第20話 たった一度の出来事が......
休日に一日中、レベルアップの事を考えて生活したが、相変わらず、不可解なまま休みは開けて、また仕事に明け暮れる日々が始まった。
青い風船が、レジ付近の天井をフワフワと浮かんでいた。
小さい時から、息を入れても浮かぶ事が無いが、ガスを入れて浮かぶ風船に憧れを感じていた小夜美。
レジ係をしながら、天井に近付きたがっているように見える青い風船にも、つい目を奪われていた。
幼稚園の年長くらいの制服姿の女の子が、風船の紐の先をグルグル巻きにした厚紙を大事そうに握り締めていた。
その女の子を連れた母親の会計中も、小夜美は、つい視線が青い風船に奪われがちになっていて、女の子が大事そうにしている様子を微笑ましく感じていた。
女の子連れの母親が会計を済ませ、2人が去った時に、買い物時に持参していたカゴを片付けようとした時だった。
まだ1点、カゴの角に添って立てかけて有った物が倒れ、小夜美からは死角だった位置に、絆創膏が残ってた事に気付いた。
絆創膏の分の会計は、自分の落ち度だから、後から小夜美が自腹で払おうと思い、必要としているその母の姿をすぐに追った。
青い風船が目印だから、パッと見付けられた。
まだ店から出て5mほどの所で、2人を呼び止める事が出来た。
母に絆創膏を手渡そうとすると、反射的に、女の子も同時に手を伸ばした。
その時、女の子は不意に、青い風船の厚紙を手放してしまっていた。
青い風船が、空を目指すように、みるみるうちに高く上がって行った。
それを追うように、女の子が母親の手を振り払い、車道に飛び出した。
「危ない!!」
小夜美が気付き、慌てて、その女の子を歩道へと引き寄せた弾みで、今度は自分が体勢を崩して道路に転がってしまい、車に引かれそうになった。
(......私、もうダメだ!)
「ありがとうございます! 本当に、助かりました!」
(えっ......私、引かれてなかったの......?)
気付いた時には、母親から感謝されていた。
青い風船は空高く飛んで、見えないくらいまでになっていたが、無事だった女の子を手を振って見送っていた小夜美。
(私、今、どうしたのだろう......? 傷1つ無い......もしかして、今のは、ロカが助けてくれたの?)
『いいえ、私は、ただ傍観していただけです。おめでとうございます! 日頃から、あなたは他の地球人達に比べると比較的、善行が多い人でしたが、捨て身で、あの女の子を救出した事により、急速にレベルアップを遂げました! あなたは、今や、パサラミト星人の水準になりました!』
ロカの祝福の言葉が、俄かには信じられず、素通りしそうになった小夜美。
(捨て身って......別に、ただ、あの女の子を助けたい一心だけだった。こんな事で、パラサミト星人並みにレベルアップが出来ていたなんて......)
もっと長期的な修行生活が続くのだとばかり覚悟していた小夜美は、ロカの言葉で拍子抜けしていた。
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