえ、私が今まで得られなかったものが随分得られましただけでも、幸せに思います。ありがとうございます。あなたの御厚意は、これからもずっと忘れません」


 ドレスから着替えた、庶民の着ているような衣服の両サイドを摘まみ、ロカに対して丁寧に頭を深く下げてお辞儀したサーミ王女。


 追い付いた王室からの追っ手に対し、王女らしい豪華絢爛なドレスは着て無いが、気高い態度で臨んだサーミ王女。


「私は逃げも隠れもしません! この件の首謀者は私で、あの者には無理強いで協力を仰ぎました。厳重に処罰されるべきは、この私のみです!」


「サーミ王女様から、そんなお慈悲を頂けるとは、良かったな、ロカ! サーミ王女様に感謝しな」


 追っ手の近衛兵達は、幸いにもロカの仕事仲間達だった。


「サーミ王女様、あなたの願いを叶える事も出来ないまま戻される事となり申し訳あございません。いつの日か、その御恩をお返しさせて頂けるまで、私は精進して行きたいと思います」


「あなたは私を、知らなかった素晴らしい世界へと導いて下さった! それで、私の人生が、初めて美しく彩られました! 私は、この素晴らしい感覚を忘れずにいたいです。そして、あなたの御好運をずっと願ってます!」


 一国の王女であるサーミの主張は聞き入れられ、本来なら、家来という立場上、絞首刑も有り得るほどのロカは減刑され、星流しとなった。

 その分も補うように、サーミ王女は、ロカより更にレベル落ちした星、地球への星流しとなった。


 ロカは流刑星で、迅速に刑期を終え、サーミ王女に誓った言葉を守るべく、彼女の流刑星である地球を訪れた。

 そして、サーミ王女の生まれ変わりとして生を受けた小夜美と出逢った。


(ロカは、地球に来たのは、その時のサーミ王女との約束を果たしてくれていただけだったのかな......? 今のこの気持ちは、サーミ王女のものなのか? 私の気持ちなのか境界線がどこなのか分からないまま、ロカにそれ以上を期待する私は、バカなのかも知れないけど......)


 小夜美の感情に切り替わったと同時に、小夜美の脳裏に広がっていた、サーミ王女として生きた過去世のビジョンは終了した。

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