第21話 達成したものの......

「おめでとうございます! これで、あなたは晴れてパサラミト星人となりました!」

 

 そのロカの声は、少し前まで聴き慣れていたような、頭で響いているものではなかった。


 忘れ物をした母子を追いかけて、職場付近の道路に出ていたはずの小夜美は、いつの間にか、見覚えの無い異空間に移動させられていた。

 目の前には、少し見慣れてきた日本人男性と認識しても違和感の無い姿のロカがいた。


「私、どうして、ここに......? ついさっきまで、職場から出てすぐの道路の付近にいたはずなのに!」


 以前、ロカと初めて遭遇した時のような、死を覚悟するほどの恐怖と苦痛の感じられていた移動の衝撃などは全く感じないまま、こうして、宇宙船内のロカと対面している事が、全く納得いかない小夜美。


(別に、私は、敢えてあの苦しい体験をまた繰り返したいわけでは無いの! だけど、あの体験をせずに移動する事が出来ていたなら、前回は、私、どうして、あんな苦しい思いを長々と経験しなくてはならなかったの.....?)


 ロカから、わざとそのような苦痛を嫌がらせのように体験させられていたのかと疑問に感じられた小夜美。


「あなたは既に、テレパシーも出来るはずですが、慣れないと、使いこなせないですし、脳を酷使するかも知れないので、とりあえず発声で説明する事にします。以前は、あなたのレベルがまだ低かったので、あの苦しみを体験しなくては私と遭遇が不可能でした。今は、あなたも私と同レベルまで次元上昇を果たしましたので、もはや、あの苦しい過程は必要としなくなったのです」


 ロカは、小夜美に対し、パサラミト星人と同レベルになった事や次元上昇した事を口頭で伝えて来た。

 そう言われても、小夜美には、それがどういう事なのか、特にこれといった実感は無かった。


 ただ、あの時......車に轢かれる事も無く、女の子も自分も無傷な状態で助かったのには、何らかの不思議な力が働いていたというのだけは、素直に認められた。

 認めないと、その不思議な現象に対し、悶々と頭を悩ませ続けなくてはならなくなりそうだったから、ここは認めた方がラクと思えた。


 テレパシーを使えるようになったと言われ、少し浮かれたものの、小夜美がロカの思考を読もうとしても、読めそうな気配など全くして来なかった。

 やはり、ロカの言う通り、発声してくれた方が、無駄な苦労をせず分かりやすいと思えた。


 それよりも気がかりなのは......


「次元上昇を達成したという事は......これから先、私はどうなるの?」


「これで晴れてパサラミト星人になれたのですから、私が責任を持って、あなたを故郷の星、パサラミト星へとお連れ致します。そこでかつての御親族に再会なさるのも良いかと思います」


 当然の流れのように、ロカが言ったが、その言葉に対し、小夜美には疑問しかなかった。


「えっ、昔の親族にご対面するって事は......まさか、あの宿命も、そのまま今の私に受け継がれるという事なの......?」


「あの宿命とは......?」


 小夜美の心を読まずに、対話だけに徹しようとしているロカ。

 今までの成り行きから、小夜美の意図などは分かるはずだが、わざとじらしているようにしか思えなかった。


「だから、つまり......贖罪しょくざい後も、私は、老齢の隣国の王と結婚させられる運命なの?」


 それがイヤで、サーミ王女は逃避行したはずが、戻る事により、また元の木阿弥状態では、パサラミト星へ帰星するのを躊躇ためらわれた。

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